閉経後に増える膀胱炎の原因と対策について

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~更年期以降、繰り返しやすい膀胱炎。女性ホルモンとの関係は?~

更年期以降、デリケートゾーンの悩みを訴える人は少なくありません。その一つが、トイレの悩みです。「膀胱炎」は、女性の尿道が短いために、男性と比べて、女性がかかりやすい病気といわれます。また、膀胱炎ではないけれど、それに似た症状を抱えて悩んでいる人も多いようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、膀胱炎と新しい病気の概念「GSM」についてお話を伺いました。

女性が膀胱炎になりやすいのはなぜ?
膀胱炎の症状と治療法は?
おすすめの食品やサプリメントは?


女性が膀胱炎になりやすいのはなぜ?

―女性は男性よりも、膀胱炎になりやすいと聞きます。なぜなのでしょう。

寺内先生(以下、寺内) こちらのイラストを見ていただくと、よく分かると思うのですが、女性はからだの構造として、尿道の近いところに、肛門があります。また、尿道そのものも、3~4センチほどしかなく、肛門などから出てきた細菌(大腸菌など)が、入り込みやすい構造になっています。

対して男性は、陰茎があり、尿道口と肛門は離れています。そして、尿道そのものも15~20センチありますので、それが細菌の侵入を防ぐバリアとなって、その繁殖を防いでいるのです。

女性

男性


―確かに、男性と女性とでは、尿道口の位置や尿道の長さなど、臓器の形が違いますね。

寺内 大腸菌などの細菌は、肛門の周りにいますので、尿道口と肛門が近い女性の場合、膀胱炎の再発を繰り返しやすい面があります。

また、閉経後は、女性ホルモンのエストロゲンが低下して、「腟の自浄作用」が失われますので、このことによっても、尿道が汚染されやすくなります。女性は、性交渉の後に膀胱炎になりやすいことも知られています。


腟には自浄作用があります

―腟には自浄作用があるのですか? 詳しく教えてください。

寺内 健康な腟には乳酸菌が常在していて、腟内のpHを4前後の酸性に保ち、細菌の増殖を抑えています。そのことを「腟の自浄作用」といいます。

腟の粘膜には、エストロゲンの作用で、グリコーゲンをたくさん含んだ上皮細胞があります。上皮細胞がターンオーバーによって剥がれ落ちると、乳酸菌は、上皮細胞に含まれるグリコーゲンを利用して、乳酸代謝を行います。

腟は、赤ちゃんを育む子宮とつながっていますので、赤ちゃんを細菌から守るために、このような特別な仕組みが発達しているのです。

―そうなのですね。知りませんでした。

寺内 けれども、そうした自浄作用は、エストロゲンが分泌されている間に限られます。閉経を迎えてエストロゲンが減少すると、常在菌である乳酸菌も減少。腟の自浄作用が低下することにより、「非常在菌」である腸内細菌などが繁殖しやすくなります。つまり、閉経後の尿道は、非常在菌にさらされやすくなるのです。



膀胱炎の症状と治療法は?

―膀胱炎になると、どのような症状が現れますか。

寺内 主な症状に、「頻尿」「排尿終末時痛」「残尿感」があります。

「頻尿」は、膀胱炎の場合、トイレに行きたくなって行っても、尿が少ししか出ないということが増えます。 というのは、私たちは、「膀胱に尿が十分に溜まった」というシグナルを受けてトイレに行きたくなるわけですが、膀胱炎では、尿が膀胱に溜まっていなくても、別の刺激(膀胱の炎症)を受けてトイレに行きたくなるからです。

「排尿終末時痛」は、膀胱の粘膜に炎症が起きていますので、尿が出て膀胱がギューッと縮まり、尿を出し終わるときに痛みを感じます。

「残尿感」は、トイレに行ったばかりだけれど、すっきりと出しきれていない感じがして、またトイレに行きたくなります。

―膀胱炎の治療法を教えてください。

寺内 膀胱炎の治療では、原因となっている細菌と、その細菌に効果のある抗生物質の見極めが大切になります。尿検査を行い、膀胱炎かどうかを診断し、同時に尿培養も行って、適切な抗生物質を選択します。尿検査の結果はすぐに出ますが、尿培養の検査結果が出るには数日かかります。

ただし、細菌性の膀胱炎の場合、必ずしも抗生物質を服用しなければならないわけではありません。というのは、ヒトのからだには、自然治癒する力があるからです。淀んでいるところに雑菌が繁殖しやすくなりますので、お水をたくさん飲んで、尿をたくさん出し、尿道の雑菌を洗い流すことで、治っていくケースもあります。

―日常生活では、どのようなことに気を付けると良いのでしょうか。

寺内 ひとことでいえば、デリケートゾーンの清潔を保つことです。今お話しした、

●水分をきちんと摂って尿で尿道の雑菌を洗い流す 
●清潔な下着をつけ、パッド類は汚れたらこまめに取り換える 
●トイレで肛門を拭くときは、大腸菌が尿道口につかないように、前から後ろに向かって拭く 
●尿道口を拭くときは、トイレットペーパーを折り畳み、軽く押し当てて尿を吸収させる(ごしごしこすると、外陰部が傷つき炎症を起こすことがあります)

などを心がけると良いと思います。
また、閉経前は、先ほどお話した「腟の自浄作用」がありますので、洗い過ぎは逆効果になることがあります。性交渉の前後はデリケートゾーンを洗うことも大切です。



おすすめの食品やサプリメントは?

―食品などで、膀胱炎の予防が期待できるものはあるでしょうか。

寺内 「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015」には、「50 歳以上の女性においてクランベリージュースの有効性が報告されており、65%飲料を1日1回飲用することによりプラセボと比較して有意に再発を抑制する」とあります。膀胱炎は再発しやすい病気ですので、予防を心がけることは重要です。

―クランベリー65%のジュースが、膀胱炎の再発予防に役立つのですね。クランベリージュースは甘酸っぱくておいしいので、毎日の習慣にしやすいですね。

更年期に摂りたい成分/クランベリー

クランベリー



閉経後女性の生活の質を上げる新しい概念「GSM」

―最後に、近年注目されている「GSM」について教えてください。

寺内 「GSM」は、Genitourinary Syndrome of Menopauseの略語で、「ジー・エス・エム」と読みます。2014年に、国際女性性機能学会と北米閉経学会によって提唱された概念で、閉経後女性の泌尿生殖器に関わる不快な症状や病気全般を指します。日本語訳としては「閉経関連泌尿生殖器症候群」が使われていますが、見直しの動きもあるようです。

GSMの症状は大きく3つあります。

●外陰や腟の萎縮による乾燥、かゆみ、臭いなどの不快な症状 
●性交痛や出血などの性的な症状 
●頻尿、尿漏れ、膀胱炎などの下部尿路症状

です。それらを、閉経後にエストロゲンが低下することによって起こる「慢性かつ進行性の泌尿生殖器の病気」と捉えて治療し、生活の質を上げていきましょう、というものです。

―GSMが提唱される前は、こうした問題は、どのように捉えられていたのでしょう。

寺内 GSMが提唱されるずっと前から、腟が乾燥したり萎縮したりして炎症を起こす「萎縮性腟炎」の治療は行われてきました。けれども、腟の治療だけをするのではなく、もう少し大きな枠組みで捉えていきましょう、というのがこの概念です。

―膀胱炎もGSMのひとつなのですね。

寺内 そうです。更年期(おおむね45~55歳)は、エストロゲンがゆらぎながら減少していく時期ですし、腟の自浄作用もありますので、細菌性の膀胱炎にはなりにくいと思います。

けれども、更年期以降は、エストロゲンの分泌が低下するため、割合早い時期に腟や尿道の粘膜の萎縮が起こります。また、膀胱炎ではないけれど(尿検査で細菌は検出されないけれど)、膀胱炎に似た症状を訴えられる方も多くいらっしゃいます。尿失禁や過活動膀胱などの病気、あるいは、基礎疾患である糖尿病や膀胱がんなどでも、膀胱炎に似た症状を感じることがあります。

膀胱炎や腟、外陰部のトラブル、膀胱炎に似た不快な症状が長引く場合は、がまんせずに、早めに医師の診察を受けてほしいと思います。

―女性は、平均寿命から考えますと、更年期以降の人生が30年以上あります。GSMは、周囲に打ち明けにくい症状ですが、治療することで不快な症状を和らげて、生活の質を保つことは大切ですね。今回も、貴重なお話をありがとうございました。



寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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