更年期に腰や肩が痛むのはどうして?

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更年期の不調は一つとは限らず、さまざまな症状が現れることが珍しくありません。腰痛・肩こりも訴えの多い症状ですが、更年期以外の時期も腰痛や肩こりを感じることはあり、つい我慢してしまう人は少なくないようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期の腰痛・肩こりについて伺いました。



更年期の腰痛や肩こりはどれくらいの人が感じている?

寺内公一先生(以下、寺内) 当院の更年期外来を受診されている患者さんを対象に、腰痛・肩こりの有無を調べたところ、「ほぼ毎日」は55.4%、「週3~4回」は13.3%、「週1~2回」は、18.6%いらして、合わせると87.3%となり、9割近い方が、腰痛・肩こりを感じていることが分かりました。

寺内 2004年に行われた地域住民を対象にした疫学調査※1も参考になると思います。この調査は、45~60歳の日本人女性を対象にしており、「疲れやすい」「集中できない」「イライラする」など、20の更年期症状を感じる頻度について調べています。

その項目に、「筋肉や関節の痛み(muscle or joint pains)」があり、これを「腰痛・肩こり」と読み取ると、「非常にある」と答えた人は5.2%、「かなりある」は15.7%、「少しある」は51%でした。合計すると約72%の方が腰痛・肩こりを感じており、腰痛・肩こりは、20項目中3番目に訴えの多い症状でした。

オーストラリアの女性を対象にした調査でも、同様の結果となっており、20項目中2番目に訴えの多い症状でした。

※1 更年期女性における症状の頻度(日本人女性848名、45~60歳、住民サンプル/Anderson 2004 Climacteric)



女性は男性の2倍肩こり!?

寺内 更年期の女性に限定していませんが、厚生労働省の統計調査「国民生活基礎調査※2」では、腰痛と肩こりを訴える人の割合を公表しています。令和4年(2022年)は、男女ともに、1位は「腰痛」、2位は「肩こり」でした。

※2 厚生労働省の統計調査

出典:令和4年(2022年)国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)、自覚症状の状況より、腰痛と肩こりを抜粋。グラフ作成は編集部


平成28年(2016年)のデータになりますが、年齢別・性別の統計をみると、腰痛は男女ともに年齢が上がるにつれて訴える人が増えるのに対して、肩こりは男性よりも女性の有訴者率が高く、50代が最も高くなっています。

出典:平成28年(2016年)国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)、統計表、第10表 性・年齢階級・症状(複数回答)別にみた有訴者率(人口千対)より、腰痛と肩こりを抜粋。グラフ作成は編集部



腰痛や肩こりの原因は?

寺内 実は、コレ!という確定的な原因はよく分かっていません。というのも、例えば、ぎっくり腰のように、急性の腰痛であれば、原因を特定しやすいのですが、慢性的な痛みの場合は、どれか一つの原因によるものというよりは、筋力・腱の柔軟性の低下などの加齢による変化や、姿勢の悪さ、運動不足、座りっぱなしといった日常生活の影響も大きく、いろいろな要素が複雑に重なり合って、腰痛や肩こりとして感じられていると考えられるからです。

寺内 エストロゲンの低下が、腰痛や肩こりを引き起こすといったエビデンスは、今のところありません。更年期外来にいらっしゃる方で、腰痛・肩こりだけを訴える方もほとんどいません。他の症状もいくつか抱えていらして、そのなかに腰痛や肩こりが含まれています。

先ほどお話したように、更年期は、加齢や姿勢の悪さなど、さまざまな要素が重なりやすい時期ですので、元気なときはやりすごせても、更年期に体調が傾いたタイミングで、腰や肩の痛みがより気にかかるということはあると思います。



更年期には関節痛を訴える人も

寺内 「エストロゲンの低下」と「一般的な関節痛」には、関連があることが知られています。更年期の関節の痛みは、軽い炎症が起こることとも関係があると考えられます。

これは、あくまでも個人的な実感ですが、外来では、手指の関節の痛みを訴える方が多い印象があります。けれども、なぜ更年期に、股関節のような大きな関節ではなく、手指のような小さな関節が痛むのかは、分かっていません。



HRTは有効?

寺内 腰痛や肩こりといっても、症状の強さや、どれくらい困っていらっしゃるかは、患者さんお一人おひとり異なります。また、狭心症などのために肩が重く感じることもありますので、背景に大きな病気がないかを確認することも必要です。手指の痛みに関しては、はじめにリウマチ性の疾患の有無を確認しておくことも大切です。

その上で、日常生活に支障が出ていたり、我慢できないほどの痛みがあったりする場合は、患者さんのお話をよく聴いて、その方に必要な治療を見極めつつ、治療をご提案していきます。

HRT(ホルモン補充療法)については、アメリカのHRTの臨床研究WHI(Women’s Health Initiative)※3で、閉経後にホルモン療法を行った人について、1年後の症状を調べていますが、ホットフラッシュや寝汗などに次いで、関節痛が優位に緩和されたと報告されています。

イギリスの大規模調査※4でも同様の結果になっています。別のイギリスの調査※5では、閉経後のホルモン療法を中止した人の症状を調べていますが、関節の痛みとこわばりが2.2倍になったと報告されています。

こうしたことからも、HRTは関節の痛みへの有効な治療法といえるでしょう。

漢方薬の場合は、その方の証を診て処方しますので、あくまでも一例ということになりますが、代表的なものに、肩こりには葛根湯(かっこんとう)や加味逍遙散(かみしょうようさん)、腰痛には五積散(ごしゃくさん)、関節痛には桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)があります。

※3 Barnabei 2005 Obstet Gynecol
※4 Welton 2008 BMJ
※5 Ockene 2005 JAMA



姿勢の悪さや運動不足が影響していることも

寺内 運動療法は、腰痛や肩こりに対する一定の効果があることが分かっています。ですので、体の柔軟性を保つストレッチや、肩を上げ下げする体操など、自分に合うものに取り組むと良いのではないでしょうか。さきほどもお話しましたように、腰や肩の痛みは、何が原因か分からないことが多いものです。けれども、加齢とともに筋力が衰えて姿勢が悪くなったり、運動不足になっていたりすることはありますので、適度な運動を日課にすることは、健康維持の面でも大切です。

寺内 厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が参考になるでしょう。

寺内 腰痛や肩こりがつらいまま、日常生活を送るのはきついものです。セルフケアをしてもつらい症状が続く場合は、「腰痛くらいで」「肩こりくらい」でと思わずに、医師に相談してみましょう。更年期症状も強い場合は、更年期に理解の深い婦人科を受診してほしいと思います。

寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。

インタビュアー:満留礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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