記憶の悩みを解決したい!更年期からの脳のアンチエイジング

記憶の悩みを解決したい!更年期からの脳のアンチエイジング
セルフケア


更年期世代の代表であるヴィーナスたちが、大人のお悩みごとを専門家の先生に相談していく「お悩み解決隊」。今回は更年期に物忘れがひどくなったユミコが、更年期にも詳しい産婦人科医の牧田和也先生に、記憶の悩みを相談します。実は加齢が主な原因という「物忘れ」。どうすれば改善できるのでしょうか。



更年期の物忘れはどうして起こるの?認知症との違いは?

牧田先生(以下、牧田) ユミコさん、そうでしたか。更年期症状と同じ時期に物忘れがひどくなると、更年期だから症状が出ているのかと不安になりますよね。でも実は、「記憶力の低下」については、更年期が原因とは言い切れません。脳の細胞にもエストロゲン受容体が存在することは分かっているので、女性ホルモンの低下もその要因の一つとは考えられますが、それが女性の記憶力低下や物忘れにダイレクトに結びつくかどうかについては不明なんです。脳のメカニズムはまだまだ未知の部分が多いんですよ。

40代後半から加速したように感じる「物忘れ」は、女性ホルモンの影響もあるかもしれませんが、実際は加齢、つまり老化現象が原因の場合が多いかと思います。記憶力の低下を実感する時期が更年期と重なるので、更年期症状のような気がしてしまいますよね。記憶力に関しては、10~20代をピークに、徐々に低下していきます。若いときのほうが、理屈抜きにテスト前の丸暗記ができますが、40代以降になってそれをやろうとしても、やはり無理ですよね。大人になると、理屈をつけて系統立てて記憶しないと覚えられないものです。

牧田 そうですね、エイジングの問題とともに、更年期世代をとりまく環境…仕事に家庭に忙しくなり、やることが増えたことで、記憶に抜け漏れが出ることもあると思います。忘れてはいけないことについては、きちんとメモを取るなどの対策が必要になってくるでしょうね。

牧田 物忘れが認知症の初期段階か、というご心配ですね。女性に認知症患者が多いのは確かですが、自分で物忘れを自覚できているなら、それは認知症ではありません。認知症の患者さんは、自分で物忘れが強くなっていることを認識できておらず、周囲の人間がまずおかしいと気付きます。「最近、なんとなく変じゃない?」と周囲から言われて、初めて発覚するのが認知症です。

50歳前後の方で、若年性アルツハイマー病を発症しているというケースはまれなので、物忘れがひどくなってきたからといって認知症とはなりません。ただ、認知症にならないためにも、脳を活性化し続ける必要があると思います。

▼脳のアンチエイジングによい生活習慣をチェックする



脳を活性化させる生活習慣あれこれ

牧田 それには、まず脳に刺激を加えないといけません。「考える」ことが大切なんです。例えば、テレビやマンガを漫然と見ているだけだと、脳を使っているとはいえません。とあるスポーツ競技のある監督が「テレビのニュースを見ているときも、『自分がこの当事者だったらどうするだろうか』と常によく考えて、自分なりの考えを出すようにしている」とおっしゃっていました。そのように、漫然と暮らすのではなく、何かあるたびに常に自分なりの考えをイメージすることも、脳の活性化につながります

一方、日々忙しすぎて、常に考えてばかりの人は、逆に考えることをやめてボーッとする時間が必要かもしれません。脳の使い方にメリハリをつけましょう。

では、記憶力維持のために今日からできる、簡単な脳活のヒントをいくつかお伝えしたいと思います。


●脳の活性化に良い食生活

脳に良いとされる食品(ブレインフード)を食べることも、脳に良い方法です。薬ではないので、すぐに効果は出ないかもしれませんが、脳に良いとされる食品を長期的に摂取することで効果が期待できます

【ブレインフードの例】
大豆 、青魚、ナッツ、緑黄色野菜など

サプリメントに関しても、つい効果を焦りがちですが、サプリメントも薬ではなく即効性があるものではないので、自分に合った商品が見つかったら、効果を期待しつつ気長に摂り続けることをおすすめします。


●良質な睡眠で脳を休める

睡眠をしっかりとることは、脳の問題だけではなく、体のバランスの面からも重要です。

更年期になって、徐々に長い時間眠れなくなってきていませんか?この世代は、子どものように、8~9時間とる必要はありません。必要な睡眠時間には個人差がありますが、最低でも4~5時間は確保したいところです。

なお、睡眠学の観点からいうと、早い時間から布団に入ったものの、眠れず悶々とするより、本当に眠くなってから布団に入って寝入るほうがいいといわれています。睡眠の長さではなく質を大事にしましょう。質の良い睡眠のためには、寝る前のスマホはやめたほうがいいですよ。

また、ウィークデーの睡眠で疲れが取れないと感じたら、ウィークデーの昼休憩時に短時間の昼寝を取り入れたり休みの日に少し多めに睡眠時間を確保しましょう。

ここで気を付けてほしいのが、いくら寝ても疲れがとれない場合。更年期には倦怠感がつきものですが、いくら寝ても倦怠感が取れない場合、病気が隠れている可能性もあるので、お医者さんに相談してください。あまりに疲れが取れず、クリニックで調べたところ甲状腺機能亢進症という病気だった患者さんもいます。

●読書や大人のドリル、ゲームなどの脳トレも有効!

脳のアンチエイジングには読書も有効です。考えを巡らせながら本を読むのは、脳を刺激することになります。考えながら本を読む習慣をつけましょう。マンガや雑誌をパラパラッと見るだけでは脳は働いてはいません。脳を活性化させるためには、マンガであっても書かれている内容をしっかり読むなど、能動的に「読む」姿勢が大切だと思います。

また、いわゆる大人のドリルや計算ドリル、脳トレゲームなど、日々の生活のなかに取り入れていくこともよいでしょう。毎日30分でも1時間でもコンスタントに続けられたら、脳にはプラスですよ。手芸や塗り絵など、手先を使うことも脳の刺激になるので、趣味がてら始めてもよいかもしれません。

●喫煙やアルコールはほどほどに

喫煙は過去のデータからみても、脳や体にとって、さまざまな面でマイナス要因しかありません。すぐに禁煙できなくても、段階的にやめることが望ましいと思います。

また、アルコールの過剰摂取は、脳の細胞にも影響するということは昔からいわれています。お酒を完全に飲まないようにするまでは必要はありませんが、摂るとしても適度な量にしましょう。自分のなかで例えば1日にワイン1杯とか基準を決め、週に何日かは休肝日を設定するのがおすすめです。

ちなみに、睡眠学の面からは「お酒を飲んで眠くなって寝よう」というのはNG習慣です。最初はぐっすり眠れたと思っても、だんだん慣れてしまって同じアルコール量で眠れなくなり、酒量が増えるのでおすすめできません。

●日常生活に運動要素を取り入れよう

日々の適度な運動習慣も、脳のパフォーマンスにいい影響を与えます。運動は脳を休ませてリフレッシュさせる効果があるので、気分転換にいいんです。毎日、ジムなどに行って運動するのが理想ではありますが、更年期世代の方は基本的に忙しいので、ジム通いができない人も多いと思います。そこでおすすめしたいのが「ながら運動」。通勤中にエレベーターやエスカレーターを使うところを、階段を使って上り下りする、歩くために通勤ルートを変える。また家事をしながら体を動かすようにするだけでもOK。

更年期世代以降は、積極的に体を動かすと、脳だけでなく将来の骨粗しょう症の予防にもなります。万歩計をつけていると、歩くモチベーションが湧くかもしれませんね。



「しまった、忘れてた」を返上!忘れっぽさ改善のヒント

牧田 忘れてはいけないことはメモする。これに尽きると思います。ただ、メモを取るにもコツがあるんですよ。

●物忘れにはメモで対策を。1カ所に集約すること

うっかり忘れてしまう状況を改善したいなら、メモを取ることで記憶力を補うのが最善の方法。若いときは頭のなかで記憶できたスケジュールも、更年期になるとだんだん覚えることが難しくなってきます。僕は、デスクにボードを置いて、備忘録的になんでもとりあえず書き込み、そのあと手帳に大事な情報を転記しています。ポイントは「複数の場所に分散してメモせず、1カ所に集約する」こと。

まとめる場所は、大きめのノートでもスケジュール帳でも、スマホのメモでも構いません。ただ、「仕事のことはこっちに、家庭のことはあっちにメモしておこう」と書く場所を分散させてしまうと、メモの存在や置き場所を忘れてスケジュールに抜け漏れが起きる可能性があります。すべてを1つの箱やノートに集めておけば、最悪そこだけを探せばいいと思えるので、作業も気持ちも楽です。

●脳に過度なストレスをかけない

ストレスがどれだけ脳に影響を与えるかも、まだ明らかになっていない部分は多いのですが、ストレスがないほうが頭のなかも整理されます。日々、タスクが多くて仕事に追われているのなら、脳がキャパオーバーになっている可能性もあります。

更年期は自分のこと、家族のこと、やるべきことが多い年代です。まずは本当にやらなくてはいけないことが何なのか、きちんと優先順位をつけて、要領よくこなしていくようにしましょう。脳に負担をかけすぎないようにするのも大事だと思います。

●着手しやすいタスクからどんどん終わらせる

仕事やタスクには、それぞれ締め切りや期限があると思いますが、たとえ締め切りが先でも、10分で終わるタスクはさっさと終わらせることができると頭がスッキリします。

締め切りが近い重いタスクから順にこなそうとしていると、「あれもこれも、この日までにやらないといけないのに全く終わっていない」と焦って、余計に頭が回らなくなってしまいがちです。

比較的簡単なタスクは、締め切りが後であってもササッと処理してしまいましょう。タスクが一つでも減れば、「あれもこれも仕上げなくてはいけない」という気持ちから解放されてほっとできます。

更年期世代は疲れやすく、夜は眠気が襲って仕事にならなくなってしまうものです。1日のうち、元気に作業できる時間が昔より少ないのですから、時間を有効活用するために、仕事やタスクには柔軟に対処することをおすすめします。




更年期からの脳のアンチエイジングで人生100年時代に備えよう

牧田 人間のみならず生物体の加齢変化を完全に阻止することはできないので、まず広い意味で「加齢」を受け入れて、そのなかで少しでもその速度を遅くするための対策を考えていくということかと思います。それがアンチエイジングの基本ですよね。

最近、人生100年時代という言葉が出てきていますが、仮に100歳まで生きられたとしても、心身ともに健康でなければ、喜ばしいこととは言えないと思います。100年生きるために最も大事なことは、フレイル(筋力や心身が衰えて介護が必要になりやすい状態)の予防と認知症の予防にあると思います。そういう意味で、更年期世代から脳のアンチエイジング対策をすることは非常に重要です。

人生100年時代という尺度からみると、更年期は人生後半50年のまさにスタートラインです。100歳まで楽しく健康で元気に過ごすために、更年期からの脳のアンチエイジングを始めていきましょう。



牧田和也先生
牧田産婦人科院長
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、日本頭痛学会専門医。慶應義塾大学病院婦人科外来(更年期外来)で、開設(1991年)時から2017年まで20余年にわたって診療に従事するとともに、さまざまな病院の産婦人科科長を歴任。大学病院や市中病院での診療経験を生かして、母親の開設した牧田産婦人科を継いで2008年から院長に就任する。更年期医療(更年期障害、骨粗しょう症、脂質異常症)が専門で、近年は月経困難症、女性の機能性頭痛、月経前症候群の治療にも力を入れている。

ユミコ
48歳。夫との2人暮らし。自営業をしながら、自分時間も楽しんでいる。2年半前から足のしびれや股関節の痛み、胃の不調を感じている。生理周期が短くなった影響で貧血や立ちくらみの症状があるほか、動悸や汗も頻発。冷え性もひどくなってきている。

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