更年期とシミ、シワ、たるみは関係がある?

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肌の調子がいいと、それだけで一日を気分よく過ごせることがあります。大人の肌は、年齢とともにハリが失われやすくなりますが、そうした変化は、加齢の影響だけでなく、実は、女性ホルモンの影響もあるようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、女性ホルモンと肌の変化についてお話を伺いました。

肌も女性ホルモンの影響を受けます
肌の老化は、「加齢」「光老化」「女性ホルモンの減少」が複合的に関わり合います
おすすめのセルフケアは?

肌も女性ホルモンの影響を受けます

―更年期(おおむね45~55歳)に、女性ホルモンの分泌量は、ゆらぎながら減少しますが、肌にも影響はあるのでしょうか。

寺内先生(以下、寺内) 女性ホルモン(エストロゲン)の受容体は、体のいたるところにあり、肌にもあります。そのため、エストロゲンの分泌量が少なくなると、肌もその影響を受けます。

エストロゲンとエストロゲン受容体には、鍵と鍵穴のような関係が成り立ちます。

エストロゲンと受容体が結合すると、細胞が刺激を受けて働き出します。そのため、エストロゲンの分泌量が減少すると、その働きも低下します。

―肌にはどのように影響するのですか。

寺内 肌の弾性や柔軟性が失われやすくなるというデータがあります。 肌は、上から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層構造になっていますが、エストロゲンと関係が深いのは「真皮」です。


真皮は、網状にはりめぐらされたコラーゲンという膠原線維(タンパク質)が大部分を占めています (97.5%)。そこに、エラスチンという弾性繊維(タンパク質)が、ゴム状に伸び縮みしながらコラーゲン同士をつなぎとめるように絡みついて支えています(2.5%)。

例えば、肌を引っ張ってもお餅のように切れてしまわないのは、コラーゲンに引っ張り強さがあるからです。肌を押しても凹んだままにならないのは、エラスチンの弾性のおかげといえます。

真皮の組織は、これだけではありません。コラーゲンとエラスチンの隙間を、「ヒアルロン酸」というゼリー状の物質が満たしていて、酸素や栄養を運ぶ毛細血管をはじめ、皮脂腺、汗腺、体毛、毛包など、さまざまなものから成り立っています。

これらの組織に、エストロゲンがどのように関わっているのかを調べた研究がありますが、分かっていることがいくつかあります。それは、エストロゲンの減少によって、コラーゲンと水分量が低下すること、皮膚が薄くなり肌の弾力が低下すること、シワが増えることです。

―エストロゲンの肌への影響は、お肌のハリやみずみずしさ、見た目年齢に関わることなのですね…。悩ましいです。

肌の老化は、「加齢」「光老化」「女性ホルモンの減少」が複合的に関わり合います

寺内 更年期以降に見られる、肌老化の原因は、今お話しした女性ホルモンの影響もありますが、加齢や光老化の影響もあります。

―光老化について簡単に説明をお願いします。

寺内 光老化とは、紫外線を浴びることで現れる皮膚の老化現象のことです。光老化によって肌には、弾力低下、シワ、乾燥、黄ぐすみ、色素沈着、毛細血管の拡張などが起こることが分かっています。


―肌のお手入れをしていると気になることばかりですね。具体的に紫外線は、肌にどのようなダメージを与えるのでしょう。

寺内 紫外線にはいくつか種類がありますが、肌に影響する紫外線の代表は、UV-AとUV-Bの2種類です。UVとは、「ultraviolet」の略で、紫外線のA波、B波という意味です。

UV-Aは波長が長く、真皮で吸収されるため、コラーゲンやエラスチンを破壊して、シワやたるみの一因となります。

もう一つの、UV-Bは、UV-Aと比べて波長が少し短く、皮膚の一番上にある表皮で吸収され、その際に肌に日焼けを起こします。肌は、紫外線から表皮細胞を守るためにメラニン色素を生成するため、それがシミや皮膚がんの一因となります。


おすすめのセルフケアは

―肌の老化は、「加齢」「光老化」「女性ホルモンの減少」が複合的に関わり合って起きるということですが、大きなところで、それぞれ手軽に取り組めるセルフケアがあれば教えてください。

寺内  加齢については、老化を止めることはできませんが、前回の「更年期と認知機能の関係」でもお話ししましたが、心身ともに健康的な生活を保つことが、老化のスピードを遅くするためには、大切だと考えます。
更年期と認知機能の関係

そのうえで、日々のお手入れとして、肌の乾燥が気になる方は、保湿ケアを重視されたり、質の良い睡眠を心がけたりされると良いのではないでしょうか。


睡眠については、「更年期と睡眠の関係」でも触れましたが、更年期には、不眠の症状を訴える方が少なくありません。よく眠れないことが、肌の調子を傾かせる一因になっていることもあると思います。
更年期と睡眠の関係

また、不眠によって、うつ症状が現れやすくなることが分かっています。うつ症状が進めば、生活が不規則になったり、思うようにスキンケアができなかったりすることもあるでしょう。不眠の症状がセルフケアで改善しない場合は、更年期に理解の深い医師に、早めに相談してほしいと思います。



―紫外線対策についてはいかがでしょうか。

寺内 紫外線は、夏だけでなく、一年中降り注いでいます。特に春から夏にかけて紫外線量は増えます。外出時は、日焼け止めを塗る、UVカット効果のある帽子や日傘を使う、室内であれば、窓際を避ける、UVカット効果のあるカーテンを付けるなどの工夫をされると良いのではないでしょうか。

紫外線の強さは、気象庁がデータを公開していますので、そうした情報も参考にされると良いと思います。
紫外線に関するデータ


ただし、皮膚に紫外線が当たると、体内でビタミンDが合成されます。カルシウムとビタミンDの組み合わせによって、骨密度が高くなることが分かっていますので、適度な日光浴は大切です。骨粗鬆症の「予防と治療ガイドライン」では、1日15分ほどの適度な日光浴は必要、としています。

―骨粗鬆症対策に必要な日光浴はしつつ、それ以上はできるだけ紫外線を浴びないように心がけたいと思います。ところで、日焼け止めの化粧品には、「SPF」と「PA」が表示されていますが、どういう意味なのでしょう。

寺内 SPFは「Sun Protection Factor」の略で、UV-Bを防ぐ効果を示しています。もうひとつのPAは「Protection Grade of UV-A」の略で、UV-Aを防ぐ効果を+記号で表しています。

―A波とB波をそれぞれ防ぐ効果なのですね。先ほど、紫外線が肌に与えるダメージについて教えていただきましたので、よく分かります。日焼け止めは、SPF・PAの効果と、使い心地の良さを考えて、自分に合うものを探したいと思います。

エストロゲンについてはいかがでしょうか。ちなみに、肌の弾力にアプローチしてくれる成分はあるのでしょうか。日本の研究で、「大豆イソフラボンアグリコン」を、1日40mg、12週間摂取した人の皮膚を調べたところ、摂取していない人と比較して、シワの面積が減少し、目の下の皮膚の弾力性が有意に改善したという報告があります。

寺内 植物由来のエストロゲンである「大豆イソフラボンアグリコン」は、エストロゲンと化学構造式が似ていますので、体内での働きに同様の作用が期待できるかを示した研究だと思います。

栄養バランスの整った食事をベースに、その補完として、このような成分も上手に活用できるといいですね。日々の習慣やセルフケアで、肌が老化する歩みをゆっくりペースにしていきたいと思いました。今回も貴重なお話をありがとうございました。


寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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