更年期は高血圧になりやすい? 対策も紹介!

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更年期を迎えて、高血圧が気になる人は少なくありません。けれども、気になるけれど、よく分からない…という人も多いようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期と高血圧の関係についてお話を伺いました。


更年期に血圧が高くなる理由

―更年期を迎えて、「それまで低血圧だったのに高血圧になった」という声を聞くことがあります。更年期と高血圧に関連はあるのでしょうか。

寺内先生(以下、寺内) 3つの要素が考えられると思います。1つ目は年齢です。血管は加齢とともに、どうしても硬くなります。例えば、ゴムのホースを長く使っていると、しなやかさが損なわれてしまうのと似ています。血管が硬くなると何が起こるのかというと、血管の弾性(力を加えると変化する力)で血流の圧力を吸収しきれなくなります。そのため血圧が高くなります。年齢を重ねると血圧が高くなるのは、自然なことでもあるのです。

2つ目は、女性の場合、加齢の影響とは別に、女性ホルモンのエストロゲンが低下すると、血管が硬くなるスピードが速くなります。そのため血圧も高くなります。さまざまな研究で、閉経前の人よりも、閉経後の人のほうが、血管が硬くなるスピードが速くなることが分かっています。

そして3つ目は、女性ホルモンのゆらぎの影響です。更年期を迎えると、卵巣機能が低下し始めます。すると、エストロゲンの分泌量が少なくなり、波打つようにゆらぎながら、あるときは多く分泌し、またあるときは少ししか分泌されないということを繰り返して、少しずつ減っていきます。

このゆらぎの時期に現れる代表的な症状の一つが、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗です。ホットフラッシュなどの更年期症状の重さと血圧の高さが関連することが知られています。

―更年期に血圧が高くなる理由は1つではないのですね。


更年期に増える女性の高血圧

―国民健康・栄養調査を見ると、高血圧や高血圧予備群の女性は、40代から増えはじめることが分かります。


寺内 更年期外来にいらしている方、約1500人を対象に高血圧の調査をしたことがあります。高血圧の人は26%でした。4人に1人の方が高血圧ということになります。

―多いですね。

寺内 はい。けれども、高血圧による頭痛やめまいなどの症状は、例えば、上が200で下が140など、よほど高くなければ現れません。そのため、更年期外来で血圧を測ってみて初めて、ご自分の血圧が高いと気づく方が多いように思います。


更年期に高血圧になったときの注意点

―更年期に高血圧になる人が増えるということですが、なぜ高血圧に気をつけなければいけないのでしょう。

寺内 さきほど、加齢と女性ホルモン低下の影響で、血管が硬くなるというお話をしました。血管が硬くなると血圧が高くなりますので、それまで縁遠かった病気にかかりやすくなるのです。その一つが心血管疾患です。

―心血管疾患は、どういう病気ですか?

寺内 心血管疾患には、冠動脈疾患と脳卒中があります。おおまかにいうと、大きな血管の病気です。冠動脈疾患は、心臓の筋肉へ血液を送る血管の病気。脳卒中は、脳に血液を送る血管の病気です。脳卒中には、血管が破れる脳出血と、血管が詰まる脳梗塞があります。

―どちらも命に関わる大きな病気ですね。

寺内 はい。日本人女性の死因を調べると、最も多いのは「がん」です。次いで「心疾患(冠動脈疾患を含む)」。その次に「脳血管疾患(脳卒中を含む)」と続きます。がんで亡くなる方が多いように思えますが、心疾患と脳血管疾患で亡くなる方を合わせると、がんで亡くなる方よりも多くなります。

―女性は血管の病気にかかりやすいのでしょうか?

寺内 そういうことではありません。これはアメリカ人のデータになりますが、30代では、心臓の血管の病気で亡くなる方の比率は、男性を1とすると女性が0.2くらいで差があります。けれども閉経を境に女性の割合が高まっていき、85歳を過ぎる頃には、男性とほぼ同じ割合になります。

―女性は、閉経を境に血管の病気で亡くなる方が増えるのですね。

寺内 そうです。こちらは日本人のデータになりますが、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)で入院する人の割合にも、同様の傾向がみられます。男性が30代頃から虚血性心疾患で入院する人が増えはじめるのに対して、女性は少し遅れて、閉経を過ぎる頃から急速に増えはじめ、90歳頃には男性と同じ割合になります。

―女性は特に閉経後、血管の病気に気をつけないといけませんね。どのようなことに気をつけるとよいのでしょう。

寺内 心臓や血管に悪影響を与える可能性を「心血管リスク」といいます。高コレステロール血症、2型糖尿病、喫煙、メタボリックシンドロームがそれにあたります。喫煙以外は、エストロゲンと何かしらの関係があることが分かっています。

―近年の研究で、分かってきたこともあるそうですね。

寺内 因果関係はまだ分かっていませんが、ホットフラッシュが将来的な心血管疾患のマーカーである可能性があるという考え方になってきています。これまで日本では、ホットフラッシュは、煩わしいけれど健康に影響のない症状だと長く考えられてきました。けれども実は、ホットフラッシュがある人は、将来的に心血管疾患にかかりやすいのではないかという考えです。

―そうなのですね。知りませんでした。もっと研究が進んでホットフラッシュと心血管疾患との関連が分かると、日頃の健康管理にも役立ちますね。


知っておきたい血圧のこと

―高血圧という言葉はよく耳にしますが、よく分からないところもあります。そもそも、高血圧とはどういうことをいうのでしょうか。

寺内 下記は高血圧の診断基準です。赤字は高血圧です。



 ―「診察室血圧」と、「家庭内血圧」の違いは何ですか?

寺内 家で測ると血圧は高くないのに、病院の診察室で測ると高くなることがあるので、測る場所によって診断基準を分けています。

―「収縮期血圧」「拡張期血圧」とは何を指しますか。

寺内 「収縮期血圧」とは、心臓が収縮して、勢いよく心臓から血液が送り出されるときに、血管の壁にかかる圧力のことです。一般的に上の血圧、最高血圧といわれます。「拡張期血圧」は、心臓に血液をためているときの圧力です。心臓が広がり、血流が緩やかになります。下の血圧、最低血圧といわれます。診断基準で、赤字で示されている部分が「高血圧」になります。

―同じ高血圧でもレベル分けされていますね。

寺内 病気になるリスクの高さによって分けられています。

―血圧は、どのようなタイミングで測るとよいでしょうか。

寺内 15分以上安静に過ごしたときです。心臓は、からだの隅々に血液を送り届けるポンプのような働きをしています。例えば、運動すると心拍数は上がりますが、それは、からだを動かすときに必要な酸素を、筋肉に届けるためです。ですので、運動後の血圧は高くなります。

けれども、15分以上静かに過ごして測ったときに血圧が高い場合は、日常的に血圧が高いことが考えられます。血圧が高い状態が続くことで、血管そのものが傷み、命にかかわる大きな血管の病気になる可能性が高くなるのです。

―どのような病気にかかりやすくなるのでしょうか。

寺内 血管が傷んで硬くなったり詰まりやすくなったりする動脈硬化につながります。動脈硬化は、血管が張り巡らされている臓器すべてに影響があります。例えば、先ほどお話しした心血管疾患や、場合によっては多臓器不全になることもあります。

―高血圧に注意を払う必要があることがよく分かりました。ちなみに、診断基準は、どの年代の人も同じ診断基準なのでしょうか。

寺内 はい。40代はこれくらい、50代はこれくらいといった診断基準はありません。けれども、その意味合いが、年齢によって変わってきます。例えば、まだ血管に弾性がある若い方の血圧が高い場合は、背後に大きな病気がかくれていないかを疑います。また、先に述べたように、高齢者の血圧が高くなることは自然ですが、安静にした状態で極端に高い場合はやはり他の病気も疑います。血圧が高い場合は、自己判断せずに医師の診察を受けてほしいと思います。


更年期の高血圧対策

―血圧をコントロールするには、日常生活で何に気をつけるとよいでしょうか。

寺内 加齢やエストロゲン低下の影響によって、血管が硬くなるのは自然なことですので、血管が硬くなるスピードを、加速させないようにすることが大切だと思います。具体的には、食事で塩分を摂り過ぎないこと。そして適度な運動もおすすめです。運動直後の血圧は上がりますが、日常的に運動をしている人の血圧は、運動を全くしていない人と比べて、低いことが分かっています。また、長期間の過度な飲酒は血圧を上昇させます。お酒を控え、たばこを吸わないことも大事です。

そして、これからの季節は、家の中の温度差にも気をつけましょう。日本家屋の構造は血圧変動を起こしやすいといわれています。例えば、寒い脱衣所で服を脱ぐと血圧は高くなり、熱めのお湯につかると、急激に血圧が高くなります。お湯につかってからだが温まると血管が広がって血圧が下がりはじめ、再び脱衣所に行くと血圧が上がります。血圧が乱高下することで、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなるのです(ヒートショック)。




家庭で血圧を測りましょう

―血圧は日ごろから測るほうが良いのでしょうか。

寺内 家庭内血圧を測定する習慣は、とても大切なことです。ぜひ測っていただきたいと思います。血圧は、刻々と変化していますので、その人の本当の血圧の平均値を求めるには、本来は24時間血圧モニターという専門的な計測器が必要です。けれども、家庭で定期的に血圧を測る習慣があれば、血圧の変化が分かり、健康管理に役立ちます。

―どのようなタイプの血圧計が良いでしょうか。また、いつ測るのが良いでしょうか。

寺内 上腕式で測りましょう。測るタイミングは、朝と夜の1日2回、15分以上の安静を保ってから測りましょう。理想は、朝は、目が覚めて動き出す前に測るのがおすすめです。夜は、寝る前、15分以上安静にした後で測りましょう。

―ベッドサイドに血圧計を置いておくと良いですね。上腕式なら場所もとりません。高血圧についていろいろなことが分かり、大変勉強になりました。今回も貴重なお話をありがとうございました。


寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。


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