専門医に聞く、ホットフラッシュの原因と対処法

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更年期に多くの人が経験するのが、血管運動神経症状(ホットフラッシュ<ほてり・のぼせ>や発汗)です。最新の研究や調査によって、ホットフラッシュが引き起こされるメカニズムがわかってきました。そこで今回は、更年期の専門家である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、ホットフラッシュについてお話を伺いました。更年期を上手に乗り切るヒントがいっぱいです!

<エストロゲンが減少すると、なぜ体温調節がうまくいかなくなるの?>

―更年期に多くの人が経験する症状のひとつに、ホットフラッシュがあります。どのような仕組みで起こるのでしょうか。

寺内公一先生(以下、寺内) 更年期(おおむね45~55歳)を迎えると、卵巣機能が低下し始めます。すると、エストロゲンの分泌量が少なくなり、波打つようにゆらぎながら、あるときは多く分泌したり、またあるときは少ししか分泌されなかったりということを繰り返して、少しずつ減っていきます。

このゆらぎの時期に現れる代表的な症状のひとつが、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗といった血管運動神経症状です (血管運動神経症状=Vasomotor Symptoms以下「VMS」と表記)。

私の外来で調べたところ、外来に来られる方のおよそ半数に、更年期に伴うVMSの症状が見られました。多い方ですと、1日に10回も20回もホットフラッシュの症状が現れる方もいました。

―顔が急に熱くなったり、のぼせて顔が赤くなったり、滝のように汗が出て止まらなくなったり…といった症状ですね。一日に何度も症状が現れるのはつらいですね。更年期に伴うVMSについてもう少し詳しくお伺いしたいのですが、“血管が運動する” とは、どういうことなのでしょう。

寺内 “血管が運動する”とは、血管が拡張したり、収縮したりするという意味です。自律神経の交感神経がそうした血管の運動を制御していて、
αアドレナリン受容体が活性化されると血管が収縮し、βアドレナリン受容体が活性化されると拡張して、体温を一定に保つように働いています。

例えば、寒くなると肌が青白くなったり、逆に暑くなると顔が赤くなったりしたことがあると思いますが、皮膚のすぐ下には、体温調節をするための細かい血管が張り巡らされていて、寒くなると血管が収縮して、からだの熱を逃がさないようにし、暑くなると血管が拡張してからだの熱を逃がしているのです。

―そうした血管の運動が、ホットフラッシュにつながるのですね。体温調節は生きるうえで欠かせない機能ですが、それが間違ってしまうということでしょうか。

寺内 間違うというよりは過敏になるということでしょうか。温度を一定に保つ仕組みを、冷蔵庫などの温度を一定に保つしくみになぞらえて、“サーモスタット”と呼んだりしますが、更年期のホットフラッシュを引き起こす有力な仮説に、「サーモスタット仮説」(Archer 2011 Climacteric)があります。

体温のサーモスタットのスイッチは、深部体温が変化することで入ります。

深部体温とは、脳や心臓など、からだ内部の温度のことです。脳や心臓などの臓器は、生命維持にかかわる部位なので、その働きを保つため、深部体温は一定に保たれています。

―どのようにして一定に保っているのですか。

寺内 例えば、深部体温が高くなってきたら、それ以上高くならないようにサーモスタットのスイッチが入って、汗をかいて熱を逃がすようにします。

逆に、深部体温が低くなってきたら、それ以上低くならないように、からだを震わせて体温を上げるようにします。

このような形で、からだは深部体温を一定に保っていて、その「閾値(しきいち)」のことを「サーモニュートラルゾーン」と呼んでいます。

ところが、更年期を迎えると、このサーモニュートラルゾーンが極端に狭くなり、わずかに深部体温が上がっただけなのに、サーモスタットのスイッチが入って、それほど暑くもないのに、汗をどっとかいたり、顔が赤くなったりということが起こると考えられています。

 

<「ホットフラッシュ」のカギを握るのは「KNDyニューロン」>

―更年期になると、なぜサーモニュートラルゾーンが極端に狭くなってしまうのでしょう。

寺内 エストロゲンの分泌量が低下するとサーモニュートラルゾーンが狭くなることは、以前からわかっていたのですが、なぜそうなるのかまでは、よくわかっていませんでした。

ところが、2010年くらいから、どうやら「KNDy(キャンディ)ニューロン」が深く関わっているらしいということがわかり始めて、世界中で研究が進められてきました。

―KNDyニューロンとはどういうものですか?

寺内 少し専門的な話になりますが、「KNDy ※」は、キスぺプチン(Kisspeptin)のK、ニューロキニン(Neurokinin)のN、ダイノルフィン(Dynorphin)のDy、それぞれの頭文字で、それらは脳の視床下部の弓状核というところから分泌されています。

KNDyニューロンは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を研究する過程で見つかったものですが、アメリカの研究で、KNDyニューロンが、月経周期をつくるおおもとであるGnRHの分泌を促すことが発表されました。

そして、ラットを使った実験でも、KNDyニューロンをなくしたラットは、暑くても寒くても、血管の拡張や収縮が起こりにくくなるということがわかりました。つまり、KNDyニューロンが体温調節の中枢に影響を与えていることもわかってきたんですね(Mittelman-Smith 2012 PNAS)。

さらに、別のアメリカの研究ですが、閉経後の女性を対象にした、血管運動神経症状(VMS)をもつ人のゲノム解析を行ったところ、KNDyニューロンに関する遺伝子の変異が関係していることがわかりました(Crandall 2017 Menopause)。

―さまざまな研究の成果によって、エストロゲンの分泌量が低下した後、体温調節がうまくいかなくなるメカニズムに、KNDyニューロンが深く関わっていることがわかってきたのですね!

 

<ホットフラッシュに特化した新薬の研究・開発が進んでいます>

寺内 KNDyニューロンの研究が進むことで、今、ホットフラッシュに特化した新薬の開発が世界中で行われています。

いずれ、ホットフラッシュに特化した薬が完成して、実際に使われるようになるのではないかなと思います。

―年齢制限や乳がんなどでホルモン補充療法が受けられない方や、今の治療でホットフラッシュがなかなか改善しない人にとって朗報ですね。注目していきたいです。今日も貴重なお話をありがとうございました。次回は「更年期以降も症状が続く人はおよそ2割」について掲載予定です。

※キャンディニューロン
K: Kisspeptin(キスペプチン、KISS)
N: Neurokinin(ニューロキニン、NK)
Dy:Dynorphin(ダイノルフィン)
視床下部に局在する神経ペプチドの頭文字をとっており、神経ペプチドを合成(分泌)する神経のこと。


寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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