LDLコレステロール値と女性ホルモンの関係<前編>

学ぶ

これまでと生活を大きく変えたわけではないのに、閉経後の健診で高いコレステロール値が出て慌てた、という人は少なくないようです。そこで今回は、更年期の専門家である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、「更年期とコレステロール値の関係」についてお話を伺いました。更年期を上手に乗り切るヒントがいっぱいです!

①-1更年期とLDL数値の関係

<コレステロールはからだのなかでどのような働きをしているのでしょうか>

―コレステロールという言葉は、日頃よく見聞きしますが、からだのなかでどのような働きをしているのか、と聞かれるとよくわからないところがあります。基本的なところから教えていただけますか。

寺内公一先生(以下、寺内) わかりました。ごく簡単な説明になりますが、コレステロールとは脂質の一つで、からだのなかでさまざまな働きをしています。例えば、私たちのからだは、約60兆個の細胞からできていますが、コレステロールはその細胞膜の材料として使われています。また、エストロゲンなど各種ホルモンや神経細胞、脳の材料の多くもコレステロールです。免疫力や健康を保つうえでも重要です。

―そうなのですね。コレステロールと聞くと、からだにあまりよくないものというイメージがありましたが、命や健康を保つうえで欠かせない成分なのですね。

寺内 ただ、バランスがとても大切で、コレステロールの量は、多すぎても、少なすぎても良くありません。

―コレステロールのバランスはどのように保たれているのですか。

寺内 私たちのからだにはもともと、コレステロールを調節する仕組みが備わっています。肝臓で合成されたコレステロールは、血液にのって、からだのすみずみに運ばれますが、コレステロールは脂質ですので、水と油の関係のように、そのままでは分離して血液になじみません。そこで、血液となじみやすいリポタンパク質(タンパク質の一種)という小さな粒子のなかに入って運ばれます。

―そうなのですね。健診の結果に「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」という項目がありますが、コレステロールにはいくつか種類があるのですか。

寺内 そういうことではありません。「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」は、リポタンパク質の種類の違いを示しています。

LDLは、Low Density Lipoprotein(低比重リポタンパク質)、
HDLは、High Density Lipoprotein(高比重リポタンパク質)のそれぞれ頭文字です。

LDLコレステロールは、リポタンパク質のLDL粒子が運ぶコレステロール、
HDLコレステロールは、リポタンパク質のHDL粒子が運ぶコレステロール
という意味で、コレステロール自体は同じものです。

LDLコレステロールは、肝臓で合成されたコレステロールを、からだのすみずみへ運び出す働きをしています。HDLコレステロールは、血中の余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをしています。

―働き方が逆なのですね。

寺内 そうです。肝臓からコレステロールを運び出すLDL粒子の数が増えると、粒子当たりのコレステロールの数が同じでも、運ばれるコレステロールの数は全体としては増えることになります。

そして、増え過ぎたコレステロールが血管のなかに取り込まれてしまうと、動脈硬化(血管が硬くなったり、狭くなったり、もろくなったりする病気)を引き起こしやすくなります。

LDLコレステロールが、悪玉コレステロールと呼ばれるのは、血中のコレステロールを増やし、そのことが命を脅かす病気のリスクを高めてしまうからです(HDLコレステロールは、血中の余分なコレステロールを回収するため善玉コレステロールと呼ばれます)。

―動脈硬化は命に関わる怖い病気ですね。

寺内 血中の脂質のバランスが悪くなった状態を「脂質異常症」といいます。診断基準よりもLDLコレステロール値が高すぎる、HDLコレステロール値が低すぎる、中性脂肪値が高すぎるのいずれか1つがあてはまると、「脂質異常症」となり、動脈硬化のリスクを高めてしまいます。

日本人の死因を調べますと、日本人男性は、がんで亡くなる方が多いのですが、次いで病気で多いのは、動脈硬化などによる心疾患と脳血管疾患(心臓や血管の病気)です。日本人の女性も、がんで亡くなる方は多いのですが、心疾患と脳血管疾患で亡くなる方の数を合わせると、がんを上回ってしまいます。

―コレステロールは、からだに必要不可欠な成分ですが、増えすぎると動脈硬化を招いて、心臓や血管の病気につながりやすくなるのですね。女性は心臓や血管の病気で亡くなる方が多いということですから、気をつけたいです。

①-2更年期とLDL数値の関係

「女性のコレステロール値の変化」

<更年期にどうしてLDLの数値が上がりやすくなるのでしょうか>

―閉経後、健診でLDLコレステロール値が高く出て慌てた、という話を聞きます。女性ホルモンとLDLコレステロール値に関連はあるのでしょうか。

寺内 「女性ホルモンとLDLコレステロール値」の関連を考える前に、「年齢と脂質」の関連をみてみましょう。

厚生労働省の令和元年 国民健康栄養調査報告をみると、女性は50歳くらいを境に、LDLコレステロール値が急激に上がり、HDLコレステロール値が下がって、中性脂肪(TG:トリグリセライド)値が上がることがわかります。

―本当ですね。50代男性のLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪のそれぞれの値が、横ばいか減少傾向にあることとは対照的ですね。

寺内 昔からいわれていることですが、冠動脈疾患/虚血性心疾患(動脈硬化によって心臓の大きな血管の血液の流れが悪くなる病気。狭心症と心筋梗塞があります)になる人の数は、閉経前の女性は、男性の2割から3割と低い値ですが、50歳を超える頃から急激に増加して男性並みに近づいていきます。

また、別のデータになりますが、日本人の冠動脈疾患/虚血性心疾患で入院される方は、男性では30歳くらいで増えはじめますが、女性は50歳くらいから増え始めます。

―50歳というと、女性は閉経を迎える頃で、エストロゲンの分泌量が低下する時期と重なります。エストロゲンの影響が大きいということでしょうか。

寺内 こういうお話をすると、脂質の変化や異常をエストロゲンですべて説明できるのでは…と考えがちですが、そういうことではないのです。

アメリカの研究で閉経を挟む前後10年間に、女性ホルモンと血清脂質がどのように変化するのかを注意深く見たものがありますが、中性脂肪やHDLコレステロールの値は、エストロゲンと関連する動きをあまり見せていません。

―そうなのですね。

寺内 エストロゲンの働きのひとつに、肝臓でLDLコレステロールを作り出す酵素の活性を抑制したり、LDLコレステロールを受け取る受容体の数を増やしたりする、というものがあります。

そのため、更年期を迎える前、エストロゲンが安定して分泌されている間は、コレステロールを作る働きが少し抑制されて、肝臓で受け取る働きが促進されています。

そして、更年期を迎えてエストロゲンの分泌量が少なくなると、コレステロールを作り出す働きが増え、肝臓で受け取る働きが低下することがわかっています。

そういう意味では、エストロゲンとLDLコレステロールには関連があるといえます。

―閉経前の女性はLDLコレステロール値が低く抑えられ、HDLコレステロールの値が高く、動脈硬化のリスクが少ないといわれるのは、こうした理由があるのですね。

寺内 ただ、日本人の死因のところでお話しした、心血管疾患(心臓や血管の病気)の危険因子としては、「高LDLコレステロール血症」のほかに、「2型糖尿病」「喫煙」「メタボリックシンドローム」 などがあります。

メタボリックシンドロームとは、腹部肥満、低HDLコレステロール、高中性脂肪血症、高血圧、インスリン抵抗性(インスリンの効きにくさ)が組み合わされることで、動脈硬化を引き起こし、心臓病や脳卒中になりやすい状態のことです。

今お話しした危険因子のなかで、喫煙以外のものは、エストロゲンとのなんらかの関係がわずかでも見つかっているものです。けれども、エストロゲンだけで心臓や血管の病気のすべてを説明することはできません。

更年期は、閉経を迎えてエストロゲンが低下し、LDLコレステロールが増えやすくなりますが、そのこと以外にも、加齢の影響で内臓脂肪型肥満になりやすかったり、血圧が上がりやすくなったりするなど、心臓や血管の病気のリスク因子は増えてきます。更年期は閉経による変化と、加齢や生活習慣、遺伝的な要素が同時に重なる時期なのです。

寺内 また、更年期は心身に不調が現れやすい時期です。それまで健康に気をつけてヘルシーな料理を心がけて、毎食6、7品を作っていたという人でも、更年期にうつの症状が現れたために、料理をすることが難しくなり、市販のお惣菜や外食が増えて、脂質や糖質の多い食事になってしまったということもあります。血中脂質の変化のひとつに、更年期の社会的な要因もあるかもしれません。

―更年期症状が強いときに、料理がおっくうに感じられるのはよくわかります。脂質をコントロールするためには、女性は加齢や更年期症状に加えて、閉経を境に脂質が変化しやすいことを念頭に、食習慣や生活習慣を見直していくことが大切ということがわかり、大変勉強になりました。今回も貴重なお話をありがとうございました。次回は、LDL(悪玉)コレステロール値を下げる対処方法についてお伺いします。


寺内公一先生

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子

ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。