更年期と頭痛の関係

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~更年期のつらい頭痛、どう乗り切る!?~

更年期に訴えの多い症状の一つに頭痛があります。一方で、医療の現場では、ここ1年ほどの間に片頭痛の新薬が次々と登場。片頭痛を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期と頭痛の関係やその対処法、劇的に変わりつつある片頭痛の治療法についてお話を伺いました。

更年期世代の「頭痛」。症状を訴える人は多い?
片頭痛と緊張型頭痛について
頭痛と女性ホルモンとの関係は?
片頭痛を劇的に予防できる新薬が登場
市販薬の飲み過ぎにご用心
おすすめのセルフケアについて

 

更年期世代の「頭痛」。症状を訴える人は多い?

―更年期の女性に、頭痛の症状を訴える方が多いと聞きます。

寺内公一先生(以下、寺内) そうですね。更年期外来の患者さんを対象にした調査では、週1回以上の頭痛がある人は半数以上、ほぼ毎日頭痛があるという人が約14%もいらっしゃいました。非常に頻度の高い症状の一つだと思います。

また、更年期の女性に多くみられる頭痛は、抑うつの症状のスコアと正に相関することもわかりました。つまり、抑うつ症状のある人は頭痛に悩まされていることが多いということです。

*Terauchi et al. Evid-Based Compl Alt 2014: 593560, 2014 

―更年期はライフサイクル上でも、過度なストレスがかかりやすい時期。気持ちがつらくなるだけでなく、頭痛も重なるのですね。

寺内 更年期に頭痛の症状をもつ方を対象にしたこの調査では、ホルモン補充療法と漢方薬の当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)のどちらが、頭痛を軽減するのかについて調べました。その結果、当帰芍薬散には、頭痛だけでなく抑うつ症状も軽減する作用があることが分かりました。

つまり当帰芍薬散は、ほてりやのぼせ(血管運動神経症状)には、ホルモン補充療法と同程度に効いて、頭痛と抑うつ症状には、ホルモン補充療法以上に効いたということです。

―婦人科系のお薬としてなじみのある当帰芍薬散に、頭痛と抑うつ症状を軽減する作用があったのですね。

寺内 当帰芍薬散にはいくつかの生薬が含まれていますが、そのなかに、川芎(せんきゅう)という生薬があります。昔から鎮痛剤として用いられてきた生薬で、日本の漢方薬では、和川芎が用いられています。

倦怠感を感じている更年期の女性

 

片頭痛と緊張型頭痛について

―更年期世代の頭痛の多くは、「片頭痛」と「緊張型頭痛」といわれます。それぞれどのような症状なのでしょうか。

寺内 典型的な症状ということになりますが、片頭痛は、頭の片側が脈打つような痛みで、起き上がれなかったり、学校や仕事を休んでしまったりするなど、日常生活に支障が出ることがあります。症状としては、2~3日くらいで治まります。

また、ぎざぎざの光が見えるなど、前兆のある片頭痛もあります。

緊張型頭痛は、頭全体が締め付けられるような痛みです。痛いけれど、日常生活はなんとかやり過ごせることが多いといわれます。

けれども実際には、片頭痛と緊張型頭痛を、クリアに分けることは難しい…というのが臨床の実感です。

 

頭痛と女性ホルモンとの関係は?

―更年期の片頭痛や緊張型頭痛は、女性ホルモンと関係があるのでしょうか。

寺内 片頭痛は、閉経後に症状が軽くなることから、いわゆる女性ホルモンのゆらぎ(女性ホルモン・エストロゲンの分泌量が波打つようにゆらぎながら減っていくこと)と関連があると考えられています。

片頭痛のなかには、月経関連片頭痛というものがあります。月経周期中に女性ホルモンの変動にともなって起こる片頭痛です。

緊張型頭痛は、閉経後も症状が起こる頻度が変わらないか、もしくは悪化することから、女性ホルモンとの関連はあまりなく、首や肩のコリ、緊張などが関連していると考えられています。

―そういわれてみると、私も閉経後、頭痛がラクになった気がします。片頭痛は女性ホルモンのゆらぎと関連があったのですね。知りませんでした。

寺内 エストロゲンの分泌量が低下すると、神経の末端からCGRP(シージーアールピー)というたんぱく質が放出されて血管が広がるのですが、それによって痛みが出ることがわかっています。
*カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide)

 

片頭痛を劇的に予防できる新薬が登場

―片頭痛の治療法にはどのようなものがあるのですか。

寺内 これまでは、片頭痛の効果的な薬としてトリプタン製剤が用いられてきました。

けれども、飲むタイミングが難しく、片頭痛が起り始めたときに(CGRPが放出されたタイミングで)飲まないと効かない、という点に課題がありました。

患者さんにしてみれば、痛くなったので薬を飲んだけれど、効かないこともあったわけです。

ところが、ここ1年ほどの間に、CGRPを活発に働かせないようにする新しい予防薬(注射)が3剤登場して、状況が一変しました。各薬によって異なりますが、基本的には月に1回程度の注射で、劇的に片頭痛が予防できるようになったのです。
*エムガルティ®、アジョビ®、アイモビーグ®

―それはうれしいですね! その注射は何科で打っていただけるのですか。

寺内 新しい予防薬の注射は、専門医(内科、精神科、頭痛外来)による治療になります。

ただ、その前に、今感じている頭痛は、本当にただの頭痛なのかを調べることが大切ですね。

神経内科脳神経外科などを受診して、頭痛の背景に大きな病気が隠れていないことを確認し、その上でつらい片頭痛が続いているのなら、大変よく効く予防薬があるので、それで予防しましょうということですね。まずは、医師とよく話し合いましょう。

―画期的な予防薬ですが、費用の目安を教えていただけますか。

寺内 予防薬の注射によってそれぞれ異なりますが、保険適用でひと月あたりの自己負担額が1万2000円~1万5000円くらいになります。

ーそうなのですね。高額な注射ですが、痛くなるたびに薬を飲む手間や、痛みが続くことを考えると、月に1回程度の注射で、頭痛がラクになるのはうれしいですね。重い症状や頻度が多くて困っている人にとって朗報ですね。

 

市販薬の飲み過ぎにご用心

―市販の頭痛薬でやり過ごしている人も多いと思います。

寺内 緊張型頭痛が起きたときは、アスピリン、イブプロフェン、ロキソニン、といった市販のNSAIDs(エヌセイズ/非ステロイド性抗炎症薬)を使われることが多いと思います。

―これらの頭痛薬は薬局やドラッグストアで手軽に購入できる分、飲み過ぎが気になるという声も聞きます。

寺内 そうですね、気になるときは、1カ月単位で、どれくらいの量の頭痛薬を飲んでいるのかを、把握するとよいのではないでしょうか。

例えば、月経関連片頭痛の場合、月経時の頭痛がつらいときに頭痛薬を飲むとすると、1日3回、3~4日ほど服用することになります。この程度であれば、大きな問題はないと思います。

けれども、頭痛がするたびに頭痛薬を飲んでいる場合、例えば、1日3回、月の半分以上服用しているようなら、飲み過ぎになります。

NSAIDsの飲み過ぎは腎機能の低下や、消化器官の障害など、様々な疾患につながります。また、意外なようですが、頭痛薬の飲み過ぎが原因で頭痛が起こるということもあります。

ですので、今は、先ほどお話しした予防薬の注射がありますので、つらい頭痛が続いている人は、医師に相談するとよいのではないでしょうか。

―なるほど。なんとなく頭痛薬を使うのではなく、自分がどれくらい服用したのかを記録して把握することが大事ですね。

大豆イソフラボンが含まれる大豆

 

おすすめのセルフケアについて

―頭痛に効果的なセルフケアにはどのようなものがあるでしょうか。

寺内 昔からいわれていることですけれども、頭痛日記をつけてみるとよいのではないでしょうか。頭痛の症状とともに、生活習慣を記録しておくことで、何かある特定のものを食べたり飲んだりしたときに、頭痛が起こりやすいということが見えてくることがあります。

例えば、カフェイン、アルコール、チョコレートなどは、頭痛が起こりやすい食品として知られています。もし、チョコレートを食べたときに頭痛が起こりやすいということが経験から分かってくれば、チョコレートを控えることができますね。

―なるほど、頭痛につながる食品があるかもしれないといった視点は大事ですね。逆に、頭痛予防に効果的な食品はあるのでしょうか。

寺内 最近出した論文*で閉経期以降の女性の頭痛と関連する栄養素を調べたのですが、イソフラボンを摂っている人ほど、頭痛が少ないことがわかりました。頭痛が気になる人は、ふだんの食事で、大豆製品を摂るとよいと思います。食事の補完として大豆イソフラボンのサプリメントを摂るのもひとつですね。
*Kazama, Terauchi, et al. Nutrients 14: 1226, 2022

―大豆イソフラボンは、体内で女性ホルモンと似た働きをすることが知られていますが、頭痛の軽減にも役立つのですね。他のセルフケアとして、ストレッチなどは頭痛の軽減に役立つでしょうか。

寺内 緊張型頭痛は、女性ホルモンとの関連はあまりありませんが、首や肩のコリ、緊張が一因と考えられています。

加齢によって、首や肩周りの筋力が衰えることに加えて、日常生活では、食事や家事、仕事は、腕を前にした前傾姿勢が多いため、首や肩に負担がかかりがちです。

首や肩の柔軟性を保ち、血行を良くするためにも、肩を上げ下げしたり、腕や背中を伸ばしたり、同じ姿勢をとり続けないようにしたりすることも大切ですね。

輝きプロジェクトでご紹介している頭痛のセルフケアも役立ちますね。今回は、女性ホルモンのゆらぎと頭痛の関係や、新しい予防薬のお話など、頭痛を取り巻く環境が大きく変わったことがよく分かりました。貴重なお話をありがとうございました。



寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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