更年期以降に増えるデリケートゾーンのかゆみ

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更年期以降は、女性ホルモンの分泌量が低下し、外陰部のかゆみ、腟の乾燥、出血、おりものの異常、性交痛といった不快な症状が現れやすくなります。相談しにくいテーマだけに、1人で抱えてしまう人も少なくありません。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期のデリケートゾーンの悩みについて伺いました。



更年期に増えるデリケートゾーンのかゆみ、その原因は

寺内公一先生(以下、寺内) 更年期以降の方の場合、原因として「外陰腟萎縮」という疾患が考えられます。更年期を迎えると、心身にさまざまな症状や疾患が現れやすくなりますが、なかでも外陰腟萎縮は、比較的早く現れる疾患の一つです。

エストロゲンの変化


寺内 更年期にエストロゲンの分泌量が波打つようにゆらぎながら少なくなると、それに伴って外陰部や腟が萎縮し、また水分保持量が低下して乾燥します。

閉経前は、エストロゲンの作用で、腟粘膜の上皮細胞には、グリコーゲン(筋肉や肝臓にもためられている炭水化物)が多く含まれています。例えば、肌の古い角質が自然に剥がれ落ちるように、腟の上皮細胞も腟内に剥がれ落ちます。すると、腟にいる常在菌がそれを栄養として代謝します。

その代謝によって腟内のpHが酸性に保たれ、常在菌以外の菌が生育しにくい環境がつくられます。体の構造として、腟が子宮とつながっており、なおかつ、肛門の近くにあることから、感染症が起こりにくい自浄作用のシステムが発達したと考えられます。

女性の下腹部の構造

けれども、閉経後にエストロゲンが低下すると、腟の上皮細胞に含まれるグリコーゲンの含有量は低下します。すると、常在菌が減少して、腟内のpHは上昇します。腟の自浄作用が失われるため、常在菌以外の菌が増加しやすい環境となり、細菌性腟炎が起こりやすくなります。また、腟の粘膜が薄くなって出血しやすくなります。



外陰腟萎縮の症状について

寺内 自覚症状としては、外陰部のかゆみ、腟の乾燥、出血、おりものの異常、性交痛などがあります。腟の雑菌による尿路感染(尿道で炎症が起きること)や、その影響による頻尿や尿もれも現れやすくなります。

寺内  45~55歳のオーストラリア人女性438名を7年間追跡した調査※1では、後期閉経移行期(月経の間隔が2カ月以上空く)では約20%の方に、閉経後1年では約25%の方に、閉経後2年では約30%の方に、そして閉経後3年では約50%の方に、腟の乾燥感があると報告されています。

寺内 また、別の研究になりますが、アメリカ人女性8,081人を対象にした調査※2では、閉経後女性の38%の方に外陰腟萎縮があり、そのうち55%の方に腟の乾燥感が、44%の方に性交痛の自覚があると報告されています。

寺内 はい。当院の更年期外来を受診されている患者さん1,464名を対象にした調査※3では、性交痛の強い痛みを感じる方は、閉経前は7.1%、閉経移行期は10.5%、閉経後は14.6%と増えていることが分かりました。また、ホルモン補充療法を行うと、強い痛みを感じる方が7.8%になり、閉経前と同じくらいの割合に戻ることも分かりました。

同じ調査※3で、閉経後の年数によって、性交痛に悩む人の割合がどのように変化するのかも調べました。強い痛みを感じる方の割合は、閉経後2年未満では12.1%、閉経後2~5年では18.8%、閉経後5~10年では13.3%、閉経後10年以上では11.9%でした。

寺内 はい。閉経後2~5年が一番多いという結果になりました。これは、閉経後に性交をしない方が増えていくためと考えられます。

また、多変量解析を行い、性交痛が何に関連しているのかを検討してみたところ、BMI値が高い方、体脂肪率が高い方は、性交痛に対して負に相関していることが分かりました。

寺内 そうです。エストロゲンは卵巣から分泌されていますが、体脂肪からもごく少量産生されています。そのため、閉経後に体脂肪率が高い場合、そのことが性交痛にも影響するのではないかと推察されます。

寺内 エストロゲンの低下に伴う泌尿生殖器の変化は、更年期、更年期以降の女性にとって大きな問題といえます。


※1 Dennerstein 2000 Obstet Gynecol 96:351
※2 Freedman 2014 Women’s Health 10:445
※3 Terauchi 2022 J Obstet Gynaecol Res



新しい概念GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)とは?

寺内 外陰腟萎縮、または萎縮性腟炎は、エストロゲンの低下による外陰、腟、下部尿路の変化を示す用語として長く用いられてきました。けれども、実際には、炎症が主な症状ではないこと、頻尿など外陰腟萎縮に関連した不快な症状もあること、そして、閉経に伴って起こることが言及されていないことなどから、より適切な表現として、「GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)」が提唱され、用いられ始めています。

GSMは、Genitourinary Syndrome of Menopauseの略です。エストロゲンの低下に伴って起こる外陰や腟の萎縮性変化であり、自浄作用の低下によって細菌性腟炎が生じやすく、性交時に不快感が生じるなど性的な問題も含めた用語で、泌尿器と生殖器の両方に関わる症状を指します。



デリケートゾーンのセルフケアについて

寺内 保湿については、市販のモイスチャライザー(常時使用)と、リューブリカント(性交時のみ使用)があります。水溶性、脂溶性の違いや、成分もさまざまありますので、自分に合うものをご購入されると良いと思います。

寺内 清潔を保つことは大切ですが、洗い過ぎはかえって良くありません。たまに、洗い過ぎているために炎症が起きていると思われる方もいらっしゃいます。刺激を与えないという点では、デリケートゾーン専用の石けんを利用するのも良いと思います。

寺内 栄養バランスのとれた食事をしっかり摂ったうえで、GSMも更年期障害の一つですので、女性ホルモンの働きに近いような栄養素を意識して摂ると良いと思います。

例えば、大豆イソフラボンという成分は、植物性エストロゲンとも呼ばれ、体内でエストロゲンに似た働きをすることが知られています。豆腐や納豆、豆乳などの大豆製品に含まれています。



医療機関を受診する目安は?

寺内 閉経後に出血がある、性交痛がある、おりものに異常(量や色、臭い)がある、かゆみが続くような場合はGSMを疑います。もし、市販の保湿剤や抗炎症薬を使っても、症状が続く場合は、ためらわずに婦人科を受診していただければと思います。

寺内 外陰部のかゆみ、腟の乾燥、出血、おりものの異常、性交痛は、独立している問題ではなく、GSMという言葉が表しているようにつながっています。

更年期を迎えると女性の体と心は大きく変化します。そうしたことに理解の深い婦人科や更年期外来であれば、閉経後の泌尿生殖器の違和感や不快感についても、相談しやすいのではないでしょうか。



デリケートゾーンの治療について

―医療機関を受診した場合、GSMの治療にはどのようなものがありますか?

寺内 治療としては、エストロゲンを全身投与する、ホルモン補充療法があります。飲み薬、貼り薬、塗り薬がありますので、医師と相談しながら、ライフスタイルにあったものを選びましょう。

エストロゲンの全身投与を希望しない場合は、日本ではエストロゲンの局所投与薬、エストリオール(E3)腟錠を選ぶこともできます。1日1回0.5~1.0mgを腟内に挿入します。性交痛の改善が期待できます。

局所投与の利点は、血清E2(エストラジオール)が上昇しないところです。全身的なホルモン補充療法は、閉経後10年以上の方には積極的には行いませんが、局所投与では、エストロゲン全身投与による合併症のリスクを考えなくて済みます。

局所投与の薬は、日本ではエストリオール(E3)腟錠のみですが、諸外国には、腟座薬以外にもさまざまな薬があります。

寺内 ご高齢であっても、腟の萎縮に伴う出血、かゆみ、おりものの異常などがある場合は、エストリオール(E3)腟錠を処方します。治療方法の一例になりますが、腟の洗浄、エストリオール(E3)腟錠の挿入、抗生物質クロラムフェニコール腟錠の挿入を行います。


寺内公一先生

寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

満留礼子

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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