更年期障害の症状におすすめの漢方薬とは?ホットフラッシュやイライラなどの悩みに効く、代表的な漢方薬を紹介!
家事や子育て、仕事に忙しい更年期。更年期症状があってもつい我慢してしまいがちですが、様々なケアが可能です。この記事では、代表的な漢方薬治療についてご紹介。漢方薬治療のメリット・デメリットや漢方医学の考え方などについても解説します。漢方薬治療を考えている人はぜひ参考にしてみてください。
更年期障害とは?
更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間のこと。日本人女性の平均閉経年齢が50歳前後のため、おおよそ45歳から55歳頃の期間をいいます。この時期には女性ホルモンが乱高下しながら減少することで、心身にさまざまな不調が出やすくなります。こうした不調を「更年期症状」と呼び、なかでも症状が重く日常生活に支障をきたす状態を「更年期障害」といいます。
更年期症状の出方は人によって多種多様で、のぼせやほてり、倦怠感などの身体症状を感じる人もいれば、不安やイライラなど精神症状を感じる人もいます。
特に悩む人が多いのは、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗です。日本人女性は症状があっても我慢する人が多い傾向にあり、悩んでいても周囲には見せないように過ごしていることも少なくありませんが、汗をともなう症状は他者からの目も気になり、つらいと訴える人が多くいます。また、イライラや不安、倦怠感、不眠などの複数の精神症状が混ざって起きることに困る人もいます。症状がつらい場合には、早めに婦人科などで診てもらうのがおすすめです。
更年期症状へのケア
更年期症状へのケアには、様々な選択肢があります。なかでも漢方薬による治療はメジャーな治療法の一つです。選択肢をいくつか知っておくと、試した方法が合わない場合に別の方法に切り替えるなど、自分に合う方法を見つけやすくなります。
●検査(婦人科等での各種検査)
血液検査(女性ホルモン値・甲状腺ホルモン値・コレステロール値) | 女性ホルモンや甲状腺ホルモン、コレステロールの値などを測定。症状の原因を探り、必要であれば症状に応じた治療を検討します。 |
骨量測定 | カルシウムなどのミネラル類が骨にどの程度あるかを測定し、骨の密度(強さ)を調べます。 |
●治療
HRT(ホルモン補充療法) | 更年期に急激に低下する女性ホルモン(エストロゲン)を補充する治療法。必要最小限の量を補い、エストロゲンの減少によって起こる不調を軽減します。 |
OC(低用量ピル)治療 | 月経や排卵の周期をコントロールしている女性ホルモンが含まれたホルモン剤のこと。服用することで月経周期を一定に整えたり、女性ホルモン低下によって起こる不調を改善したりする効果が期待できます。 |
プラセンタ療法 | プラセンタとは胎盤のこと。定期的に注射治療を行うことで、細胞の再生能力を高めたり不眠や疲労感など幅広い更年期症状を改善したりする効果が期待できます。 |
各種症状に応じた薬の処方(漢方薬も含む) | 頭痛や腰痛、不眠など、症状に応じた薬を病院で処方してもらい、治療していきます。気持ちの落ち込みや不安、イライラなどの精神症状には、抗うつ薬や抗不安薬などが用いられることも。 |
●その他
漢方薬治療 | 体をめぐる気・血・水の乱れを整えることで、不調を改善する治療法。様々な生薬の組み合わせによって使用され、体質や気になる症状に応じて適切なものが処方されます。 |
サプリメント | 更年期に摂りたい成分を、手軽に効率よく摂取できます。大豆イソフラボンやブドウ種子ポリフェノールなど、科学的に更年期症状の改善効果があるとされている成分もあります。 |
カウンセリング療法 | 患者の悩みに対して、専門知識を持つカウンセラーが相談の補助を行います。更年期症状は環境や性格、思考、人間関係、ストレスなどが症状を悪化させることがあるため、心理療法も症状の改善に有効です。 |
こうしたケアに加え、更年期には普段の食事や運動、生活リズムを見直していくことも大切です。
食生活が乱れていると、栄養の偏りが更年期症状につながることがある上、様々な不調のもとになる可能性があります。良質なタンパク質や脂質を中心としたバランスの良い食事を心がけ、閉経後に弱くなりがちな骨の材料となるカルシウムやビタミンDも少し意識して摂りましょう。日々生まれ変わる細胞に良質な栄養を与えてあげることが大切です。ホットフラッシュがあり冷え性対策としてショウガを摂っている人は、症状が助長される可能性があるのでショウガは控えめにしてください。
また、更年期世代は疲労感や忙しさで体を動かすのが億劫になりがちですが、1日10分でも運動をすることで代謝が上がって、疲労感や他の症状が改善されやすいほか、体のリズムも整って快眠につながります。また運動は骨の強化にも有効です。
生活面でもリズムを整えることが大切です。寝る1~2時間前に入浴して、寝る前にはスマートフォンを見ないようにしたりストレッチしたりすると、深い睡眠が取れるようになります。日記をつけるなど自分を振り返る時間を取るのも、頭のなかが整理できるのでおすすめです。
更年期に漢方薬を摂取するメリット・デメリット
漢方薬で治療を行っていく場合、そのメリットとデメリットを理解した上で始めるとよいでしょう。漢方薬は一般的に2種類以上の生薬がブレンドされていて、緩やかな作用で体質を含めて症状を改善していきますが、効果が出るまでに時間がかかることも。下の表でメリットとデメリットを知っておきましょう。
更年期に漢方薬を摂取するメリット | ・作用が緩やかで副作用も比較的少ない ・複数の生薬の相乗作用で更年期以外の症状にも対応 ・心身全体のバランスを整え体質改善もできる ・西洋薬や他の治療との併用がしやすい ・プレ更年期など早い段階からの治療が可能 ・ドラッグストアなどでも購入することができる |
更年期に漢方薬を摂取するデメリット | ・効果が出るまでに時間がかかることがある ・自己判断では自分に合った最適な処方を選ぶことが難しい ・稀に重篤な副作用を引き起こす可能性がある処方も |
ドラックストアで販売されている漢方薬は、種類も増え、一番身近で手に入りやすい漢方薬ではないでしょうか。自身の症状に良さそう!と購入される人もいるかと思いますが、漢方薬の特徴を理解した上で漢方薬を取り入れましょう。
漢方薬の基本は、症状だけでなく、体質等を診立てた上で、最適な漢方薬を処方してもらうこと。きちんとした診立てで体質に合わせて処方されたものは、副作用も起きにくくなります。ただ、処方によっては重篤な副作用を引き起こす可能性もありますので、専門知識を有した医師や薬剤師と相談し、自分に合ったアプローチを見つけることが大切です。
漢方の基本的な考え方である気・血・水
漢方医学では、心身の構成要素を3つに分けて「気」「血」「水」と呼びます。ここでは気・血・水と更年期との関係を紹介します。ご自身の症状や体質もあわせて振り返ってみましょう。
気・血・水とは?
漢方医学では、気・血・水を治療する上での一つの指標にしており、気・血・水それぞれの量、バランス、循環状態などを見極め、その回復を目指します。
気 | 全身を巡っていると考えられている、目には見えない生命エネルギー。元気の源となる“気”のことをいいます。上から下に流れるのが通常ですが、逆に下から上に流れたり流れが滞ったりすると、不調が現れることがあります。 |
血 | 気の働きを借り、全身の組織や器官に栄養を与える物質。現代医学での血液や体液などに例えられますが、もっと広い概念を含むものとされています。血が少なくなると栄養不足に陥ったり、流れが滞ると体内に熱が生じることがあります。 |
水 | 血以外の無色の液体をさし、全身を潤す働きを持つもの。その量・バランス・流れが大切で、過剰になると体にむくみや冷えが生じたり胃腸の機能が落ちたり、上半身に多すぎるとめまいにつながることも。 |
気・血・水の乱れが更年期症状を引き起こす!?
漢方医学では、気・血・水の量、そして流れがバランスよく整っているのが、心身ともに充実した一番良い状態だと考えます。そのバランスは人それぞれですが、乱れたバランスを調整していくのが漢方薬であり、その種類は実にたくさんあります。更年期に入って心身のバランスが乱れてくると、気・血・水も乱れていろいろな症状が出てくることがあります。
気の乱れから起こる症状 | 不安やイライラ、焦燥感などの精神症状、げっぷ、喉の詰まり、ほてり、のぼせ、急な発汗、頻尿 |
血の乱れから起こる症状 | 動悸、息切れ、手足の冷え、しびれ、高血圧、頭痛、異常月経 |
水の乱れから起こる症状 | 悪心(吐き気)、めまい、むくみ、耳鳴りなど |
更年期は月経不順など血に関わる症状が出やすい傾向ですが、気・血・水のどれが不足しているのか、過剰になっているのか、流れに異常が生じているのかは、その人の体質や体調、生活などによって変わります。複数の症状が出ていると必要な生薬も多くなるため、複数種類の漢方薬の処方が出る場合があります。
更年期症状におすすめの漢方5選
更年期症状に用いられる漢方薬はいくつかありますが、そのなかでもおすすめの漢方薬を5つご紹介します。当てはまる体質や改善できる症状などから気になる漢方薬があれば、かかりつけの病院や婦人科などで相談してみてもよいでしょう。
●加味逍遙散
更年期症状に対する漢方薬として最も有名な漢方薬の一つ。気のバランスを整え、余分な熱を冷まし、血の不足を補い、流れを改善する10種類の生薬がバランスよく配合されています。イライラや不安感などの精神症状を改善し、ホットフラッシュにも効果があるとされています。
●柴胡加竜骨牡蛎湯
漢方医学の原典に記載されている構成生薬には、大黄という強力な作用をもつ生薬が配合されており、比較的体力の充実している人の、不眠や動悸、動転しやすいといった神経症状の改善に用いられる処方。竜骨(化石)、牡蠣(牡蠣の貝殻)といった気を鎮める生薬が配合されています。
市販の漢方製剤の柴胡加竜骨牡蛎湯は、メーカーにより大黄を抜いた製剤もあります。日本人女性にはこの大黄抜きの柴胡加竜骨牡蛎湯の方が合う人が多いようです。
●加味帰脾湯
消化器官の働きを助けながら、気血を補いながら巡りも整える漢方処方です。胃腸が弱く、貧血気味で、顔色が優れず、精神的なストレスや不安感、不眠、焦りなどの神経症状がある方におすすめです。
●桂枝茯苓丸
血の滞りを改善する5種類の生薬が配合され、血の循環不全から起こる肩こり、頭痛、めまい、関節痛などの症状に用いられます。もともと月経前の不調が強かったという方、あざやくまができやすい方に。
●当帰芍薬散
当芍美人という言葉があり、色白で冷えやすく、貧血傾向があり、どちらかというと虚弱なタイプの方に用いられる処方。体に余剰な水が溜まることで起こるような、むくみや冷え、めまいなどの症状に使用されています。
もしドラッグストアなどで、自分で漢方薬を探す際は、自分が一番つらいと感じる症状や直したいと思っている不調をポイントに選ぶとよいでしょう。市販の漢方薬は含有量が少なめでなかなか効果が感じられない場合もありますが、3カ月くらいは続けて飲んでみることをおすすめします。その際に胃がムカムカする、月経に異常が見られる、などのいつもと違う変化がある場合は服用を止めて、漢方薬局で相談するか、婦人科へ行ってきちんと処方してもらってください。
まとめ|自分に合った対処法で更年期症状を和らげよう
更年期の女性ホルモン低下による不調が疑われる場合、まずは不調の原因となる異常の有無を西洋医学の病院で調べてもらいましょう。そして、西洋医学的な異常の有無に関わらず、不快な症状がある場合は我慢せず、できるだけ早めに対処していきましょう。
その治療の選択肢として漢方薬がありますが、漢方医学は心身全体のバランスを整えながら、不調を根治していくのが治療目標。体質や症状に合った漢方薬を試してみるのも一つの方法です。西洋医学と東洋医学はそれぞれ得意分野が異なるため、その他の様々な対処法も含め、それぞれの得意・不得意や特徴を理解し、自分に合った方法を取り入れ、更年期を健やかに過ごしていきましょう。
もし更年期症状が比較的軽い場合には、食事やサプリメントで大豆イソフラボンを摂ったり、運動を取り入れたりするなど、日常生活を見直していくことが大切です。
更年期は人生の後半に向けて準備を整えるタイミング。閉経後も健やかに過ごせるよう、生活習慣や体質を改善していきましょう。
<この記事を監修いただいた先生>
佐竹 千絵 先生
漢方専門薬剤師、漢方薬生薬認定薬剤師
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