更年期にイライラしやすいのはどうして?

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更年期を迎えて、ちょっとしたことでイライラしやすくなった、という声をよく聞きます。これまでならやり過ごせていたことでも、なぜだかイライラしてしまう…。自分の感情のコントロールが難しくなったことに戸惑いを覚える人は少なくないようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期のイライラ感やその受けとめ方について伺いました。



更年期のイライラ感はどれくらいの人が感じている?

寺内公一先生(以下、寺内) 2004年に行われた地域住民を対象にした疫学調査*が参考になると思います。

その調査は、45~60歳の日本人女性を対象にしており、「疲れやすい」「集中できない」「イライラする」など、20の更年期症状を感じる頻度について調べています。

イライラを感じる頻度が「非常にある」「かなりある」と答えた方は10%未満でしたが、「少しある」と答えた方は約50%いらっしゃいました。合計すると約60%の方にイライラ感がある、ということになります。

寺内 はい。私は外来で、更年期症状を訴える方のお話を多くお聴きしていますが、この調査結果は、私の実感とも合致します。ちなみに、この調査で一番多かったのは、「疲れやすさ」で約80%の人が感じており、イライラ感は20項目中6番目に訴えの多い症状でした。

*更年期女性における症状の頻度(日本人女性848名、45~60歳、住民サンプル/Anderson 2004 Climacteric)



更年期にイライラする理由

寺内 更年期の症状の強さは、「身体的(bio)」「精神的・心理的(psycho)」「社会的(social)」の3つ、または「信念・生き方(spiritual)」を加えた4つの側面が大きく影響します。

イライラ感についても同様で、イライラしてしまう要因は、1つではなく、複数あるという視点が大切です。

要因の一つは、女性ホルモン(エストロゲン)のゆらぎです。女性ホルモンの分泌量は、閉経の前後2年くらいに、波打つように大きくゆらぎながら減りますが、この時期に更年期症状が強く出ることは、よく知られています。

他の要因として、人間関係があります。更年期は、周囲から必要とされて多忙なことに加え、職場の人間関係、夫や子どもとの関係、実父母・義父母の介護、自分自身・家族の健康やお金の問題など、すぐには答えの出ない大きな問題が、一度にいくつも降りかかりやすい時期です。

過度なストレスでイライラすることはよく知られていますし、不安感の表れの一つとしてイライラすることもあります。またその背景に、うつ病などの精神疾患が隠れていることもあります。

こうしたことから、更年期のイライラ感は、女性ホルモンのゆらぎと人間関係の問題が、掛け算のようになって現れているように思います。



更年期と月経前のイライラ感は同じ?

寺内 更年期と月経前のイライラ感は、異なります。

プロゲステロン(黄体ホルモン)の変動について見ていきますと、PMS(月経前症候群)の場合、月経前(月経の1週間前くらい)に急激に上昇して下降し(大きく変動し)、それによって、さまざまな不快な症状が現れやすくなります。一方、更年期は、エストロゲンが波打つようにゆらぎながら減少し、排卵が起こりにくくなりますので、プロゲステロンは、PMSほど上昇しません。

イライラ感については、PMSの症状がある方は、プロゲステロンが上昇する影響で、月経前になると、「家族など周囲の人にあたってしまう」「怒りが爆発してしまう」というお話を、外来でよく聞きます。

一方、更年期の方は、どちらかというと、元気が出なくなることが多く、疲れやすさ、うつ気分、不安といった他の症状を抱えながら、イライラも感じている方が多いように思います。症状が現れるタイミングも月経前といった特定のタイミングではありません。

次にイライラ感以外の症状について見ていきますと、PMSの場合は、乳房のはり、頭痛、関節痛、体重増加、むくみといった身体的症状と、抑うつ、怒りの爆発、不安、混乱、人に会いたくない、といった情緒的症状が見られます。これらの症状は月経開始後4日以内に症状が解消し、少なくとも13日目まで再発しないと定義されています。

更年期症状の場合は、疲れやすさ、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、発汗、冷え、不眠、抑うつ気分、頭痛、肩こり、物忘れ、膣の乾燥などの症状が現れやすく、女性ホルモンのゆらぎによって自律神経のバランスが乱れ、そのことが影響して現れる症状も少なくありません。こうした症状をともなう更年期のコアタイムは2~3年ほどです。



更年期のイライラの受け止め方

寺内 最初にお話ししましたように、更年期女性の約6割の方がイライラ感を抱えていらっしゃいます。そのことは、日本だけの話ではなく、オーストラリアの女性を対象にした調査でも同様の結果となっています。つまり、更年期女性の2人に1人は、イライラ感を抱えていて、それは、世界的な傾向といってよいと思います。

ふだん穏やかでまじめな人ほど、イライラする自分を責めてしまいがちですが、女性ホルモンのゆらぎによって体調が傾きやすく、難しい問題もいくつも抱えやすい時期ですから、イライラが募ったとしても、それは無理からぬことだと思います。

自分を責めてしまいそうなときは、他の人も自分と同じようにイライラしていることを知ると、気持ちが少しラクになるのではないでしょうか。

もう一つの考え方として、イライラを表現できずに、内に溜め込んでしまう人のほうが、心の負担が大きいともいえます。

更年期の不調は、多くの場合2~3年ほどで落ち着き、気持ちの面でも少しずつ折り合いをつけられるようになっていくかと思います。ですので、更年期にイライラしたら、「更年期の一時的なことだから仕方がない」「内に溜め込まずに少し吐き出せた」と、前向きに割り切ることも大切です。



イライラ感を和らげる治療法

寺内 イライラ感といっても、強さや困り感はお一人おひとり異なりますので、患者さんのお話をよく聞いて、その方に必要な治療を見極めつつ、治療法をご提案していきます。

患者さんのお話を聴くということ自体にも治療的な効果があります。患者さんご自身がお話をするうちに、それまでつかみどころのなかったイライラ感が少しずつ整理されて、症状を強くしているその方を取り巻く人間関係などの問題に、患者さんご自身で気づいていかれていくことが少なくありません。

その上で、薬物治療を希望される方には、漢方薬の場合、「抑肝散(よくかんさん)」を処方することが多いです。抑肝散は漢方薬ですので、更年期障害だけに効くということではなく、先ほどお話ししたPMSや認知症の周辺症状のイライラ感で悩まれている方にも処方されます。また、不安感が強い方には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を処方することもあります。

HRT(ホルモン補充療法)については、HRTのみでイライラ感が抑えられるとはいえません。けれども更年期は、複数の症状が重なることが多いため、HRTの治療によって、その方の更年期症状全般が緩和され、その結果、イライラ感が改善していくということは考えられます。更年期に理解の深い医師とよく相談されるのが良いと思います。



おすすめのセルフケアは?

寺内 イライラ感が気になるときは、リラックスできたり、心地よいと感じたりするセルフケアを取り入れてみましょう。

例えば、運動やスポーツには、心と体をリラックスさせ、睡眠リズムを整える作用があることが分かっています。厚生労働省では、体のなかに空気を取り入れながら行う有酸素運動を勧めています。体を動かす目安は1日20分です。

寺内 お風呂にのんびり入ったり、好きな音楽を聴いたり、アロマテラピーなども手軽にできるセルフケアといえます。

寺内 セルフケアに取り組んでみたけれど、イライラ感が続いてつらい場合は、早めに更年期外来を受診してほしいと思います。「イライラくらいで…」などとは思わずに、医師と二人三脚で乗り切りましょう。つらいときは一人で抱えないことが大切です。

寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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