更年期の尿漏れ、体操など対策をドクターに聞いた

セルフケア


更年期真っただ中のヴィーナスたちが、医師や専門家に取材する企画「お悩み解決隊」。今回のテーマは、誰にも相談できず一人で悩んでいる人も多いといわれる「尿漏れ」です。仕事と子育てに奮闘するヤヨイも他人事ではない⁉密かに気になっている大勢の女性を代表して、日本泌尿器科学会専門医・指導医の巴ひかる先生に、尿漏れの原因やセルフケアについてお聞きしました。

40歳以上の女性の約半数が尿漏れを経験
更年期の尿漏れは「腹圧性尿失禁」が多い
尿漏れのタイプによって原因が違う
更年期に尿漏れが増えるのはなぜ?
尿漏れには骨盤底筋訓練が効く!
肥満も原因の一つ。太っている人は減量しよう
その他日常生活で気を付けること
病院ではどんな治療をするの?
一人で悩んでいるより受診したほうが良いかも!



40歳以上の女性の約半数が尿漏れを経験

ヤヨイ 最近、テレビで尿漏れパッドのCMをよく見かけるのですが、尿漏れに悩んでいる人はどのくらいいるのでしょうか?

巴先生(以下、巴) 日本排尿機能学会が行った排尿に関する疫学調査(2003)によれば、成人女性の4人に1人が尿漏れを経験しているそうです。40歳以上では約44%に上るとされています。

ただ、尿漏れを経験したことがあるからといって、悩んでいるとは限りません。何年か前に風邪をひいて咳がひどいときに1度だけ漏れた人も、アンケートで経験の有無を問われたら「経験あり」になります。逆に、たまに運動したら毎回ちょっと漏れるけど、普段は漏れないから特に悩んでいない人もいます。

尿漏れというと、大量に尿が漏れることをイメージされるかもしれませんが、意図せずに尿が1滴でも尿道から出たら、すべて尿漏れです。尿意をガマンしているときにうるっとして、漏れたかどうか分からない程度なら、4人に1人どころではないでしょう。

ヤヨイ 下着が濡れていなくても、うるっとしたら尿漏れなんですね。それなら私も…って、白状しちゃいますが、更年期のせいか、若い頃より尿意をガマンできなくなってきたので、早めにトイレに行くようにしています。


更年期の尿漏れは「腹圧性尿失禁」が多い

ヤヨイ 先ほどのお話で、運動したときに漏れる人もいるとのことでしたが、そうした人は多いのでしょうか?

 尿漏れには大きく分けて2つのタイプがあります。

1つは「腹圧性尿失禁」といって、咳やくしゃみをしたときや、重いものを持ち上げたときに、お腹に力が入って尿が漏れてしまうもの。運動したときに漏れる人はこのタイプです。

もう1つは「切迫性尿失禁」といい、突然強い尿意に襲われて、急いでトイレに行っても間に合わずに漏れてしまうタイプ。水に触ったり水の音を聞くと、急に尿意が起こるのはこれ。この2つの症状を併せ持つ「混合性尿失禁」も少なくありません

女性では腹圧性尿失禁が最も多く、約半数を占めるといわれています。残り50%のうち、切迫性尿失禁が約20%、混合性尿失禁が約30%です。

切迫性尿失禁は高齢女性に多いため、更年期に限れば、腹圧性尿失禁が圧倒的に多いといえます。


尿漏れのタイプによって原因が違う

ヤヨイ 先生、どうして更年期の女性では、腹圧性尿失禁が起こりやすいのでしょうか?

 腹圧性尿失禁の原因は2つあります。骨盤底筋が衰え、膀胱や尿道を支えられなくなることと、尿道を締める筋肉が弱ることです。

骨盤底筋が衰えると、お腹に力が入った拍子に尿道がぐらぐらして、開きやすくなります。尿道が緩んで開くと尿が漏れてしまいますが、骨盤底筋は他の筋肉と同じで、加齢とともに衰えます。妊娠、肥満などで重みがかかり、筋肉や靭帯が伸びて緩んでしまう人が多いですね。出産時に筋肉が傷つくこともあります。

ヤヨイ 私も出産の後、少し漏れてしまった経験があります。骨盤底筋が緩んでいたんでしょうね。切迫性尿失禁はまた別の原因があるのですか?

 切迫性尿失禁は尿路感染症のときも起きますが、おもな原因は「過活動膀胱」です。過活動膀胱では膀胱が勝手に収縮して尿を押し出そうとするので、骨盤底筋の衰えがあると切迫性尿失禁を伴いやすくなります。過活動膀胱の原因は脳血管障害や脊髄の疾患、骨盤臓器脱などいろいろあります。

通常は膀胱にある程度尿が溜まると尿意を感じ、トイレに行って排尿準備が整ったら脳からの指令で尿道が緩み、同時に膀胱が収縮して排尿がはじまる仕組みです。ところが、過活動膀胱ではそれほど尿が溜まっていないのに不意に強い尿意が起きるため、頻尿を伴います。


更年期に尿漏れが増えるのはなぜ?

ヤヨイ 産後の尿漏れはすぐに治まったのですが、更年期になって、また起こることはあるのでしょうか?

 更年期の尿漏れは、女性ホルモンの減少も関係しています。女性ホルモンは尿道の筋肉や粘膜にハリやうるおいを与える働きがあるため、女性ホルモンが減っていくことで、尿道の機能が衰えていきます

妊娠や出産で骨盤底筋が緩み、出産前後に尿漏れを経験する人は多いですが、20代30代ならしばらくすると筋肉が修復されます。女性ホルモンも十分に分泌されているため、漏れなくなる場合が多いです。

でも、女性ホルモンが低下しはじめる時期に、今度は子どもが幼稚園や小学校に上がると、一緒に縄跳びをしたり走ったりする機会が増え、腹圧性尿失禁が起こりやすくなるのです。

ヤヨイ 確かに、子どもの世話でお腹に力が入ったり、運動したりすることって多いですよね。「尿漏れするから縄跳びできない」とも言えませんし。


尿漏れには骨盤底筋訓練が効く!

ヤヨイ 更年期の尿漏れを防ぐために、何かできることはありますか?

 腹圧性尿失禁も切迫性尿失禁も、骨盤底筋を鍛えると改善される人が多いですよ。

骨盤底筋は尿道、膣、肛門の周りにあるいくつかの筋肉群の総称です。これらを収縮させたり弛緩させたりして、意識的に動かすことが骨盤底筋の訓練になります

【骨盤底筋訓練のやり方】

<基本姿勢>

①仰向けに寝て足を少し開き、膝を立てます。両膝は握りこぶし1つ分くらいあけ、全身の力を抜きます。

②息を吐きながら10秒くらいかけて、肛門、膣、尿道をギューッと締め、ゆっくり緩めて20~30秒リラックス。これを10回繰り返しましょう。

③締める、緩めるの動きをもう少し早いテンポで行います。「キュッ(締める)、パッ(緩める)」を10回繰り返します。


<応用姿勢>

①椅子に座って背筋を伸ばし、まっすぐ前を向きます。両足は床につけて肩幅に開き、肩の力を抜きます。

②お腹に力が入らないように、基本姿勢の②③を行います。


 骨盤底筋訓練は基本姿勢と応用姿勢のどちらでも構いませんが、1日5回程度行うと効果的です。朝起きたとき、夜寝る前、電車の中、テレビを見ているときなど、暇を見つけてやってみてください。

ヤヨイ 骨盤底筋訓練はどのくらい続けると良いのですか?

 3ヶ月間、毎日きちんと行えば、約7割の人が尿漏れの改善を感じるといわれています。ただし、改善というのは、まったく漏れなくなるという意味ではありません。20ml漏れていた人が10mlになれば大幅な改善ですが、手放しで喜べませんよね。それ以上続けてもっと良くなるものでもありませんが、悪くならないように毎日続けることが大切です。


肥満も原因の一つ。太っている人は減量しよう

ヤヨイ 骨盤底筋訓練のほかに効果的なセルフケアはありますか?

 太っている人には減量を勧めます。更年期になるとお腹に脂肪がつきやすくなりますが、脂肪の重みによって骨盤底筋に負担がかかり、筋肉が緩んでしまうからです。

例えば、半年前から太ってきて尿漏れがはじまったような人は、体重を元に戻すと改善される場合が多いですよ。

ただし、一気に痩せると筋肉が落ちてしまいます。できるだけ筋肉を落とさないためには、正しい食事制限をしながら、運動もしなければなりません。骨盤底筋訓練は運動と呼べるほどカロリーを消費しませんが、一緒にやると効果的です。

ヤヨイ 肥満が尿漏れの原因になるとは知りませんでした。気を付けないといけませんね。

その他日常生活で気を付けること

ヤヨイ 尿漏れがあると日常生活で困ることも多いと思いますが、気を付けたほうが良いことを教えてください。

 そうですね、尿漏れに悩んでいる人は水分を控える傾向があります。でも、尿以外にも汗や便や呼吸によって、体から水分が出ていくので、それを補う必要があります。また、尿漏れパッドの代わりに生理用ナプキンを使う人もいますが、これはお勧めできません。他にもいくつかあるので紹介しますね。

●1日の飲水量の目安は1.2リットル

1日に出ていく水分は約2.5リットルです。食事に含まれる水分1リットルと体の中で作られる水分0.3リットルを差し引いて、飲水量の目安はだいたい1.2リットルになります。

もちろん体の大きさや汗の量によって必要な量は違ってきますが、水分をガマンし過ぎると脱水症状が起こり、脳梗塞や心筋梗塞の要因になります。ただ逆に、必要以上に飲み過ぎても多尿になり、尿漏れがひどくなるので注意しましょう。


●カフェイン、アルコール、塩分はほどほどに

水分補給のためにコーヒーやビールを飲むのは逆効果です。カフェインやアルコールには利尿作用があります。また、塩分も要注意。塩分を摂り過ぎると喉が渇いて飲水量が増え、尿の量が増えるだけでなく、心臓や腎臓に負担をかけてしまいます。

●尿漏れパッドは量で選ぶ

尿漏れが心配なときは、生理用ナプキンではなく、専用の尿漏れパッドや尿漏れパンツを利用しましょう。尿と経血では成分や粘度が違うので、生理用ナプキンだとしっかり吸収されません。

布製の吸水ショーツは、たまに少し漏れる程度なら問題ないかもしれませんが、一日中尿が染み込んだ状態になると、菌が繁殖して膀胱炎になることもあります。値段が張るから、取り換えるのが面倒だからと、吸水量が多いパッドを長時間使用するのも良くありません。尿漏れパッドは漏れる量に合わせて選び、適宜交換することが大切です。

●排尿日誌をつける

頻尿や尿漏れに悩んでいる人は、排尿日誌をつけてみることをお勧めします。1日に何回トイレに行って、どのくらい排泄しているか、どのくらい水分を摂っているかなどを記録しておくと、病院を受診する際にも役立ちます。

【排尿日誌に記録する内容】

①トイレに行った時間と排尿の量

※大きめの計量カップに排尿します。

②水分を摂った時間と量、何を飲んだかなど

③尿漏れしたときは、その時間と漏れた量、漏れた状況など

※尿漏れの量はパッドの重さで計算します。


病院ではどんな治療をするの?

ヤヨイ 尿漏れがある人は、病院に行ったほうが良いのでしょうか?どんな治療をするのかも気になります。

 腹圧性尿失禁は骨盤底筋訓練や肥満の解消が有効なので、病院でもそうした指導をします。その効果が十分でない人や、なかなか痩せられない人、骨盤底筋訓練を続けられないような人には、薬物療法や手術という方法があります。

切迫性尿失禁の治療では、骨盤底筋訓練などの行動療法のほか、過活動膀胱治療薬を用いる場合が多いです。それで効果がなければ、手術や神経を刺激する治療もあります。

いずれにしてもさまざまな治療法があることを説明したうえで、患者さんの希望や症状に応じて選択しています。

ヤヨイ 病院できちんと治療すれば治りますか?

 腹圧性尿失禁は、適切な治療をすれば完治させることも可能ですが、どのような治療でどこまで改善させたいのかは患者さんに決めていただいています。

尿漏れの治療で重要なのは、QOL(生活の質)の向上です。医師としては患者さんの気持ちに寄り添って、満足できるゴールを一緒に目指したいですね。


一人で悩んでいるより受診したほうが良いかも!

ヤヨイ 病院に行くのが恥ずかしい人も多いと思うんです。そこまでじゃないと自分に言い聞かせていたりする人のために、受診の目安があれば教えてください。

 これまでお話ししたように、尿漏れのタイプは大きく2つです。自分でできることをやってみても良くならず、ずっと悩んでいるくらいなら、病院で診てもらうことをお勧めします。また、骨盤底筋の緩みは骨盤から膣や膀胱が飛び出す「骨盤臓器脱」という病気も引き起こします。これが原因で、尿漏れする場合も。お風呂で股に違和感を感じたりしたら、泌尿器科や婦人科を受診したほうが良いでしょう。

尿漏れが心配で外出を控えたり、趣味を楽しめなくなるのは、もったいないと思います。治療して、快適な生活を取り戻しましょう。

ヤヨイ 巴先生、今日は本当にありがとうございました。気になっていたことを教えていただいて、心が軽くなりました。骨盤底筋訓練もやってみます!

巴 ひかる先生

東京女子医科大学附属足立医療センター 泌尿器科・骨盤底機能再建診療部教授

東京女子医科大学医学部医学科卒業。同大学院修了、医学博士。尿失禁をはじめとする女性の排尿障害や難治性の膀胱炎など、女性泌尿器科を専門として臨床・研究を行う。日本泌尿器科学会専門医・指導医、排尿機能専門医。日本排尿機能学会理事、日本女性骨盤底医学会理事などを務める他、メディアへの出演も多数。著書に『悩んでいませんか?女性の頻尿・尿もれ』(主婦の友社)などがある。

ヤヨイ

47歳。中学生の子どもとの2人暮らし。バツイチのシングルマザー。子どもに手がかからなくなってきたので、仕事でキャリアアップに励んでいる。4年前から肩こりや倦怠感、目の疲れ、汗、イライラがひどくなってきて、肌のシワやシミも気になっている。



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