更年期障害は何歳から? 代表的な症状と原因を解説!

教えて!ドクター@輝くクリニック
学ぶ

今感じている不調が更年期によるものかどうかを、知りたい人は多いようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期と年齢の関係、更年期の不調に対する準備についてお話を伺いました。



更年期の不調が訪れる年齢

―更年期の不調と年齢に関連はあるのでしょうか?

寺内先生(以下、寺内) 更年期は、思春期などと同じライフサイクルの一つです。

女性の一生は、思春期(10~18歳頃)、性成熟期(18~45歳頃)、更年期(45~55歳頃)、老年期(55歳頃~)という4つのライフステージに分けることができます。

更年期の定義でいえば、日本では「更年期は、閉経前と閉経後のそれぞれ5年、あわせて10年間」ということになります。

ただし、まだご自身に月経がある場合は、いつ閉経するかが分かりませんので、現時点では、閉経前の5年間にあたるのかどうかは分からない、ということになります。

けれども、日本人女性が閉経を迎える平均年齢は50歳頃といわれていますので、おおむね45~55歳くらいを「更年期」としているのです。


国際的には、世界保健機関(WHO)のSTRAW(ストロー)+10分類」を用います。
*The Stages of Reproductive Aging Workshop+10staging system


―どのような分類ですか?

寺内 「初経」から始まって「閉経」を経て、「閉経後」までを10のステージに分け、月経周期の変化やFSH(エストロゲンの分泌を促すホルモン)などの値、そのときに現れている症状によって、更年期にあたるかどうかを考えます。


「STRAW+10分類」の内容は、詳細に規定されているものですが、ここでは、更年期に関連するところだけをおおまかに説明します。

女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量は、閉経の前後2年くらいに、波打つように大きくゆらぎながら減っていきます。更年期の不調のお話をするときに、よくご説明するのは、「STRAW+10分類」のステージ-1~+1bが「更年期のコアタイム」だ、ということです。この時期に、更年期の不調が最も現れやすくなります。

〇ステージ-2
最終月経の1~3年よりもさらに数年前で、月経不順が見られ、月経周期が7日間以上ずれたり、月経周期の長さが違ったりして、FSH値の上昇もみられる時期を、「閉経移行期初期」と分類しています。

———————–<更年期のコアタイム>—————————-

〇ステージ-1
続いて、最終月経の1~3年前で、月経が60日(約2か月)以上なく、FSH値の上昇がみられ、血管運動神経症状(ホットフラッシュ)もある時期が「閉経移行期後期」です。

〇ステージ+1a 〇ステージ+1b
そして、最終月経後1~2年で、FSH値の上昇が続き、血管運動神経症状も見られる時期を、「閉経後初期」としています。

———————————————————————–


―「更年期のコアタイム」、ぜひ覚えておきたいです。そして、更年期は月経周期の変化に着目して考えるのですね。例えば、年齢的に日本の定義よりも早く、45歳未満で更年期を迎えることもあるのでしょうか?

寺内  そういうこともあると思います。日本の定義でも、「STRAW+10分類」でも、更年期は、月経不順や月経の周期の乱れが前提になります。「STRAW+10分類」で考えた場合、40代前半の方でも、月経周期の乱れがあり、FSH値の上昇、血管運動神経症状が見られれば、更年期と考えてもよいと思います。

―更年期の判断に、女性ホルモン「エストロゲン」の値は用いないのですか?

寺内 エストロゲンは、FSHに促されて分泌されます。更年期を迎えると、卵巣機能が低下し始めますので、エストロゲンの分泌量は少なくなります。けれども、エストロゲンを分泌してほしいので、脳が命令を出してFSHを多く分泌し、エストロゲンの分泌を促します。

この時期のエストロゲンの分泌量は不安定で、波打つようにゆらぎながら、あるときは多く分泌し、またあるときは少ししか分泌されないということを繰り返して、ゆらぎながら少しずつ減っていきます。

エストロゲンの値も確認しますが、測定するタイミングによっては、エストロゲンが多く分泌されていることもあります。そのため、FSHといった閉経時に変化する内分泌ホルモンの値を参考にします。



更年期障害の症状

―ゆらぎの時期に現れる症状には、どのようなものがあるのでしょうか?

寺内 ゆらぎの時期には、さまざまな不調が現れます。ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)、発汗といった血管運動神経症状はじめ、吐き気、めまい、しびれ、肩こり、腰痛、疲れやすい、頭痛などの身体症状、うつ、不安などの精神症状です。

こうした更年期に現れる不調を「更年期症状」といい、それが日常生活に影響を与える場合を「更年期障害」といいます。更年期の不調は、人によって強く現れる症状が異なり、複数の症状が重なることもあります。



更年期の不調はいつまで続く?


―更年期の不調は、年齢的にいつまで続くものなのでしょうか?

寺内 閉経する年齢は、人によって異なりますので、一概に何歳までとはいえません。けれども、先ほどもお話ししたように、閉経前後はエストロゲンが大きくゆらぎますので、その時期に不調が最も現れやすいといえます。

アメリカで開発されたうつ状態を測る心理テストに、「CES―D**」があります。それを用いたアメリカの研究に、閉経2年後にうつ症状のリスクが1/2になったという報告があります。
**The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(自己回答方式の心理テスト)

―更年期の不調は、閉経後2年くらいで収まるということでしょうか?

寺内 更年期の不調や強さ、長さには個人差がありますので、あくまでも一つの目安と考えるのがよいと思います。

というのは、更年期の健康状態に関するアメリカの大規模コホート研究SWAN(スワン***では、血管運動神経症状が消失するまでに、8年かかるという報告があります。最終月経からですと、平均で5年ほどかかっています。
***Study of Women’s Health Across the Nation

また、「ホットフラッシュと不眠には深い関係が?」の回でもお話ししましたが、2021年に、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター、アステラス製薬株式会社と共同で研究チームを組み、中高年女性の血管運動神経症状(ホットフラッシュ)の有症率と不眠症状との関連を発表しましたが、その調査で約2割の女性が、60歳以降もホットフラッシュを自覚されていることが分かりました。
中高年女性におけるホットフラッシュの有症率 および不眠症状との関連


―50代前半は5割近い方がホットフラッシュを実感されていますが、60代、70代、80代でも、それぞれ2割近い方が自覚されていますね。

寺内 はい。更年期の不調は、多くの方は閉経後2年ほどで和らぐといえますが、人によっては、それ以上に症状が長びくことがありうるということです。

―個人差が大きいのですね。

寺内 更年期障害の治療のお話をしますと、症状をゼロにすることを目標にするわけではありません。更年期は体も変わりますが、意識も変わっていく時期です。何歳まで、何年間、という視点で考えるのではなく、「完全に症状がなくなったわけではないけれど、これだったらやっていけそう」というところを目指すほうが、無理がないように思います。

日々、更年期外来で患者さんのお話を聴いていますと、閉経後、数年経ってから、「そういえば、症状が気にならなくなった」という方が多いのです。たとえ症状があっても、うまく折り合いをつけて、更年期の心身の変化を受けとめられるようになったら、「更年期のゆらぎや不調は、おおむね卒業できたかな」と思ってよいのではないでしょうか。

―そうですね。私も更年期の不調と上手につきあって、「これだったらやっていけそう」というところを目指したいと思います。



男性の更年期障害

―更年期の不調は男性にもあるのでしょうか? またどのような症状が現れやすいのでしょうか?

寺内 男性と女性の更年期の違いは、テストステロンの分泌量の変化の仕方です。男性の場合、年齢とともにテストステロンは徐々に低下しますが、女性のエストロゲンのように急激に減少することはありません。また、女性の更年期のように大きく変化することもありません。そうした意味合いでは、「男性に更年期はない」ということになります。

けれども、実際には、テストステロンのレベルが少しずつ低下する方もいれば、大きく低下する方もいて、個人差があります。

テストステロンが低下することによって、うつ、ED、イライラ、不安、疲れやすい、ほてり、発汗、めまい、頻尿などの症状が現れることを「LOH(ロー)症候群(加齢性腺機能低下症)」といいます。治療法の一つに、テストステロンを補う「テストステロン補充療法(TRT)」があります。

―男性も、女性と同じような症状が現れることがあるのですね。

寺内 男性も女性と同様に、40代、50代は、社会的な責任や負担が大きくなる時期ですので、女性の不調を、エストロゲンの低下だけで語ることができないように、この時期に現れる男性の不調も、テストステロンの低下だけで語ることはできません。けれども、つらいときは一人で抱えずに、早めに専門医の診察を受けてほしいと思います。



更年期の準備

―更年期に向けての準備は、何から始めるとよいでしょうか?

寺内 更年期は、女性ホルモンの分泌量がゆらぐ時期で、月経周期だけでなく、体調もゆらぎます。けれども、「月経周期が乱れること」と、「体や心の調子が傾くこと」の間には関連があって、お互いが密接に結びついていることをイメージできている人は少ないと思います。

ですので、書籍や更年期のポータルサイトなどを通じて、月経や体調がどのように変化していくのかを理解し、心づもりをしておくと、更年期を上手に乗り切れるのではないでしょうか。

―そうですね。更年期のポータルサイト「輝きプロジェクト」には、更年期についての記事が多く掲載されていますので、そうした記事を読むことも、心の準備につながりますね。閉経のメカニズムを知りたい方は、「更年期と閉経のメカニズムを学ぶ」も参考にされるといいですね。日常生活で心がけるとよいことはありますか?

寺内 基本的には、日常生活のリズムを整えて、「地中海食」のような健康的な食事を心がけ、睡眠を十分にとり、適度に運動することが、更年期だけでなく、健康を維持するうえでも大切だと思います。

―今回のお話を伺って、更年期の不調は月経周期に着目することが大切だと、よく分かりました。また、更年期の予備知識なしで、「なんだろうこの不調は…」と思うのと、これが更年期かな、「きたきた」と思うのとでは、戸惑い方が違うと感じました。今回も貴重なお話をありがとうございました。


寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

ピックアップ記事

関連記事一覧