更年期に増える物忘れ。認知症との関係は?
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何かをするために部屋に来たはずなのに、何をしに来たのか分からなくなる…。更年期を迎えて、そうしたことが増えてきたと感じる人は少なくありません。また、物忘れや記憶力の低下をきっかけに、自分の老いを感じたり、この先の人生に訪れるかもしれない認知症のことが気になったりすることもあるようです。
そこで今回は、更年期の専門医である東京科学大学の寺内公一先生に、更年期と物忘れ、エストロゲンと認知機能の関係、そして、その先にあるかもしれない認知症についてもお話を伺いました。更年期を上手に乗り切るためのヒントがいっぱいです!
| 記事まとめ ●更年期の物忘れには、女性ホルモンの変動が関係している可能性がある。 ●認知機能は、記憶だけでなく注意力や判断力にも関わる機能。 ●認知症には、アルツハイマー型認知症や血管性認知症などが含まれる。 ●認知症予防には、食事・運動・睡眠などの生活習慣を整え、心身の健康を保つことが大切。 |
更年期※1に物忘れを感じる人はどれくらいいる?
―更年期を迎えて、物忘れが多くなったと感じる人は多いようです。
寺内先生(以下、寺内) はい。私が診療する更年期外来でも、たとえば、“何かをしようと思って部屋を移動したはずなのに、何をしようとしたのかを忘れてしまう”といった物忘れを訴える患者さんは多くいらっしゃいます。
更年期外来の患者さんを対象にした調査では、「物忘れ」を週1回以上自覚されている方は、70%以上もいらっしゃいました。

また、アメリカのコホート研究SWANで、物忘れの症状が閉経によってどのように変化するかを調べた研究があります。閉経前に30%弱の人が物忘れを自覚されており、閉経への移り変わりのなかで40%以上に増えていくことが報告されています※2。他の研究では、閉経後の10年間で、言語記憶は2%、処理速度は5%、それぞれ低下するというものもあります※3。
―更年期は、物忘れが増えやすいのですね。
寺内 ただし、「物忘れ」と一口にいっても、「集中できない」といったことから、認知症によく見られる「最近の約束や出来事を思い出せない(エピソード記憶の障害)」まで、さまざまなレベルの物忘れがあります。
大事なことは、「物忘れ」は、更年期に限らず、あらゆる年齢で起こりうるということです。
※1 閉経をはさむ約10年間、おおむね45~55歳くらいの時期
※2 Gold 2000 Am J Epidemiol
※3 Karlamangla 2017 PLoS One
更年期に物忘れが増えやすいのはなぜ?
―更年期に物忘れが起こる背景には、どのようなことがあるのでしょうか?
寺内 更年期は、エストロゲンが波打つようにゆらぎながら、あるときは多く分泌したり、またあるときは少なかったりして、急激に減少していきます。卵巣に女性ホルモンを出すように命令しているのは脳ですが、女性ホルモンが十分に分泌されないと、脳はとても混乱します。
その混乱が自律神経の乱れにつながり、さまざまな不調の一因となって、記憶力や集中力、判断力、作業能率の低下につながることはあると思います。
また、うつ病や不安障害を抱えている人は、物忘れをしやすいことが知られており※4、私たちの研究でも、うつや不安症状は、物忘れの重症度との関連が示されています※5。
更年期の女性は、体調の悪さから気持ちが沈みがちになったり、取り巻く環境によっては、過度なストレスがかかったりしがちなため、うつ症状を訴えられる方もいます。そうしたことも、物忘れの一因になると考えられます。
※4 Herrmann 2007 Psychol Med
※5 Odai,Terauchi 2020 Food Sci Nutr 8(8):4422-4431
認知機能の「認知」ってなんだろう?
―この後、認知症についてお話を伺いますが、その前に、「認知」とはどのようなことか簡単に教えていただけますか? 記憶に関連しているイメージがあります。
寺内 たしかに、記憶にも関わっていますが、それだけではありません。
認知は、心理学的、精神医学的に、それぞれの捉え方がありますが、「精神疾患の診断・統計マニュアル」※6では、認知機能を「多方面に注意を払う」「計画や意思決定をする」「学習や記憶をする」「言葉を理解し話す」「知覚したことに反応する」「相手の気持ちを理解する」の6領域※7に分類しています。
―認知は記憶だけでなく、さまざまな物事の認識に関わることなのですね。
※6 アメリカ精神医学会が定める診断基準「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版
※7 「複雑性注意」「実行機能」「学習と記憶」「言語」「知覚ー運動」「社会的認知」の6領域
認知機能とエストロゲンには関連がある?
―認知機能とエストロゲンには関連があるのでしょうか?
寺内 エストロゲンと女性の認知機能の関係については、世界中でさまざまな研究が行われています。代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
脳の一部には、学習と記憶に関わる「海馬」という器官があります。その海馬にエストロゲンの受容体が多く存在していることが知られています※8。つまり、エストロゲンは学習や記憶と深く結びついているということです。

また、エストロゲンには、神経細胞の炎症を抑制したり、神経細胞とシナプスの活動を促したりするなど、神経細胞そのものを保護する作用があることも分かっています※9。
そのため、エストロゲンを投与すると、空間認知機能が改善されたという報告もありますし※10、日本で行われた研究では、閉経後女性へのエストロゲンの投与によって、脳の血流が増加することが報告されています※11。
―エストロゲンは、認知能力と関連が深いのですね。
寺内 こうした研究結果から、エストロゲンは認知機能と深く関わっているといえます。そのため、更年期の物忘れは、エストロゲンのゆらぎが激しい時期に一過性に起きる可能性があります。エストロゲンのゆらぎが激しいのは最終月経から2年ほどの期間ですので、この時期を過ぎると物忘れは治まっていくと考えられます。
※8 Osterlund 2001 Prog Neurobiol
※9 Arnold 2009 J Neurochem
※10 Ping 2008 J Neurosci Res
※11 Ohkura 1995 Menopause
エストロゲンの低下は認知症につながる!?
―更年期は、この先の人生に訪れるかもしれない認知症のことが気になる時期でもあります。エストロゲンと認知症には関連があるのでしょうか?
寺内 アルツハイマー型認知症とエストロゲンの関連を調べた研究があります。マウスを使った研究では、エストロゲンが欠乏すると、早い時期から脳に老人斑(アミロイドβなどの老廃物が溜まったもの)が現れることが報告されています※12。
※12 Yue 2005 PNAS
更年期の物忘れと認知症との違いは?
―更年期の物忘れが認知症につながるような気がして、気になっている人は多いと思いますが、関連はあるのでしょうか?
寺内 今のところ、更年期の物忘れが、認知症に移行するといったエビデンスはありません。更年期の物忘れと認知症の物忘れには、質的な違いがあります。
私の更年期外来でも、「最近物忘れが多い」と訴えられる方のなかに、「このまま認知症になるのでしょうか?」と不安を口にされる患者さんはいます。ですが、その方は、診察があることも覚えていらっしゃいますし、診察時間に病院に来ることもできます。
一方で、たとえば、アルツハイマー型認知症の特徴には、朝ご飯を食べたのに、食べたこと自体を忘れるといった、最近の約束や出来事を思い出せなくなる「エピソード記憶の障害」があります。しかし、更年期外来で物忘れを訴える患者さんには、そうしたレベルの物忘れは見られません。

更年期のゆらぎの時期に起こる一過性の物忘れと認知症との間に、直接的な因果関係があるといったエビデンスはありませんが、更年期から認知症のリスクを減らす生活習慣を実践していくことが大切だといえます。
認知機能が低下する認知症とは?
―認知機能に影響を与える病気には、どのようなものがあるのですか?
寺内 さまざまなものがありますが、社会の高齢化にともなって、現在の日本で急速な勢いで増えているのは、アルツハイマー型認知症と、血管性認知症です。
―それぞれの病気について簡単に教えてください。
●アルツハイマー型認知症
寺内 「アルツハイマー型認知症」は、主に、「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質が脳に溜まり、その毒性で脳の神経細胞が壊れ、脳の萎縮も起こり、認知機能が低下していく病気です。
本来は、不要になったアミロイドβは分解され、脳の血管を通じて体の外に排出されますが、加齢など、何かしらの理由で排出がうまく行われなくなると、脳に溜まってしまいます。
●血管性認知症
「血管性認知症」は、脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)によって、脳の神経細胞が壊れ引き起こされる認知症です。障害を受けた脳の部位によって、現れる症状は異なります。
認知症に男女差はある?
―認知症に、男女差はあるのでしょうか?
寺内 厚生労働省の調査によると、アルツハイマー型認知症は、認知症全体の7割ほどを占め、次いで血管性認知症は2割ほどを占めます。また、女性のアルツハイマー型認知症の方は、男性の3倍近くいます。
アルツハイマー型認知症は、男性も女性も65歳を過ぎた頃から増え始めますが、女性のほうが急激に増えることが分かっています。女性と男性を、それぞれの人口比率で割ってみても、女性のほうが高い有病率になります。
―血管性認知症についてはどうですか?
寺内 こちらも女性の有病率が高くなっています。注目したいのは、血管性認知症の原因となる脳血管疾患の有病率には、男女差がないことです。
つまり、女性も脳の血管の病気から、血管性認知症になるリスクが高いということになります。
―認知症予防のために、血管の健康を保っていくことも大事ですね。
ホルモン補充療法は認知症を改善する?
―ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲンを投与する治療法ですが、認知症予防にも効果があるのでしょうか?
寺内 ホルモン補充療法のガイドラインでは、
・閉経して早期に始めるホルモン補充療法はアルツハイマー型認知症の発症を予防する可能性はある
・高齢になって始めた場合は認知機能を改善しない
・認知機能の維持または認知症の予防の目的でホルモン補充療法を行うことは勧められない
としています。
認知機能へのエストロゲンの有用性が示されている研究報告はありますが、臨床的に十分な効果を示すエビデンスはまだないのが現状です。
―そうなのですね。
寺内 一方で、エストロゲンと認知症についてのさまざまな研究によって、分かってきたこともあります。
鍵となるのは、「ホルモン補充療法を行うタイミング」と「誰に投与するか」です。
タイミングについては、更年期(若い時期)のホルモン補充療法は、アルツハイマー型認知症の発症リスクを低下させる可能性があるとしています※13。
次に誰に投与するかですが、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβの沈着が、ホルモン補充療法でどう変わるかを追いかけた研究があります。
ホルモン補充療法は、apoEε4(アポイーイプシロンフォー)という遺伝子を持つなど、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高い人に対して、アミロイドβの沈着を抑えたというデータがあります。※14
そしてどのように投与するかですが、ホルモン補充療法を経皮的に投与すると、認知機能を若干回復するというデータがあります※15。
―早期のエストロゲン投与や、アルツハイマー型認知症のリスクが高い人への投与は、タイミングなどに配慮すると、認知症に対して良い影響をもたらす可能性があるのですね。
※13 Henderson 2005 J Neurol Neurosurg Psychiatry
※14 Kantarci 2016 J Alzheimers Dis
※15 Joffe 2006 Menopause、Hogervorst 2010 Maturitas
認知機能低下を予防するセルフケア
―認知機能の低下を予防するためのセルフケアには、どのようなものがあるでしょうか?
寺内 私たちの研究では、「自分に魅力がなくなったように感じる」という人に関連する因子の一つに、「記銘力の低下の自覚」があることが分かりました※16。
そして、60~84歳のカナダ人女性を対象にした別の研究では、「自己評価の高い人たちは、認知機能の加齢による低下が認められない」という報告があります※17。
こうしたことは、認知機能の低下を防ぐセルフケアをする上でも、ポイントになるのではないでしょうか。
―自分が楽しいと思えたり、続けていくことが小さな自信になったりするような趣味を持つことも、良いかもしれませんね。そうした場には、生き生きと活動している同年代や年上の女性も多くいますね。
※16 Terauchi 2017 Climateric 20:228
※17 Pruessner 2004 Ann N Y Acad Sci
認知症を予防する生活習慣
―ここまで、女性ホルモンと認知機能の関係、更年期と物忘れ、そしてその先にあるかもしれない認知症について伺ってきました。認知症を予防するために、まず大きな視点ではどのような点に気をつけるとよいでしょうか?
寺内 全般的に、健康な人は認知症になりにくいといわれていますので、健康を保つ生活が大切です。
●メタボリックシンドロームの予防
メタボリックシンドローム※18の人は、血管性認知症だけでなく、アルツハイマー型認知症においても、リスクが高いと考えられています。
―メタボリックシンドロームは、認知症のリスクを高めるのですね。食事ではどのようなことを心がけるとよいでしょうか?
●地中海食
寺内 地中海食と認知機能の関係を調べた研究では、地中海食は全般的に認知機能を改善する効果が期待できると報告されています※19。
地中海食とは、野菜と果物、全粒穀物、豆類とナッツ類、オリーブオイル、ハーブとスパイス、チーズとヨーグルト、魚と鶏肉、適量の赤ワインを中心とする食事です。冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)の発症や死亡のリスクが少ないという研究報告があります。
オリーブオイルを強化した地中海食は、注意力・遂行機能・包括的認知機能が改善し、ナッツを強化した地中海食は、記憶力を改善したという報告もあります※20。
―野菜や果物、赤ワインなどは、抗酸化力の高いポリフェノールを含んでいますね。ブドウ種子に含まれる「プロアントシアニジン」は、ポリフェノールのなかでも、強い力を持つといわれています。食材で摂ることが難しい場合は、日々の食事の補完として、サプリメントを上手に利用するのもいいですね。
成分では、他にどのようなものが、認知機能の低下を抑えると考えられているのでしょうか?
●ビタミンE、ω-3脂肪酸
寺内 ヨーロッパ閉経学会では、認知機能低下を予防する可能性のある栄養素として、ビタミンE、葉酸、ビタミンB12、ω-3脂肪酸(オメガスリー脂肪酸)を挙げています。
●銅の摂取を控える
私たちの研究では、物忘れの重症度に関連する摂取栄養素を調べたところ、55歳以上の方では、銅の摂取量が多い方ほど、物忘れの重症度が高くなることが分かりました※21。
別の研究でも、銅がアミロイドβの排泄を抑制するという報告がありますので、ふだんレバーや牡蠣、いかなど、銅を多く含む食材をたくさん食べている人は、少し気をつけるといいのかなと思います。
※18 内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わされることで、心臓病や脳卒中などになりやすい状態
※19 大八木保政 2014 最新医学
※20 Valls-Pedret 2015JAMA Intern Med
※21 Odai,Terauchi 2020 Food Sci Nutr 8(8):4422-4431
認知症リスクを下げる7つの健康習慣
―生活面ではどのようなことに気をつければよいでしょうか?
寺内 アメリカのPamela Rist氏の論文によると、心臓の健康を保つための7つの習慣は、認知症の発症リスクを抑制する可能性も高い、としています。
―7つの習慣とはどのようなことですか。
・より多くからだを動かすこと
・より健康的な食事をすること
・適正体重を保つこと
・タバコを吸わないこと
・血圧・コレステロール・血糖値を良好に保つこと
です。
そしてこの内容に、
・生涯を通して継続的に教育を受けること
・質の高い睡眠をとること
・社会活動に参加すること
を加えると、認知症のリスクがさらに下がる可能性があるとしています。
―心身ともに健康的な生活習慣は、認知機能を保ち、認知症を遠ざけてくれるのですね。ぜひ取り組んでみたいと思います。今回も貴重なお話をありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>

寺内 公一 先生
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
▼詳しいプロフィールを見る
<インタビュアー>

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。





