更年期の気分ムラ、改善方法は?「更年期うつ」の可能性も

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更年期症状に悩む5人のヴィーナスたちが、専門家に更年期を乗り切るヒントを教えてもらうインタビュー企画「お悩み解決隊」。今回は「気分ムラ」について取り上げます。専業主婦のヒロミも気分の落ち込みやイライラに悩まされている1人。精神科医の佐竹良樹先生にインタビューし、気分ムラへの対処方法について、いろいろとアドバイスをもらったようですよ。

更年期の気分ムラは、エストロゲンの低下が原因のひとつ
性格や環境に起因するところも大きい
背後に更年期うつや他の病気が隠れている場合も
気分ムラを緩やかにする対策を教えて!
困ったとき、つらいときは早めに受診を

更年期の気分ムラは、エストロゲンの低下が原因のひとつ

ヒロミ 最近、気分のコントロールが上手にできなくなっている気がしています。今までなら許せたことも、イライラして家族に当たってしまうし…。この気分ムラには更年期という時期も関係しているのでしょうか。

佐竹先生(以下、佐竹) そうですね。更年期だから気分ムラが起こりやすいのはあると思います。更年期にはエストロゲンの減少により、さまざまな身体症状が現れますが、脳内にあるセロトニン(精神を安定させる働きをする神経伝達物質)にも影響します。例えば「マタニティーブルーズ症候群」や「月経前不快気分障害」などもそうですが、エストロゲンの変動によって、セロトニンの神経伝達が変化し、女性の気分や情緒、行動面の不調が引き起こされるんです。

また、エストロゲンの低下に加えて、40代、50代というのは加齢による体の変化や、子どもの進学や受験、巣立ち、両親の介護、別離などのライフイベントが続く時期でもあります。そのため、精神的にも体力的にも負荷が大きく、不調が出やすいのです。気分の落ち込みや意欲の低下、イライラ、情緒不安定など、精神症状の悪化につながりやすくなりますし、この時期はいろいろな身体症状も現れるため、身体症状の悩みとともに、その症状にとらわれすぎて大きな苦痛が生じることもあります。



性格や環境に起因するところも大きい

ヒロミ 気分ムラになりやすい性格とか環境はありますか。

佐竹 そうですね、ご本人の性格や環境による部分も大きいですよ。その方の成育歴、性格の傾向、家庭や職場におけるサポートといったものが複合的に絡み合っているのではないかと思います。

例えば、家でも職場でも、つらさを理解し、話を聞いてくれる人がいるかいないかは大きいですよね。また、ご本人が周囲を巻き込んでサポートを求められる性格かどうかも大事な点です。

夫は仕事だけをしていて、育児も双方の両親の世話も全部一手に引き受けている更年期の女性も多くいらっしゃいます。自分の健康を二の次にして、周囲ばかりを支え過ぎてしまうと当然無理がたたってしまいますよね。結果として、精神的な不調が出てもおかしくありません。

ヒロミ 更年期の気分ムラの原因は、一概に女性ホルモンのせいとばかりは言い切れないということですね。性格や環境も含めると個人差も大きいし、変えたくても変えられない環境もありますし、これは複雑な問題だと感じました。

背後に更年期うつや他の病気が隠れている場合も

ヒロミ 更年期女性の気分ムラですが、治療をしたら良くなるものでしょうか。

佐竹 症状が改善する可能性はあると思います。気分ムラが気になって精神科にいらしても、ほてりやのぼせなどの更年期特有の症状が強い場合は、女性ホルモンの値を測ってみて、低下している場合は婦人科でのホルモン補充療法をおすすめし、その治療によって症状が改善されるケースはあります。

また、甲状腺の疾患によって憂鬱やイライラが現れていないか、血液検査で甲状腺の値をチェックする場合もあります。気分ムラの症状だけでは、裏にどんな病気があるのかはわからないので、疑わしい他の病気を一つひとつ除外する必要があるのです。更年期の不調の背景に、体の病気だけでなく、うつ病が隠れていることも多いですよ。

ヒロミ 気分ムラから更年期うつと診断されるのは、どんな状況なのでしょうか。

佐竹 更年期という言葉を使うとわかりにくくなってしまうのですが、40代、50代はうつ病になりやすい年齢(好発年齢)です。仕事で管理職になったり、家庭でも育児や介護に忙しかったり。そういう方は、まず心より体の不調でクリニックを訪れるのですが、よくよく聞いてみると気分の落ち込みが強く、休日は動けないほど体調が悪い場合も。そういう場合は、うつ病の診断のもと、その治療をしていくと、体の症状もあわせて改善されていくことがよくあります。

うつ病の身体症状は、睡眠障害、食欲の減退、倦怠感、疲労感、頭重感、耳鳴り、目のカスミ、胸の圧迫感、息切れ、肩こり、腰痛、動悸、胃の不快感、のどが渇く等、さまざまですね。

現れる精神症状も、思考力や集中力の低下、興味の減退、口数が少なくなるといった抑うつの状態のほかに、焦燥感やイライラ、カッカする状態など多様なので、いつもと違う状態はそのまま専門医に伝えてください。

ヒロミ うつ病の症状にも肩こりや腰痛などの身体症状があるなんて、意外でした!

佐竹 精神的なところが原因で身体症状が出る場合もありますから、周囲からの声かけも大切ですね。

女性は基本的に頑張ってしまいがちなので、このくらいの仕事量だったら、このくらいの身体症状だったら自分が頑張ればなんとか乗り切れる、というのを繰り返して、更年期うつのボーダーラインにいらっしゃる方は多いのではないかと思います。

うつ病らしい症状が出てきたら、まずは頑張らないようにしてください。それでもなかなか頑張るのをやめられず、次に挙げるような症状が2週間くらい続いたら、早めに精神科で診察を受けたほうがいいと思います。1週間の中で2、3日落ち込むのは誰しもあると思うのですが、2週間毎日落ち込んでいる、鬱々としている状態というのは専門医(心療内科・精神科)に相談するタイミングです。

【専門医受診の目安】

●気分の落ち込みが強い

●頭がまわらない

●朝から気だるくて動くのが億劫

●休日の趣味など自分の好きなことができなくなった

これらの症状が2週間毎日続くようであれば、早めに専門医に相談しましょう。


うつ病を治療するには、生活環境を見直していかないといけません。仕事が原因であれば、休職したり、会社に「環境調整」をお願いしたりして、環境の改善を目指すこともあります。しかし、プライベートが主な原因の場合には、会社ほど環境を調整することが簡単ではないため、なかなか苦労することもあります。一度に大きく環境を変えられなくても、薬物療法を行いながら少しずつ環境を整え、ときにはいろいろなサポート制度を利用しながら治療を行っていきます。どんな状況であれ、まずはクリニックを訪れ、改善のための第一歩を踏み出す勇気が大切です。



気分ムラを緩やかにする対策を教えて!

ヒロミ 更年期うつには、誰でもなってしまいがちだなと感じました。頑張りすぎないようにしないといけませんね。気分ムラ緩和のためにできる対策があるなら、ぜひ教えてください。

佐竹 一日30分でもゆっくりと瞑想する時間をとって、自分の体の観察をしてみるのがおすすめです。瞑想を普段からしていると、怒りがわいたときに気付きやすく、一呼吸おいて気持ちを鎮めて、感情自体も客観視できるようになります。

女性は男性より共感性が高いので、夫や子どもにイライラをぶつけてしまってから、「どうしてあんな言い方をしてしまったんだろう…」と、さらに自分を責めて落ち込むという悪循環に陥りがちです。なので、日ごろから客観的に自分を見つめる時間をとることで、気分ムラやイライラとうまく付き合っていけるようになると思います。まずは自分の思考の観察、感情の観察を毎日短時間からでも始めてみましょう。そのうえで、以下のような対策も効果があると思います。

●誰かに話す 

自分の中に抱え込まずに、自分がどんな気持ちか、感情を言葉にして話しましょう。例えば女子会などで友人と話してガス抜きをしたり、カウンセリングを受けたりするのもいいですね。カタルシスといいますか、心の中にたまっている負の感情を言葉に出して解放することで、気持ちが浄化されます。

●自分の心に素直になり、日記に感情を書き出してみる

イライラしたら、自分の負の感情を認め、ありのままの気持ちを日記に書くなど、心の外に出してみましょう。「ああ、今自分は怒っているな」と自分の怒りや状態を客観的に認識できると、かなり落ち着くはずです。


●優先順位をつける

イライラして落ち着かないときには、自分の中で優先順位を決めて、自分が最も尊重したいことから順番にやっていきましょう。自分の軸をしっかりと持って、優先順位が低いものは、ときには捨てることも必要だと思います。人間の脳のワーキングメモリは決まっていて、頭の中の記憶領域が埋まってくると誰でもイライラします。とくに更年期は仕事でも家庭でも求められることが多く、マルチタスクになりやすいので、やらなくていいことはやらないことにする「タスクの引き算」が大事です。

●心地良い香りを生活に取り入れる

アロマやハーブなど、ご自身が心地良く感じる香りを日常生活に取り入れて、その中で深い呼吸を意識してみましょう。ベルガモットやネロリの精油は、イライラにも気分の落ち込みにもいいといわれています。

●周囲にサポートを求め、負荷を軽減する

症状の程度によっては、仕事や家庭での負担を減らすために心理的・社会的なサポートを積極的に受けるようにしましょう。診察でさらなる環境改善が必要と判断した場合には、診断書によって保育園で子どもを長めに預かってもらったり、会社に環境調整をお願いしたり、ご本人に休職していただいたりすることもあります。

ヒロミ 今まで気分ムラで家族に迷惑をかけているな…と落ち込むことも多かったのですが、先生のアドバイスで自分の感情を客観的に見ることが大事だとわかった気がします。私も日ごろから頑張り過ぎ、心の中に感情をため過ぎでしたし、日々のタスクに追われてばかりでした。早速「タスクの引き算」をしてみたいと思います。

困ったとき、つらいときは早めに受診を

ヒロミ 先生、最後に更年期女性たちにメッセージをいただけますか。

佐竹 気分ムラが頻繁に起こるようであれば、まずはご自身の環境を見直してみてください。また、おそらく自分のことより他人のことを優先してばかりの毎日だと思います。できるだけご自身の時間をつくって、心と体を休めてくださいね。

日本人女性の平均寿命は85歳を超え、女性の長い一生の中で更年期から閉経期の心身の健康管理に適切に取り組むことの重要性を感じています。本当につらいときは医療機関を受診することも大切ですよ。信頼できる、相性の良いかかりつけ医が見つかれば心強いと思います。

ヒロミ 今日は自分を見直すいいきっかけになりました。先生、本当にありがとうございました。

佐竹良樹先生

こころからだクリニック院長。

名古屋市立大学医学部卒。2019年より現職。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医、日本東洋医学会漢方専門医、臨床心理士。心療内科と漢方内科の診療を通じて、心や身体に不安を抱える患者一人ひとりへの最適な医療の提供を目指す。

ヒロミ

45歳。夫と小学生の子ども2人の4人家族。結婚を機に仕事を辞め、現在は専業主婦となり家庭優先の生活をしている。約2年前から手足のしびれがあるほか、生理周期が短くなり、生理前には頭痛も。冷えや寝つきの悪さにも困っている。

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