更年期に気をつけたい病気/子宮がん② 子宮体がん
「子宮がん」は、更年期に気をつけたい病気の一つです。正しい知識を身に付けることが、がん予防の第一歩になります。前回の「子宮頸がん」に続き、今回は「子宮体がん」について、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生にお話を伺いました。
子宮体がんはどんな病気?
―前回は「子宮頸がん」についてお話しいただきました。今回お話しいただく「子宮体がん」は、子宮頸がんとは性格が大きく異なる、ということですが、どのような病気なのですか?
寺内公一先生(以下、寺内) 「子宮頸がん」も「子宮体がん」も、どちらも子宮にできるがんです。子宮体がんは、子宮体部にできるがんで、主に子宮内膜にできます。初期の自覚症状は不正出血です。進行すると、子宮内膜だけでなく、子宮の筋層や子宮頸部、リンパ節、卵巣などへもがんが広がります。
子宮体がんになる人はどれくらいいる?
ーどれくらいの方が子宮体がんにかかっているのですか?
寺内 日本では、毎年約1万8000人の女性が子宮体がんと診断され、約2,600人の方が亡くなっています。
子宮体がんの患者数は、近年増加傾向にあり、亡くなる方も増えています。閉経前の40代から発症が増えはじめ、50代60代に多くなります。
全国がん罹患データ(2016年~2020年)
データソース 全国がん登録
出典 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
をもとに、グラフは編集部が作成
全国推計値:がん罹患データ(1975年~2015年)
データソース 地域がん登録全国推計値
出典 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計〈MCIJ〉)
全国がん罹患データ(2016年~2020年)
データソース 全国がん登録
出典 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
全国がん死亡データ(1958年~2022年)
データソース 人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報部)
出典 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
をもとに、グラフは編集部が作成
なぜ、子宮体がんは更年期世代に多いの?
―更年期世代の女性は子宮体がんになりやすいようです。なぜなのでしょうか?
寺内 40代を迎えて、卵巣の機能が衰え始めることと関連します。
2種類の女性ホルモンのうち、エストロゲンは、子宮内膜を増殖させるほうに働き、プロゲストーゲンは子宮内膜を分化させるほうに働きます。
つまり、2種類の女性ホルモンのバランスがとれていることで、子宮内膜の環境が安定しているのです。
けれども、若いときに月経が不規則だった方や、閉経が近づいてきた方のなかには、ホルモンバランスが乱れて、排卵が上手く起こらない方がいらっしゃいます。
排卵が起こらないと、黄体が形成されず、プロゲストーゲンが減少しますが、エストロゲンは閉経まで分泌され続けます。すると、ずっとエストロゲンにさらされることになり、子宮内膜が異常に増殖し続け、子宮内膜増殖症というがんになる前の病態を経て、子宮体がん発生のリスクが高まるのです。
更年期のホルモン補充療法の治療においても、子宮がない方は、エストロゲンのみの投与を選択できますが、子宮がある方には、プロゲストーゲンも必ず投与します。それは、2種類の女性ホルモンのバランスを保ち、子宮内膜症や子宮体がんのリスクを上げないようにしているのです。
―子宮体がんは近年増加傾向にある、ということですが、女性ホルモンの影響以外に、どのようなことが考えられるのでしょうか?
寺内 推測ということになりますが、一つは、体脂肪との関連です。子宮体がんは、女性ホルモンのエストロゲンに強く依存します。
体脂肪とエストロゲンがどのように関連しているのかといいますと、脂肪組織には、アロマターゼという酵素があり、男性ホルモンを女性ホルモンに変換する働きがあります。つまり、体脂肪が多い方は、産生されるエストロゲンが多いということです。
このように、子宮体がんが増えている背景には、生活の欧米化や生活習慣病の増加(肥満、高血圧、糖尿病)、つまり、体脂肪の増加があるのではないかと考えられているのです。
―生活習慣病との関連があるのですね。生活習慣病の予防は、子宮体がんの予防にもなりますか?
寺内 エビデンスがあるわけではありませんが、肥満や高血圧、糖尿病が、子宮体がんのリスクを高めますので、そうしたことから考えると、生活習慣病の予防は、子宮体がんの予防にも、つながるかもしれません。
―肥満は万病の元、といわれますので、健康のために、太り過ぎないようにしたいと思います。
寺内 そしてもう一つ、子宮体がんは、妊娠や出産の経験のない方に多い傾向があります。
妊娠、出産と子宮体がんが、どのように関連するのかというと、月経の回数と関係してきます。
私たちの体は、約60兆個の細胞からできていますが、これらの細胞は新陳代謝によって、絶えず入れ替わっています。細胞分裂によって複製を作り出し、古い細胞が新しい細胞に置き換わっているのです。けれども、細胞が分裂する際に、複製上のエラーが起こることがあり、それががんの原因となります。
妊娠、出産の約10カ月間と授乳中は、月経はありませんが、そうでない場合、月経はずっと繰り返し続きますので、子宮内膜が増殖しては剥離することを繰り返し、複製上のエラーが起きる確率を高めることになります。
こうしたことを踏まえて、更年期を迎えて、ご自身の体脂肪が多めで、妊娠、出産の経験がない場合は、子宮体がんになるリスクが高くなることを、認識しておくことが大切です。
―月経回数との関連があるのですね。100年ほど前までは、子どもを複数人、4~5人ほど産む方はめずらしくなく、母乳も2~3歳頃まで与えていたと聞きます。1人子どもを産むと、2~3年は月経がないことになり、トータルで10年~10数年間、月経のない期間があったことになります。そう考えますと、現代女性の月経回数は、昔の女性と比べて多いのですね。
子宮体がんの初期症状は?
―子宮体がんの初期症状を教えてください
寺内 子宮体がんの初期症状の多くは、不正出血という形で見つかります。月経以外の期間や閉経後に出血が見られたら、そうした変化を見逃さずに、早期発見につなげてほしいと思います。
ただし、不正出血といっても、ごく少量の出血、少量の血が混じった褐色のおりもの、という形で現れることもあります。
―不正出血と気がつきにくい場合があるのですね。
寺内 はい。出血の量にかかわらず、いつもと違う、気になる症状がある場合は、できるだけ早く、子宮がんに詳しい婦人科を受診しましょう。
子宮体がんは早期発見が大切です
寺内 悩ましいのは、更年期世代の女性も、閉経に向けてホルモンバランスが変化し、月経不順や不正出血が見られることです。「更年期の症状だろう」と自己判断してしまうと、早期発見の機会を逃してしまいます。
―子宮体がんの不正出血と、更年期の不正出血を見分けるポイントはありますか?
寺内 区別することは難しいです。ですので、女性は40代以降に不正出血が見られたら、早めに婦人科を受診して、子宮体がんの細胞検査を行いましょう。
細胞検査は、子宮内膜を擦り、剥脱した細胞を顕微鏡で観察します。細胞を取る処置は、1分ほどで終わります。その後、超音波検査で子宮内膜の厚さを確認します。1~2週間後、細胞診の結果が陰性であることが確認できれば、更年期の不規則な出血と考えていきます。
―今起きている不正出血が、更年期症状だと見極めるためにも、そのままにしないこと、自己判断しないことが大事ですね。
子宮体がんの治療について
―子宮体がんの治療にはどのようなものがありますか?
寺内 基本的な治療法は、手術療法になります。がんを取り除くために、子宮を摘出する手術を行います。がんの広がりを確認するために、リンパ節を切除することもあります。
子宮の周囲をどれくらい切除するかは、がんの広がりやどれくらい進行しているかによって異なります。切除する範囲が広くなるほど、子宮周囲の臓器を傷つける可能性があり、また術後にリンパ浮腫などが起こりやすくなります。
―前回と今回、子宮頸がんも子宮体がんも、早期発見が大切ということがよく分かりました。気になるときは、自己判断せずに、早めに受診したいと思います。今回も貴重なお話をありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
寺内 公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授
▼詳しいプロフィールを見る
<インタビュアー>
満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。