更年期以降の頻尿、原因と対策について

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年齢を重ねると、「トイレが近くなった」「夜中にトイレのために起きる」「急にトイレに行きたくなる」「くしゃみをしたら漏れてしまった」といった尿トラブルを抱える人が増えてきます。けれども、デリケートな問題でもあるために相談をためらい、医療機関につながっていない人も多いようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期の頻尿について伺いました。



更年期に頻尿になるのはなぜ!?

寺内公一先生(以下、寺内) 頻尿とは、単純にトイレに行く回数が多いことをいいます。けれども、頻尿につながる原因は一つではありません。例えば、水を飲み過ぎたのかもしれないし、細菌性の膀胱炎だったということもあるでしょう。そして、これからお話しする萎縮性腟炎、過活動膀胱、尿失禁などによっても頻尿は起こります。

また更年期以降、年齢を重ねると、夜中にトイレに起きることが増えます。就寝後にトイレに1回以上起きることを「夜間頻尿」といいます。平均年齢76歳の784名を5年間追跡した日本の調査では、夜間頻尿がある人は、骨折や死亡のリスクが高くなると報告されています※1

寺内 夜中にトイレに行くと転倒するリスクが高くなります。骨粗鬆(しょう)症の方は、転んだ拍子に大腿骨などの大きな骨を骨折することがあり、高齢者の場合は、そのまま寝たきりになることも珍しくありません。夜中のトイレが、骨折や死亡リスクを高める要因になるのです。

寺内 頻尿については、たかがおしっこの話でしょう、と心ないことを言われることがよくあります。けれども、尿の悩みがうつにつながることもありますし、命に関わることもあります。とても重要な問題だと考えています。

※1 Nakagawa 2010 J Urol 184:1413



頻尿と女性ホルモンとの関係は?

寺内 さきほどもお話しましたが、頻尿になる原因はさまざまです。ですので、頻尿の原因の一つにエストロゲンが関係するものもある、ということになります。

更年期にエストロゲンの分泌量がゆらいで少なくなると、高コレステロール血症、心血管疾患、骨粗鬆症、認知症などの疾患が現れやすくなりますが、なかでも、泌尿生殖器の萎縮症状は、比較的早く現れる疾患の一つです。

エストロゲンが減って外陰部や腟が萎縮し、また水分保持量が低下するので乾燥します。

また閉経前は、エストロゲンの作用で、腟上皮細胞はグリコーゲン(筋肉や肝臓にもためられている炭水化物)を多く含んでいます。細胞が腟内に剥がれ落ちると、腟の常在菌がそれを代謝します。その代謝によって腟内のpHが酸性に保たれ、それ以外の菌が生育しにくい環境がつくられます(自浄作用)。

けれども、閉経後にエストロゲンが低下すると、腟上皮細胞に含まれるグリコーゲンの含有量は低下します。すると、常在菌も減少し、腟内のpHが上昇。腟の自浄作用が失われるため、常在菌以外の菌が増加しやすい環境になり、腟の粘膜が薄くなって出血しやすくなります(萎縮性膣炎)。

寺内 はい。自覚症状としては、腟の乾燥、出血、性交痛、外陰部のかゆみ・不快感、おりものの異常などがあります。また、腟の雑菌による尿路感染(尿道で炎症が起きること)や、その影響による頻尿や尿漏れなどもあります。このことは、閉経後の女性が抱える大きな悩みの一つといえます。



加齢が影響する下部尿路症状

寺内 「下部尿路症状」といって、男女を問わず加齢によって、「尿をためる」「尿を出す」「尿を出した後」に関する自覚症状が現れやすくなります。女性は、「尿をためる」ことに関するトラブルが多く、「頻尿」「尿意切迫感」「尿失禁」が生じやすくなります。

寺内  「尿意切迫感」は、突然、強い尿意に襲われることをいいます。「尿失禁(尿漏れ)」は、自分の意思とは関係なく、尿が漏れてしまうことをいいます。尿失禁の原因として女性に多いものに、「過活動膀胱」と、「腹圧性尿失禁」があります。

「過活動膀胱」は、尿意切迫感を必須とした症状症候群で、通常は頻尿と夜間頻尿を伴います。「頻尿」は、トイレに頻繁に行きたくなることですが、トイレに行きたくなって行ってみたけれど、間に合わずに尿が漏れてしまうことを「切迫性尿失禁」といいます。

「腹圧性尿失禁」は、加齢や出産に伴い、骨盤底筋群やそれを支える組織がゆるみ、咳やくしゃみのほか、笑ったり、重いものを持ち上げたりして、お腹に力が入ったときに、尿が漏れてしまうことをいいます。



過活動膀胱の診断基準

寺内 「過活動膀胱症状質問票(OABSS)」のスコアで知ることができます。「朝起きた時から寝るまでに、何回くらい尿をしましたか」「急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか」といった簡単な質問に答えていき、それがどれくらいの頻度で起こっているかを点数化して判断します。

寺内 40歳以上の男女を対象に行った日本の疫学調査では、過活動膀胱(排尿回数:1日8回以上、尿意切迫感:週1回以上)の人は、約800万人いると報告されました※2

過活動膀胱は、女性に多い印象がありますが、調査によると、有病率に男女差はあまりなく、むしろ男性の方が少し多い。男女とも年齢を重ねると増えていき、80歳代の有病率は35~40%でした※2

また、40歳以上の7人に1人が過活動膀胱で、その内、約72%(750万人)の人に、切迫性尿失禁があることも分かりました※2

寺内 はい。過活動膀胱の患者さんは、糖尿病の患者さんと同じくらいのQOL(生活の質)の低下が見られることも分かっています。尿が自分の意図とは関係なく漏れてしまいますので、それを恐れて外出できなくなることが要因の一つと推察されます。

※2 本間 之夫ほか:日本排尿機能学会誌 14(2): 266, 2003[L20040317031]



治療する人が少ないのはなぜ?

寺内 過活動膀胱の患者さんが、約800万人もいるというお話をしましたが、それにもかかわらず、医療機関を受診しているのは全体で22.7%、とりわけ女性は7.7%の方しか治療していないと報告されています※2

また、別の日本の調査では、生活習慣病で通院中の40歳以上の女性の5人に1人は、排尿に関する悩みを抱えているにもかかわらず、治療していなかった、という報告があります※3。医療機関につながっていても、排尿に関する悩みを打ち明けられずにいるということになります。

寺内 尿のトラブルは、デリケートな問題も含んでいますので、相談をためらいがちになるのは、無理からぬことと思います。

当院の更年期外来でも、お話をよく聴いていますと、尿失禁のことを打ち明けてくださる患者さんはいらっしゃいます。

そういうこともありますので、患者さんからの訴えを待つのではなく、日頃から診察時に、「排尿のことで困っている人は多いんですよ」「もし困っていたら伝えてください」とお声掛けをするようにしています。また、待合室に尿失禁についてのパンフレットやアンケート用紙を置いて、打ち明けていただきやすい雰囲気を作るように心がけています。

後半でお話しますが、頻尿や尿失禁には治療法があります。オーストラリアの研究では、切迫性尿失禁がうつのリスク因子であることが報告されています※4。ですので、一人で抱えずに、ぜひ相談していただけたらと思います。

※3 吉田 正貴ほか:泌尿器外科 24(12):1965, 2011
※4 Zorn 1999 J Urol 162:82



更年期の下部尿路症状はどれくらいの人が感じている?

寺内 はい。当院の更年期外来を受診されている患者さんで、40歳以上の女性351名の方を対象に、下部尿路症状と関連する因子を検討した研究になります※5

頻尿

頻尿感について。週1回以上「尿の回数が多い」と感じる方は45.9%、ほぼ毎日「尿の回数が多い」と感じる方は22.5%いらっしゃいました。

そして、多変量解析を行ったところ、頻尿と不眠に関連があることが分かりました※5。就寝後にトイレに1回以上起きることを「夜間頻尿」といいますが、就寝後の排尿回数が2回以上ある方は10.8%いらっしゃいました。

このことについては、夜中にトイレに行きたくなるから、目が覚めるのか、夜中に目が覚めるから、トイレに行こうと思うのか、どちらなのかは分かりません。どちらもありうる、双方向性をもつものと考えています。

切迫性尿失禁

切迫性尿失禁がある方は11.4%いらっしゃいました※5。多変量解析で背景因子を検討したところ、切迫性尿失禁と関連したのは棒反応時間でした。

棒反応時間とは、任意のタイミングで落とした棒を、素早くキャッチするものです。敏しょう性が低い方は、尿意を感じた時に、尿道括約筋をキュッと収縮することも遅れてしまうのではないかと推察されます。

腹圧性尿失禁

腹圧性尿失禁がある方は、32.8%いらっしゃいました※5。多変量解析で背景因子を検討したところ、腹圧性尿失禁と関連したのは体脂肪でした。

これまでも下部尿路症状と肥満との関連を示す報告はありましたが、下部尿路症状と体脂肪の増加が関連するとした報告は、私たちの研究が初めてということになります。

※5 Terauchi 2015 Menopause 22:1084



何科を受診すればいい?

寺内 血尿や膿尿がある場合は、泌尿器科の専門医の診察を受ける必要があります。血尿や膿尿がない場合は、プライマリーケア(身近にあって、なんでも相談にのってくれる総合的な医療)を担当する病院、例えば、かかりつけの内科や婦人科などに相談してみましょう。

残尿感が気になる方は、病院でトイレに行っていただき、その後、超音波をお腹にあてて、膀胱に残っている尿量を調べることもできます。残尿が100mL以上残っている場合は、改めて専門医に診てもらいましょう。

お薬については、交感神経、あるいは、副交感神経をターゲットにしたお薬を主に用います。例えば、ライオンに追いかけられているときに、のんびりトイレには行けません。つまり、交感神経が優位になると、膀胱がゆるんで尿をためようとし、副交感神経が優位になると、尿を出そうとします。

このことから、切迫性尿失禁のお薬には、副交感系神経が優位になって膀胱が収縮するのを防ぐ「抗コリン薬」や、交感神経の働きを高めて尿がゆるやかに膀胱にたまるようにする「β3アゴニスト」といったお薬が用いられます。

腹圧性尿失禁に関しては、骨盤底筋のゆるみが原因の場合は、お薬の他、骨盤底筋トレーニング(肛門や尿道、腟の周りをキュッと引き締める)の指導のほかに、手術で尿道を吊り上げる方法もあります。

寺内 排尿について困った、つらいと感じたら、症状を和らげる治療法がありますので、一人で抱えずに、医療機関とつながってほしいと思います。

寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

満留礼子イメージイラスト

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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