更年期にめまいに悩まされたら

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めまい更年期に現れやすい症状ですが、その原因は一つではありません。耳石のかけら、内耳の水ぶくれ、ストレスや不安感に加えて、背景に大きな病気が隠れている場合などさまざまです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期のめまいについて伺いました。



めまいの症状とは

寺内公一先生(以下、寺内)  めまいの症状は一つではありません。周囲がぐるぐる回るようなめまい、頭がふわふわするめまいなど多様です。大きく分けて、「回転型めまい」「失神型めまい」「動揺型めまい」があります。

回転型めまい…自分や周囲がぐるぐる回転する
失神型めまい…目の前が暗くなる、気が遠くなる
動揺型めまい…頭がふわふわする、ふらつく

寺内 関連性がはっきりしているものもありますが、明確な関連性をもたないものもあります。

おおまかな説明になりますが、

回転型めまいは、耳の奥にある「内耳」が関係していることが多いめまいです。内耳には、蝸牛、三半規管、前庭神経などがあり、それらの器官によって、音を聞いたり、体の傾きを感じ取ったりしていますが、ここに異常が現れると、ぐるぐる回転するようなめまいが起こります。

失神型めまい不整脈や循環器系の疾患が関係していることが多く、脳貧血(一時的に脳に酸素が行かなくなること)によって、目の前が暗くなったり、気が遠くなったりするようなめまいが起こります。

動揺型めまいは、平衡感覚に関わる感覚系(視覚、固有感覚、前庭感覚)や運動系を司る脳の働きの異常が関係していることが多く、ふわふわと雲の上を歩いているようなめまいを起こすため、自分でしっかり立てなかったり、歩けなかったりします。

そして、今お話しした、回転型、失神型、動揺型にあてはまらない、非特異的めまいもあります。神経症やうつ病など、メンタルの不調が原因のことが多いめまいです。



更年期のめまいはどれくらいの人が感じている?

寺内 2004年に行われた地域住民を対象にした疫学調査※1では、「めまいや失神を感じる(feeling dizzy or faint)」が、「非常にある」と答えた人は1.5%、「かなりある」は4.9%、「少しある」は35.4%でした。合計すると約41.8%の方がめまいを感じていました。

当院の更年期外来を受診されている患者さんを対象に、めまいの有病率を調べた調査では、「重度」の方は7%、「中程度」は6.2%、「軽度」は22.5%いらして、合わせると、35.7%の方が、軽度から重度のめまいを感じていることが分かりました※2

また、更年期の女性に限定していませんが、厚生労働省の統計調査「国民生活基礎調査※3」では、めまいを訴える人の割合を公表しています。

平成28(2016)年のデータになりますが、年齢別・性別の統計をみると、総じてめまいは、男性よりも女性の有訴者率が高いことが分かります。

出典:平成28(2016)年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)、統計表、第10表 性・年齢階級・症状(複数回答)別にみた有訴者率(人口千対)より、めまいを抜粋。グラフ作成は編集部

寺内 はい。ですので、更年期外来にいらっしゃる患者さんがめまいを訴えられたときは、どのような症状のことをおっしゃっているのか(どのような感じのめまいか、いつ発症したのか、症状はどれくらいで治まったかなど)、お話をよく聴きます。


※1 更年期女性における症状の頻度(日本人女性848名、45~60歳、住民サンプル/Anderson 2004 Climacteric)。
※2 2007~2016年に、東京医科歯科大学周産・女性診療科更年期外来の系統的健康・栄養教育プログラムに参加した40歳以上65歳未満の女性471名(平均年齢51.2歳)について、初診時の記録を基に横断的検討を行った研究(Terauchi 2018 BioPsychoSocial Medicine)
※3 厚生労働省の統計調査

更年期に現れやすいめまいは?

寺内 あくまでも個人的な実感ですが、当院の更年期外来にいらっしゃる患者さんが訴えるめまいの多くは、回転性めまいのなかでも、耳石が剥がれ落ちることで起こる「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」と、心の不調が原因と考えられる「非特異的めまい」が多いように思います。

寺内 良性発作性頭位めまい症は、英語でBenign paroxysmal positional vertigoと書きます。その頭文字をとってBPPVといいます。

簡単に説明しますと、耳の奥の内耳には、耳石器(じせきき)という、体の向きや重力といった位置感覚を感知するセンサーがあります。耳石器には耳石(じせき)という砂のような小さな石がたくさんくっついています。

ところが、耳石の一部が剥がれ落ち、三半規管に入り込むことがあります。そのような状態で頭を動かすと、三半規管の中で耳石が動き、あたかも周りが動いているように感じられます。

なぜ耳石が剥がれ落ちるのか、詳しくは分かっていませんが、良性発作性頭位めまい症は、頭の向きを変えると起こりやすく、患者さんのお話を聴いていますと、例えば、朝起きて頭を起こしたとき(家事などで下を向いたとき、お風呂で頭を洗おうとしたとき)に、急にぐるぐる回って…とお話しされる方が多いです。



女性ホルモンとめまいの関連は?

寺内 それを示すエビデンスはありませんが、男性よりも女性のほうが症状を訴える方が多く、骨粗鬆(しょう)症との関連は指摘されています。

というのは、耳石が何かというと、カルシウムの小さな粒だからです。更年期以降の女性は骨粗鬆症になりやすいことが知られています。「更年期以降なぜなりやすい?骨粗鬆症の予防と対策」のときにもお話ししましたが、骨はエストロゲンの分泌量が低下すると、骨を壊す細胞(破骨細胞)の活性が高まり、骨がもろく弱くなります。

体の骨も耳石もどちらもカルシウムですので、骨粗鬆症と似たことが内耳でも起きていてもおかしくはありません。

三半規管に落ち込んだ耳石は、基本的には、そのうちに溶けてなくなってしまいます。剥がれ落ちた耳石が原因の回転性めまいの場合、しばらくすると症状が治まるのは、このためだと考えられます。ただし、少ししてまた耳石が剥がれ落ちてしまい、めまいをくりかえすこともあります。

寺内 冒頭で、当院の更年期外来を受診されている患者さんを対象に、めまいの有病率についてお話しましたが、その方たちを対象にした研究で多変量解析を行ったところ、更年期女性のめまい(軽度から重度)と不安スコア※4(不安症状)が関連することが分かりました※2

不安感は、めまいなど前庭機能の低下を引き起こします。ですので、不安症状の改善は、めまいの緩和につながり得ると考えています。

※2 2007~2016年に、東京医科歯科大学周産・女性診療科更年期外来の系統的健康・栄養教育プログラムに参加した40歳以上65歳未満の女性471名(平均年齢51.2歳)について、初診時の記録を基に横断的検討を行った研究(Terauchi 2018 BioPsychoSocial Medicine)
※4 anxiety score (HADS-A):Hospital Anxiety and Depression Scale/不安と抑うつの程度を判断するための尺度


めまいを感じたら何科を受診すればいい?

寺内 まずは、耳鼻科を受診されるのが良いと思います。一人で歩くことが難しい場合は、付き添いの方と一緒に病院に行きましょう。

良性発作性頭位めまい症の場合は、動いた耳石を元に戻すことに長けた医師の診察を受けるのも一つです。

更年期に限りませんが、ストレスや疲労、睡眠不足などによって、内耳のリンパ液が増え、難聴や耳鳴りなどを伴う回転性めまいを引き起こす「メニエール病」も、女性に多いめまいです。また、めまいは、背景に脳の病気が隠れている場合もありますので、いずれも、放っておかずに早めに耳鼻科を受診しましょう。

その上で、回転型、失神型、動揺型にあてはまらず、めまいはあるけれど、一人で出歩くことができる方で、更年期症状もある場合は、更年期外来を受診されると良いと思います。

寺内 HRT(ホルモン補充療法)をしている方は、良性発作性頭位めまい症が起こりにくいというデータもあるようですが、予防できるというエビデンスは今のところありません。

漢方薬の場合は、患者さんの「証」を診て処方しますので、あくまでも一例ということになりますが、漢方では、めまいは「水毒(全身の水のバランスが悪い状態)」であり、内耳の三半規管にあるリンパ液のバランスの異常と考えますので、利水剤として五苓散(ごれいさん)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)をお出しすることが多いです。

不安感との関連でいいますと、更年期症状としてめまいを訴えて受診された方でも、よくよくお話を聴いていると、背後に精神症状が隠れている場合があります。不安症状が強いために、めまいが現れている場合は、認知行動療法が有効です。抗不安薬を処方することもできます。



日常生活でできることは?

寺内 これをすればめまいを予防できる、というものはありませんが、偏った生活習慣、偏った食事、過度なストレス、疲労の蓄積、睡眠不足、運動不足などは、体力を低下させるだけでなく、心の負担にもなります。更年期の不調を強くすることもあります。

日常生活では、生活のリズムを整え、休息を取り、よく眠れるように工夫し、栄養バランスの整った食事や適度な運動を心がけましょう。こうした心がけは、一見当たり前のことのように思えますが、健康な心身を保ち、更年期症状をやわらげることにつながります。

セルフケアをしてもつらい症状が続くときは、一人で抱えずに、更年期外来を受診していただければと思います。医師と二人三脚で治療的なアプローチを進めながら、生活習慣などの偏りがあれば、少しずつ整えていきましょう。


寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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