つらい更年期の頭皮のかゆみ、特有の原因と対策

セルフケア


更年期症状に悩む5人のヴィーナスが、その道の専門家に解決法をインタビューする『お悩み解決隊』。今回は52歳のキャリアウーマン・ナオミが、最近悩まされている頭皮のかゆみについて、皮膚科医の檜垣祐子先生にお話を聞いてきました。頭皮のかゆみは、頭皮だけが理由じゃないようで…。ナオミにとって、更年期の生活全般を見直すいいきっかけになったようです。


頭皮のかゆみは、かぶれや湿疹が主な理由。白髪染めにも要注意

ナオミ 先生、最近頭皮にかゆみが出てきて、仕事中にも気になり、気が付くと頭を触ってしまいます。頭皮のかゆみはどうして起きるのでしょうか。

檜垣先生(以下、檜垣) 頭皮も肌ですから、頭皮に合わないスキンケアをしているとかゆみが出ます。シャンプー剤が合わないとか、洗髪時に頭皮をこすり過ぎ、ごしごし洗い過ぎが原因の一つになるのは、どの世代も共通です。もう少し症状が進んでいるなら、ヘアダイ(染毛剤)などからくるかぶれ(接触皮膚炎)や湿疹(脂漏性湿疹やアトピー性皮膚炎)の可能性もありますね。ナオミさんが白髪染めをしているなら、接触皮膚炎かもしれません。

ナオミ 確かに少し前から白髪染めはしています!定期的に薬剤を髪につけるわけですから、肌には刺激や負担になっているはずですよね。

檜垣 ジアミン系の染毛剤は、色も豊富なので汎用されていますが、頭皮に傷や炎症があると、かぶれを引き起こしやすくなりがちなので、そのようなときは避けるのが良いでしょう。一度かぶれる体質になってしまうと、使う度にかぶれを起こしますので、使用できません。ヘナを用いたものもありますが、これもかぶれやすい成分を含む場合がありますので、万全ではありません。ヘアカラーの中で一番トラブルが起こりにくいのはヘアマニキュアですが、長持ちしないのが難点なのです。

ナオミ いい機会なので、自分に合う白髪染めについて考えてみます。シャンプーやヘアダイ以外にも、頭皮のかゆみの原因はありますか。

檜垣 ストレスがあると皮膚にかゆみが出ることがあります。体の部位では頭皮に多い症状ですが、なぜ頭皮が多いのか理由ははっきり分かっていません。

また、ナオミさんの年代には更年期障害の症状の一つ、自律神経失調症による血管運動性障害が起きやすいので、顔が急に熱くほてって頭皮がかゆくなり、悪化することもあります。いわゆる冷えのぼせの症状です。他には、他の部位の皮膚と同じように、寒くて湿度の低い冬には、皮膚の乾燥からかゆみが出るケースも見受けられます。

更年期世代の患者さんから聞かれる症状は、薄毛・抜け毛の悩みに次いでかゆみが多いんですよ。ちなみにかゆみ以外の自覚症状、例えば頭皮の痛みや、ちくちく、ひりひりすると訴える方もいらっしゃいます。



今すぐなんとかしたい!頭皮のかゆみの対処法

ナオミ なるほど、かゆみといってもいろいろな原因が考えられるのですね。かゆみが出たらどう対処すればいいのでしょうか。

檜垣 かゆみにはクーリング、つまり冷やすといいです。保冷剤にハンカチなどを巻いて皮膚が濡れないようにカバーして、かゆいところに当ててみてください。保冷剤にハンカチを巻く理由は、頭皮を水で濡らさないため。濡れる、乾くを繰り返すと、皮膚表面の角層のバリア機能が低下して、乾燥しやすくなり、余計かゆみが出てしまうのです。

なお、保湿効果のある温泉水のスプレーローションを地肌に吹きかけるのも良いと思います。

また、イライラしてかゆみを感じるときは、深呼吸をしたり、アロマやお香で気持ちをリラックスさせたり、少し体を動かしたりして気持ちをリフレッシュすると、かゆみがおさまることもあります。



頭皮にかゆみが出たら、まずは毎日の生活習慣を見直そう

ナオミ 頭皮のかゆみとストレスが関係しているなんて、考えてもいませんでした。

檜垣 頭皮も体の皮膚の一部ですから、頭皮のトラブルは心身の健康と密接に関係しています。更年期世代の方は、頭皮に良くない生活を重ねていないか、自分の生活習慣を見直してみるといいと思います。特に睡眠と食事はとても大事です。まずは健康で快適な暮らしを送れるよう、毎日意識しましょう。そのうえで、もしかゆみが出たら、以下にご紹介するセルフケアをしてみてください。ケアする際は自分自身の感覚を大切にして、快適な方法を選択していってくださいね。


【頭皮のセルフケア】

●バランスのいい食生活を心がける

更年期には女性ホルモンの分泌量が減少するため、脂質や糖質の代謝に変化が出てきやすいので、バランスの良い食事を心がけてください。仕事を優先して食生活がおろそかになっていたり、栄養バランスを考えずに簡単に済ませがちだったり、10代、20代の子どもたちに合わせてたくさん食べすぎてしまっていたりということは、思い当たる方も多いはずです。

また、適切な時間に食事することも大事です。忙しいからと夜遅くに食べるのではなく、就寝の3時間前までに済ませるように生活を改善してください。

●睡眠時間をたっぷりとる

睡眠時間は、頭皮に限らず皮膚の健康にとって大切です。しっかりと良質な睡眠をとるように心がけましょう。

●お風呂やシャワーの温度に注意

お湯が熱かったり長湯したりすると、体が温まりすぎて頭皮にかゆみが出ることがあります。かゆみを感じるときは、お風呂とシャワーの温度はいつもより低めにするなど工夫してださい。

●シャンプーの選び方、使い方

シャンプーは泡立ちの良いものを選ぶといいですよ。シャンプーによっては、しっとりタイプとさらさらタイプがありますが、これは自分のなりたい髪の状態で選んで構いません。

また、シャンプーはよく泡立てて使い、頭皮をこすりすぎないようにしましょう。泡立てる際は、ペットボトルにお湯とシャンプ―を入れて強くふったり、ネットを用いるのも一つの方法です。シャンプーブラシで髪の毛を梳きつつ泡立てても良いと思います。

なお、シャンプーブラシを使うと、地肌を強くこすりつけないで済むので、頭皮を痛めにくいですし、手荒れ対策にもなるのでおすすめです。シャンプーブラシを使う際は、ブラシの先が頭皮に触れるか触れないかという程度の強さで大丈夫。

●ドライヤーの使い方

髪型によるとは思いますが、ドライヤーの熱風を地肌近くに当てすぎないようにしてください。頭皮に熱さを感じるようであれば、ドライヤーの距離を調整しましょう。

●ブラシの選び方

頭皮には強い刺激を与えないほうがいいので、肌当たりのやわらかいブラシを選ぶとよいでしょう。頭皮に刺激を与えようとして、硬いブラシを頭皮に当てたり、叩いたりしないほうがいいです。



ナオミ 毎日忙しいと、生活習慣の改善はついつい後回しにしているなと実感しました。鏡の前に立って初めて、白髪の量や髪のボリュームのなさに愕然とすることがあります。

檜垣 髪のボリュームが減ってきたり、髪にコシがなくなったり細くなったりと、薄毛になりやすいのも更年期にはありがちです。髪の悩みから外見が気になりはじめ、落ち込んでしまう人もいます。こういう場合は、ボリューム感のあるようなヘアスタイルにして、生活を楽しむ工夫をすると良いと思います。これはやっちゃだめ、あれもやっちゃだめ、などと自分を追い込まず、更年期の生活を楽しめるような健康観の軸を持つことが大切。自分の健康にとって何が大事か分かっていれば、テレビやネット、周りの人のおすすめに惑わされることがなくなります。なにごとも焦らず自分の価値観で決めていけると、落ち着いて暮らせるようになりますよ。

ナオミ 確かに自分をしっかり持ち、他人の価値観に振り回されなくなれば、ストレスも減りますね!



頭皮のかゆみはストレスサインの場合も

ナオミ 頭皮のかゆみがイライラから来る場合もあるとお聞きしましたが、仕事で責任が増すと、それに伴ってストレスも増えてしまって…。どんなふうに毎日を過ごしていけばいいでしょう。

檜垣 忙しいナオミさんの場合、もしかして頭皮のかゆみがストレスサインになっているのかもしれませんね。多忙な方はたいてい食事が偏っていたり、睡眠が不十分であったりするものです。まずは心身ともにストレスを感じているという視点を持つことから始めましょう。頭皮のかゆみをきっかけに、自分自身の健康的な生活について考えるタイミングなのかもしれません。今よりもゆったりした時間を持つ、リラックスできる工夫を取り入れるなどして、生活の改善に取り組んでください

ストレス解消には“発散”と“休養”があるといわれています。活動的で多忙な人は、発散するのは上手ですが、休養することが結構下手なもの。意識して休養するための時間をとり、その時間にイベントや活動を入れないことです。焦らず制約されず、ゆったりと快適な時間を過ごせるようになれば、休養も達人レベル!そうなればストレスも減り、頭皮のかゆみからも解放されるかもしれません。

リラックスする時間をもつ女性



クリニックに行ったほうがいい頭皮のかゆみとは

ナオミ セルフケアをしても頭皮のかゆみがおさまらない場合はどうすればいいのでしょうか。

檜垣 かゆみが長く続く、かゆみが強くて日常生活に支障がある、かゆみの部位に湿疹ができた…。いずれかの症状があれば皮膚科を受診してください。頭皮のかゆみが炎症となり、悪化すると大変です。そんなときは、セルフケアもシャンプーもやめて医師の指示を仰ぎましょう。

ちなみに更年期が原因とされる冷えのぼせは、女性ホルモンの変動だけでなく、自律神経の失調からも起きます。したがって更年期過ぎても冷えのぼせになり、頭皮のかゆみが起きる可能性はあります。



更年期を上手に過ごして、頭皮も人生も健やかに

ナオミ 今日は頭皮のかゆみを取りたい一心で先生に相談に来たつもりが、頭皮ばかりに目を向けていてはダメなんだと気付かされました。

檜垣 食事や睡眠、ストレスの管理、運動することは、更年期世代にとって健康への近道です。同時に、頭皮を刺激しすぎない(ごしごし洗ったり搔いたりしない)ようにすれば、頭皮のかゆみが改善するケースもあると思います。気の持ちようもポイントなので、薄毛が気になりがちな更年期ではあると思いますが、ヘアスタイルを楽しんで気持ちを上げていってくださいね。

ナオミ 分かりました!檜垣先生、最後に更年期を過ごしている読者にメッセージをいただけますか?

檜垣 「更年期」の「更」の字は、あらためる、古いものを入れ替える、などの意味があります。若さの延長で暮らしてきた今までのやり方を見直して、自分らしい、のびのびした、無理のない、少しゆとりを持った生き方に切り替える時期なのです。いうなれば、更年期は人生の折り返し地点。この時期をどう過ごすかが、その後の長い老年期の生き方に影響します。この時期は、若さ、健康、子どもの巣立ち、親の看取り、不本意な離職など…失うものも多く感じると思います。でも、視点を変えれば、得られるものも多いはず。頭皮にトラブルを感じたら、一旦立ち止まって今までのライフスタイルを見直してみてくださいね。

ナオミ 確かに、更年期は今までの価値観や生活習慣を見直して、入れ替える時期ですね。失ってばかりではなく、新しく得られるものもある。そのお言葉、胸に沁みました。忙しさを理由にバタバタした生活を送っていましたが、生活習慣を見直しつつ、頭皮のかゆみに対処していきたいと思います。先生、今日は本当にありがとうございました。


檜垣祐子先生
若松町こころとひふのクリニック院長。クリニックでは皮膚科・皮膚心身医療科を担当。大学病院の皮膚科に20年間勤務し、皮膚とストレスの関係に着目。アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の心身医療を実践。その後女性医療にも携わり、2017年に現在のクリニックで院長に。著書に『もっとよくなるアトピー性皮膚炎』(南山堂)、『やってはいけないスキンケア』(草思社)など。

ナオミ 
52歳。未婚。仕事では管理職としてバリバリ働いている。約1年前から頭痛や肩こり、目の疲れがひどくなり、最近では高血圧や高コレステロール、肌の乾燥の症状も。生理周期が極端に短くなってきているのが悩み。

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