更年期以降なぜなりやすい?骨粗鬆症の予防と対策

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~更年期以降は骨折のリスクが高くなる!?~

骨が弱くなり骨折しやすくなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)。更年期以降の女性は、加齢や閉経などの影響で、骨粗鬆症になりやすくなるといわれています。そこで今回は、更年期の専門医であり、骨粗鬆症の認定医でもある東京医科歯科大学の寺内公一先生に、閉経と骨の関係、骨粗鬆症の治療法、取り組みやすいセルフケアなどについて、お話を伺いました。

 

骨粗鬆症ってどんな病気?

―更年期以降の女性がかかりやすい骨粗鬆症は、どのような病気なのですか。

寺内公一先生(以下、寺内) ごく簡単な説明になりますが、骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。例えば、立っている高さから転んだだけで、肩や手首、股関節の骨が折れたり、背中の骨がつぶれて背中が曲がったりします。初期は、痛みなどの自覚症状がほとんどなく、骨折して初めて気づくことも珍しくありません。

―男性も骨粗鬆症になるのでしょうか。

寺内 はい。男性も、加齢とともに骨粗鬆症の方は増えます。けれども、骨粗鬆症には男女差があり、日本の場合、女性は男性の約3倍の方が骨粗鬆症だといわれています。

男性が比較的緩やかに、骨粗鬆症の方が増えていくのに対して、女性は更年期(おおむね45~55歳)以降に、急激に骨粗鬆症になる方が増えます。

また女性では、65歳で3人に1人が、75歳で2人に1人が骨粗鬆症だという研究報告があります。

さらに、女性の骨粗鬆症の方のなかで、65歳で4人に1人が、75歳で3人に1人が10年以内に骨折するというデータもあります。

―骨折するリスクが高まるのですね。それにしても、なぜ、女性は男性よりも骨粗鬆症になりやすいのでしょう。

寺内 理由の一つに、女性ホルモン・エストロゲンの分泌量の低下があります。65歳以降の男女を比べたとき、女性は閉経を迎えているため、エストロゲンの分泌量が男性よりも低くなります。

―男性の体にも女性ホルモン・エストロゲンがあり、65歳以降では、男性のほうが女性よりもエストロゲンが多いのですね。

寺内 男性ホルモンと女性ホルモンのことを、まったく別のもの、と考えている方も多いのですが、実はそうではなくて、それらは交互に変換されるものです。

女性の場合、閉経を迎えると、卵巣からのエストロゲンの分泌は停止します。けれども、副腎皮質というところから男性ホルモンが分泌され、それが酵素によってほそぼそとですが、エストロゲンに変換され続けているのです。

―そうなのですね。知りませんでした。

寺内 男性の場合、精巣から分泌される男性ホルモンは、エストロゲンのように急激には減りません。つまりそれは、男性の体のなかに、エストロゲンに変換される材料がたくさん蓄えられている、ということなのです。

こうした理由から、閉経後は、女性よりも男性のほうが、エストロゲンの値が高くなります。

くつろぐ更年期の女性

 

女性ホルモンと骨粗鬆症の関係

―なぜ、エストロゲンが減ると、骨粗鬆症になりやすいのですか。

寺内 骨には、骨を壊す破骨(はこつ)細胞と骨を作る骨芽(こつが)細胞があります。

古くなった骨を破骨細胞が壊して吸収し、骨芽細胞が新しく骨を形成します。エストロゲンが安定して分泌されている間は、両者のバランスは保たれています。

ところがエストロゲンが低下すると、骨を壊す破骨細胞の活性が高まります。

このようなお話をしますと、エストロゲンが低下すると、骨を作る骨芽細胞の活性が低下すると思われそうですが、そうではありません。両者とも活性が高まります。

ただし、骨を壊すのに3週間骨を作るのに3カ月かかるため、次第にその差が開いてしまうのです。

―なるほど。エストロゲンが低下すると、骨を壊す細胞骨を作る細胞のバランスが偏って、骨を壊すペース骨を作るペースを上回ってしまうのですね。

寺内 授乳中にも同じことが、女性の体では起きています。

授乳中のお母さんは、排卵が抑制されて(エストロゲンが低下して)、簡単には妊娠しないような仕組みができています。お母さんが、出産後すぐ授乳中に妊娠してしまうと、お母さんも赤ちゃんも、命が危うくなるからです。

赤ちゃんは、お母さんのおなかのなかでは、胎盤を通じて栄養をもらいますが、おなかから出てきたら、栄養源は母乳になります。なおかつ、赤ちゃんは、成長するために自分の骨をどんどん作らないといけませんから、カルシウムがたくさん必要になります。

つまり、授乳中は、エストロゲンが低下して、お母さんの骨のカルシウムが壊され、それが母乳を通じて赤ちゃんに届く仕組みになっているのです。

授乳が終われば、排卵が再び起きるようになり、エストロゲンが分泌されますから、骨を壊す細胞骨を作る細胞のバランスも元に戻ります。

ただし、閉経後は、授乳後のように、減少したエストロゲンの分泌量が元に戻ることはありませんので、注意が必要です。

―授乳中の骨の仕組みはとてもうまくできていますね。でもそれが、閉経後の骨を弱くする一因にもなっているのですね。

 

骨密度とは?

―骨粗鬆症の検査で、骨密度を測るのはなぜなのでしょう。

寺内 骨の強さを知るためです。骨の強さを決めるのは、骨密度骨質です。割合でいうと骨の強さ=骨密度70%くらい+骨質30%くらいと考えられています。

―「骨質」という言葉はあまり聞きません。

寺内 骨密度は比較的手軽に測ることができますが、骨質は骨を取り出して調べるなど、簡単に測ることができません。

例えば、糖尿病をおもちの方は、同じ骨密度でも骨質が悪く、骨折しやすいことが知られています。つまり、骨の強さは骨密度だけでは語れないけれど、骨の強さの7割を占める骨密度を測定して、骨の強さを考えていきましょう、ということなのです。

―そうなのですね。骨密度を測る方法には、どのようなものがあるのですか。

寺内 代表的なものにDXA(デキサ)法があります。異なる波長の2種類のエックス線を用いて骨密度を測ります。

腰椎や大腿骨などの骨密度を測ることができますが、装置が大きく、レントゲン撮影ですので、専門の技術が必要になりなります。どの施設にもあるわけではありません。手首の骨密度を測る小さめのDXA法の装置もあります。

―もう少し手軽な方法はありますか。

寺内 音は硬いものほど速く伝わるという原理を利用した、QUS(キューユーエス)法があります。かかとの骨に超音波をあてて、それが伝わる速さで骨の強さを測定します。

自治体主催の検診やイベントなどで用いられる方法の一つです。レントゲン撮影をしませんので気軽に受けられますし、もし、この検査で気になる結果が出たら、DXA法でよりしっかりと調べるのが良いのではないでしょうか。

―まずは、自治体の検診などを利用して、自分の骨の状態を知ることが大事ですね。

寺内 そうですね。最初に、女性は65歳で3人に1人が、75歳で2人に1人が骨粗鬆症になっているというお話をしましたが、その年齢にさしかかったら、一度自分の骨密度をチェックするのが良いと思います。

骨密度が高ければ、それをキープするようにし、もし、骨密度が低ければ、医療機関につながり、お薬で治療をしていくのが良いと思います。

 

骨粗鬆症治療の最前線

―骨粗鬆症の治療は、何科が良いのでしょうか。

寺内 何科というよりも、骨粗鬆症について理解の深い医師とつながることが大切だと思います。骨粗鬆症学会では骨粗鬆症の認定医を公表していますので、整形外科、婦人科、内科などで、認定医の資格を持つ医師とつながっていただくのが良いと思います。

―骨粗鬆症の治療では、どのようなことをするのですか。

寺内 例えば、大腿骨を骨折して整形外科で手術をします。そして、関連の病院に移ってリハビリをします。これは骨折の治療です。

では、骨粗鬆症の治療はというと、リハビリが終わった後からになります。以前は、手術やリハビリ後に、骨粗鬆症の適切な治療やケアをしないまま過ごして、再び骨折する人が少なくありませんでした。

そこで現在は、骨粗鬆症マネージャーという資格を持つ医療関係者が中心となって、手術、リハビリ、骨粗鬆症のケアが、きちんとつながるようにしています。

―それは心強いですね。

寺内 骨粗鬆症の治療は、骨に良い食事と運動を心がけながら、薬物治療を行うことが中心となります。ただし薬物治療は、開始する基準が定められています。

骨を強くしたり、骨密度を高めたりするお薬には、いろいろな選択肢がありますので、担当の医師とよく相談して、継続して治療を進めていくことが大切です。

 

更年期以降は、現状の骨密度を保つことが大事

―骨密度を高くする方法はありますか。

寺内 自分できることでいえば、食事と運動になると思います。ただし、食事と運動だけで骨密度がどんどん増える、というイメージは適切ではありません。

更年期を迎えたら、骨密度を高くするというよりも、今ある骨密度を保つという視点が大切です。

というのは、骨密度は、10代、20代に十分に獲得され、エストロゲンが安定して分泌される性成熟期(おおむね18~45歳)は維持されます。そして、閉経してエストロゲンが低下すると骨密度も低下します。

つまり、閉経後は、10代、20代で貯めた骨密度の貯金を使っていくわけです。

―そうなのですね。骨密度を保つための食品には、どのようなものがありますか。

寺内 食品から摂る栄養素のなかで、骨にとって重要なものを3つあげると、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKです。

日本人のカルシウムの摂取量は、慢性的に不足しています牛乳や乳製品は、カルシウムの吸収効率が良いので、意識して食べたい食品です。

ビタミンDは、魚、きのこ、卵に多く含まれています。ビタミンDは食品以外からも摂ることができ、皮膚に日光の紫外線が当たると、体内でビタミンDが作られます

ビタミンDの産生を、体内で作られる量食品から摂る量で比較すると、7:3くらいになります。体内で作られるほうが多いので、ビタミンDの豊富な食品をとりつつ、紫外線を浴びることが大切です。

ビタミンKを多く含む食材は、緑黄色野菜、海藻、納豆です。特に納豆は、ひきわり納豆のほうがビタミンKの産生が高いので、選ぶならひきわり納豆がおすすめです。

* 「国民健康・栄養調査」 令和元年 厚生労働省、「日本人の食事摂取基準」 2020年版 厚生労働省

―おすすめの運動はありますか。

寺内 運動そのものに骨を維持する効果があり、エアロビクスや筋トレ、太極拳など、ありとあらゆる運動が骨に適度な負荷を与え、骨を強くすることが分かっています。

例えばスクワットは、特別な道具や場所を必要としません。足腰の筋肉を鍛えることで転倒予防にも役立ちますので、取り入れやすいのではないでしょうか。

 

女性の主な介護要因は、骨折・転倒、関節疾患

―10代、20代のうちに、骨密度をしっかり獲得することが大切、というお話でしたが、そうした骨のしくみを知らない方も多いと思います。

寺内 そうですね。今現在、日本の若年女性は、世界でも突出して痩せている方が多いのです。痩せていると、骨に対する負荷がかかりにくくなりますから、骨密度を低くしてしまいます。

もし、無理なダイエットをしていれば、骨の材料となるカルシウムなどの栄養素も不足します。さらに、痩せていることで無月経になると、エストロゲンが分泌されませんから、骨密度が低くなります。

―痩せていることで骨密度が低くなれば、骨密度の貯金も増やせませんね。

寺内 今痩せている女性が、60代、70代を迎えたときに骨粗鬆症になる人が増え、骨折のリスクが高くなることは、数十年後の日本の社会的な問題につながることだと思います。

―確かにそうですね。骨折がきっかけで要介護になったという話も聞きます。

寺内 女性の介護が必要となった原因は、主に骨折・転倒、関節疾患です。だからこそ、骨粗鬆症について知ったり、骨密度を測って自分の骨の状態を把握したりすることが大切です。

*国民生活基礎調査 2018年 厚生労働省

―人生100年時代を迎えて、60代、70代から骨折しやすくなると、生活の質の面でも、介護の面でも心配ですね。今回も貴重なお話をありがとうございました。


寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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