ホットフラッシュと不眠には深い関係が?

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血管運動神経症状(ホットフラッシュ<ほてり・のぼせ>や発汗)は、長く更年期特有の症状と考えられてきましたが、最新の調査研究で更年期以降も症状が長引く人が、一定数いることがわかってきました。また体が熱くて眠れなかったり、夜中に目が覚めるなど、不眠とも深い関係があるようです。
そこで今回は、更年期の専門家である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期以降のホットフラッシュや、ホットフラッシュと不眠の関係についてお話を伺いました。


<更年期以降もホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)の症状が続く人はおよそ2割。80代以上の人も>

―顔が急に熱くなったり、のぼせて顔が赤くなったり、滝のように汗が出て止まらなくなったりする血管運動神経症状(=Vasomotor Symptoms「VMS」と表記)は、更年期症状のひとつで、日常生活に支障が出ることもあります。

昨年、寺内先生が参加された研究の論文において、更年期以降もホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)の症状を自覚している人がおよそ2割もいることが報告され、報道で取り上げられるなど、注目を集めています。

※寺内先生は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター、アステラス製薬株式会社と共同で、2021年に「中高年女性のVMSの有症率および不眠症状との関連」の論文を発表されました。

寺内公一先生(以下、寺内) ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状を自覚されていても、必ずしも医療機関にかかるとは限りません。国立長寿医療研究センターとの共同研究では、医療機関を受診していない方も含めた地域住民女性を対象とし、地域にどれくらいの割合でホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状を自覚している人がいるのかを調べました。

―確かに、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状を自覚していても、自分で折り合いをつけて、やり過ごしている方もいるはずですよね。

寺内 今回の調査では、ある地域で無作為に選んだ地域住民女性約2300人の中から、40~91歳の1152人を対象に、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状についてお聞きしました。

その結果、45~49歳は約26%、50~54歳は約45%、55~59歳は約32%の方が、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗を自覚されていることがわかりました。ゆらぎの時期、いわゆる更年期にあたる方々です。特に50~54歳は、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗を自覚している方、症状が強い方の割合がいずれも一番多い年代という結果になりました。

さらに、この調査では、更年期以降もおよそ2割の方がホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状を自覚されていることがわかったのです。

ハンディ扇風機を使う女性


―閉経後も5人に1人がホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状を自覚しているという報告は、印象的でした。

寺内 私は外来を通じて、更年期以降もホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状で悩む方のお話をお聴きしていましたし、また大変困られていることも知っていましたので、今回の研究論文の結果は、私の臨床的な実感とも合致しています。

今回の調査では、40~80歳以上の方を5歳ごとの年代に分けて、ホットフラッシュの有症率を報告しました。症状が弱い方も含めると、40~80歳以上のどの年代でも、約20%の割合でホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗を自覚されています。

―80歳以上の方も、およそ2割の方が、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗を自覚されているのですね。

寺内 今の話と関連しますが、アメリカのSWAN研究(Study of Women’sHealth Across the Nation)で、閉経後もVMSの症状があるかどうかを追跡した調査があります。

閉経から時間が経つにつれてVMSの症状を自覚する人は減っていきますが、症状は平均で7年ほど続くと報告されています。その一方で、閉経後長い年月が経っても、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状を抱えている人たちが、一定数いることも報告されています。

―ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状は“ゆらぎの時期”だけの症状ではないということでしょうか。

寺内 そうですね。基本的には「ゆらぎ」による症状だと考えていますが、なかには「ゆらぎ」の時期が過ぎても症状が続いてしまう人もいらっしゃるのです。

イライラする女性


<ホットフラッシュがある人は不眠やうつ・不安を経験しやすい>

―国立長寿医療研究センターとの研究論文では、VMSと不眠の関係についての報告も大変興味深いものでした。

寺内 VMSの症状がある方と、症状のない方を比べた場合、入眠障害(寝つきが悪くなる)のリスクは、VMSの症状がある方のほうが約2倍高くなり、熟眠障害(ある程度眠ってもぐっすり眠れたという満足感が得られない)のリスクも2倍ほど高くなることがわかりました。

また、私が行った別の研究では、入眠障害には、VMS (血管運動障害でも特に寝汗)だけではなく「不安」も関係し、熟眠障害については、VMS (血管運動障害でも特に寝汗)だけでなく「うつ」も関係することがわかりました。

つまり、更年期に「よく眠れなくなる」症状の背景には、いろいろな要因が重なっていると感じます。特に、「VMS」「不眠」「うつ・不安」の3要素は、トライアングルのように結びつき、お互いに深く関連し合っているように思います。

―ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の症状だけでも大変だと感じているところに、不眠やうつ・不安も加わると、心身ともにつらくなりますね。それが長引けばなおさらでしょう。更年期の女性や、周囲の人にもぜひ知ってほしい情報です。


<つらい症状が続くときは抱え過ぎずに相談を>

―なぜ、更年期以降もVMSの症状が長引く方がいるのでしょうか。

寺内 前回 、「KNDyニューロン」についてお話をしましたね。

―エストロゲンの分泌量が低下するとKNDyニューロンの働きが活発になり、体温調節のスイッチが過敏になるということでした。

寺内 そうです。これは、あくまでも私の理解ですが、そうした変化が更年期以降もずっと残ってしまい、そのために、VMSの症状が長引いてしまうのではないかと考えています。

―なるほど。読者の皆さんのなかにも、更年期は過ぎたけれど、VMSの症状があり、つらい思いをされている方がいるかもしれません。更年期以降のVMSの症状に対しては、どのような治療法があるのでしょうか。

寺内 今のところVMSに特化した薬はありませんが、HRT(ホルモン補充療法)や漢方薬の他、症状の緩和が期待できる薬を使うこともあります。

いわゆる更年期世代の方が、VMSの症状を訴えられる場合は、「更年期障害」として、比較的スムーズに治療方針を立てやすいのですが、例えば、70代、80代の方が、VMSの症状を訴えられた場合は、更年期は過ぎていますから、患者さんの訴えと治療法が、更年期世代の方のようにスムーズにつながらないことはあると思います。

それだけに、患者さんご自身もつらい思いを長く抱えていらっしゃるわけですが、私の外来では、患者さんのお話をよくお聴きして、患者さんの意見を伺いながら、症状を和らげるための治療方針を立てていきます。

 

更年期(おおむね45~55歳)という時期にとらわれ過ぎずに 、VMSの症状がつらく、このままだと日常生活が送れないと思ったときは、更年期外来の受診を検討して良いでしょうか。

寺内 そうしてほしいと思います。婦人科医は、女性のからだとこころの専門家であり、更年期だけでなく、思春期、性成熟期、老年期と、生涯にわたって患者さんに寄り添い続けるパートナーです。

また、今回のVMSの研究のように、更年期症状の研究は日々進んでいます。新しい治療法が見つかることもありますので、VMSに限らず、不調でつらいときは一人で抱え過ぎずに、早めに医療機関を受診していただきたいと思います。

―心強いです。そういえば、キッコーマンの「輝きプロジェクト」をご担当されている方も、更年期という枠にとらわれずに、更年期以降もぜひアクセスしてほしいということをお話しされていました。

女性のからだやこころが大きく変化する更年期は、更年期に理解の深い医師とつながることや、新しい情報をキャッチすることが大切ですね。
本日も貴重なお話をありがとうございました。次回は「ホットフラッシュの対処法は、自分に合うものを選んで」について掲載予定です。




寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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