更年期とコレステロール値の関係②

教えて!ドクター@輝くクリニック
学ぶ

前回に続き、今回も「更年期とコレステロール値の関係」のお話です。更年期の専門家である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、LDL(悪玉)コレステロール値を下げる対処方法についてお話を伺いました。正しい知識を得て更年期を上手に乗り切るためのヒントがいっぱいです!

②LDL(悪玉)コレステロール値を下げる対処方法

<LDL(悪玉)コレステロール値を下げる方法にはどのようなものがありますか>

―健診の結果でLDLコレステロール値が高く出たときは、どうするのが良いのでしょうか。

寺内公一先生(以下、寺内) 閉経を迎えてエストロゲンが低下すると、LDLコレステロール値が上がりやすくなりますので、健診で出た数値はきちんと把握しておく必要があるでしょう。

血中の脂質だけではなく、血糖値、血圧の上昇は、自覚症状がありません。動脈硬化は静かに進みますが、一度傷んだ血管は容易には元に戻りませんので、早期発見、早期治療が大切です。

健診の結果でLDLコレステロール値が高く出たとき、特に二次検査の必要がある場合は、自覚症状がないからといって軽く受けとめずに、二次検査を受けましょう。

―二次検査に行くと、薬でLDLコレステロール値を下げることになるのでしょうか。

寺内 そういうわけではありません。というのは、LDLコレステロール値が高く出ても、それが本当に危険な数値かどうかは、患者さんによって、お一人おひとり違うからです。

糖尿病の持病があるかどうか、HDLコレステロールの値はどうか、家族歴といいますが、早い時期に心筋梗塞で倒れたご家族がいるか、そういうことを全部含めて、その方にとっての適切なコレステロール値や治療方針を診断しますので、すぐに薬を飲みましょうということではありません。

例えば、健診の結果で総コレステロール値が高く出て、印もついて…という方でも、数値を見せていただくと、HDLコレステロール値が高めで、LDLコレステロール値はそれほど高くないケースもあります。そうした場合は、それほど心配しなくても大丈夫です。

仮にLDLコレステロール値が少し高くても、HDLコレステロール値との比率が重要ですから、総合的に判断すると、それほど深刻ではないケースもありますので、そのようにご説明して治療方針を考えていきます。

大事なことは健康診断でひっかかったら、もう少しきちんと調べて、適切な対処法をきちんと知りましょうということです。

―数値についての説明をしていただけると安心します。自己判断せずに、医師に相談することが大切ですね。薬以外の脂質のコントロールには、どのような方法があるのでしょうか。

基本的には食事療法運動療法ということになります。どれくらいエネルギーを摂り、エネルギーを使うかということですね。

加齢の影響で、基礎代謝は低下します。基礎代謝が低下するということは、寝っ転がっていてもエネルギーを使う機能が徐々に減っていくことです。ですので、若い頃と同じような食べ方、エネルギーの摂取の仕方をしていると、それだけでも体重は増えてしまいます。

そこにエストロゲンの低下が加わると、脂質の増加が加速することになりますので、食事療法では、エネルギーとして受け入れる総量を減らし、なおかつ、食べ物の質を変えていくことが大切になります。

例えば、これまで糖質や脂質の多い食事をしていたのであれば、野菜、果物、豆類中心の食事にしてみる、同じタンパク質でも、レッドミート(牛や豚など)中心から、ホワイトミート(鶏肉や魚など)中心にしてみる、油も飽和脂肪酸(肉や乳製品など)は控えて、不飽和脂肪酸(オリーブ油のオレイン酸や青魚のEPA・DHAなど)を摂るようにするといったことです。

運動療法に関しては、筋肉が増えると、脂肪や糖の代謝も増えますので、有酸素運動に加えて、筋トレで筋肉量や筋力を維持することも大事です。

「輝きプロジェクト お悩み相談」でも、閉経後のコレステロール値についての質問がありました。生活習慣の見直しについて参考になる情報がたくさん掲載されていますので、参考にしたいですね。また、健診でひっかからなかった場合でも、更年期に理解の深いサイトをセルフケアの伴走者にして、脂質コントロールのモチベーションを下げない工夫も大事ですね。

③ LDL数値と遺伝の関係性

<「家族性高コレステロール血症」とは、どのような病気ですか>

―遺伝的な素因によってLDLコレステロール値が上がる「家族性高コレステロール血症」という病気があると聞きました。「家族性高コレステロール血症」とは、どのような病気ですか。

寺内 生まれつきLDLの受容体の働きが弱い、LDL受容体の数が少ないなどの変異がある遺伝性の脂質異常症です。家族性高コレステロール血症には、極めて若い頃から症状が出るホモ型と、60歳くらいまでに症状が現れるヘテロ型があります。

動脈硬化を起こしやすく、食事療法や運動療法だけでは、LDLコレステロール値を下げることが難しいので、早期に発見して、早期に薬物治療を行うことが必要となります。

―60歳くらいまでに症状が現れるヘテロ型の場合、LDLコレステロール値の上昇が更年期に重なると、それがエストロゲンの変化によるものなのか、家族性高コレステロール血症によるものなのかが、分かりにくくなりますね。自分が家族性高コレステロール血症かどうかを見極める方法はありますか。

寺内 遺伝子検査がありますが、遺伝子検査を行わなくても、下記のような診断基準がありますので、診察で診断できます。

―――――――――――――――――
<成人(15歳以上)、家族性高コレステロール血症 ヘテロ型の診断基準>

  1. 高LDLコレステロール血症である
    (未治療時のLDLコレステロール値が180mg/dL以上)
  2. 腱黄色腫
    (手の甲、肘、膝などの腱黄色腫、あるいはアキレス腱肥厚)
    あるいは皮膚結節性黄色腫
  3. 家族性高コレステロール血症、あるいは早発性冠動脈疾患の家族(2親等以内の血族)がいる

・続発性高脂血症を除外した上で診断する。
・2項目が当てはまる場合、家族性高コレステロール血症と診断する。家族性高コレステロール血症が疑われる際は、遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。
・皮膚結節性黄色腫に眼瞼(がんけん)黄色腫は含まない。
・アキレス腱肥厚は軟線撮影により9mm以上で診断する。
・LDLコレステロール値が250 mg/dL以上の場合は、家族性高コレステロール血症を強く疑う。
・すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。
・早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。
・家族性高コレステロール血症と診断した場合は、家族についても調べることが望ましい。
―――――――――――――――――

遺伝子検査を行うことが望ましいですが、遺伝子検査を行うには遺伝カウンセリングが必要ですし、費用面でもハードルが高い場合があります。気になるときは、一人でかかえすぎずに、医師に相談してほしいと思います。

―ありがとうございます。LDLコレステロール値が高く出たときは、ためらわずに二次検査を受けたいと思います。

<ホルモン補充療法は、LDLコレステロール値を下げるのでしょうか>

―エストロゲンが低下すると、LDLコレステロール値が上がりやすくなるということは、ホルモン補充療法を行うと、LDLコレステロール値は下がるのでしょうか。

寺内 いろいろな調査・研究がありますが、閉経後の方がホルモン補充療法を行うと、LDLコレステロール値が、15~20%くらい下がることが分かっています。

当「教えて!ドクター@輝きクリニック」のホルモン補充療法の回でもお話ししましたが、ホルモン補充療法は、更年期症状の緩和に加えて、慢性疾患(生活習慣病)の予防もできるのが利点です。エストロゲンを外から補うことによって、閉経後にかかりやすくなる心血管疾患のリスクを減らすことができます。

ただし、60歳以上、あるいは、閉経後10年以上たった人がホルモン補充療法を始めた場合、心血管疾患のリスクが高まることが分かっています。そのため、開始のタイミングは、年齢と閉経後の年数を考慮すべきだと考えられるようになってきており、開始年齢が60歳以上か閉経後10年以上経過した方には行われなくなっています。

―ホルモン補充療法は、始めるタイミングが大切でした。メリットとデメリットを知って、適切なタイミングで取り組むことが大事ですね。

コレステロールが健康寿命と深く関わっていることが分かり、大変勉強になりました。今回も貴重なお話をありがとうございました。


前回の記事:LDLコレステロール値と女性ホルモンの関係<前編>

寺内公一先生

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子

ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

ピックアップ記事

関連記事一覧