更年期を快適に!今すぐ始めたい貧血対策
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セルフケア

専門家と一緒に、更年期世代のお悩みを解決する『お悩み解決隊』。更年期の過多月経で貧血症状を感じることがある読者代表のヴィーナス・ヒロミが、婦人科医の沢岻(たくし)美奈子先生のもとを訪れました。更年期こそ日々の鉄分摂取が大事と先生から教えてもらい、早速食生活の見直しを考え始めたようですよ。
女性に多い「鉄欠乏性貧血」とは?原因と主な症状を知ろう
ヒロミ 先生、最近ときどき生理の経血が多すぎてふらつくことがあります。これは貧血なのでしょうか?
沢岻先生(以下、沢岻) ヒロミさん、経血の量が多くてふらつくなら、ひょっとして“鉄欠乏性貧血”なのかもしれませんね。
実は貧血の人って多いんです。男女ともに、人は毎日のなかでかなり鉄分を必要としています。鉄分が直接エネルギーになるわけではありませんが、エネルギーを作る過程で鉄が代謝される上、消化吸収するときや頭で考えるとき、筋肉を動かすときも鉄が使われているんです。
とりわけ女性は初潮を迎えた頃から鉄の必要量が増えます。運動や勉強をするときでさえ鉄は使われているので、勉強や部活をしている10代。太るのを気にして食事を控えがちな20代。その後妊娠し、子どもに栄養を持っていかれ、産後に授乳が始まり、2人目を妊娠。家事や育児に手を取られて自分の健康を顧みず、そのまま更年期になって生理不順で経血量が増え、さらに貧血に…。
経血量が多くつらい貧血症状のある更年期女性に、出産回数や母乳の出などを問診してみると、実は昔から貧血気味だったという人も少なくありません。つまり、ずっと鉄分が足りていないんです。私も婦人科医として、そういう方を今までたくさん見てきました。
ヒロミ そうなんですね…。貧血とはそもそも、どんな症状なのでしょうか。
沢岻 鉄欠乏性貧血の症状は以下のとおりです。
●鉄分不足が招く貧血症状
・ふらつき、めまい
・肩こり、頭痛
・倦怠感
・集中力が落ちる
・やる気が出ない
・口内炎
・シミ
・髪の毛のパサつき
・爪の割れ
沢岻 このように、貧血の症状は更年期症状と似ています。しんどいのは更年期だからだ、と諦める方も多いんですが、実は貧血を改善しただけで元気になる方もいらっしゃいます。更年期の悩みで一番多いとされる肩こり、頭痛も、貧血から来る場合が多いんですよ。
口内炎やお肌のシミが貧血と関係しているというのは意外かもしれませんが、皮膚や髪の毛のもとになるたんぱく質が作られるときに、鉄分が必要になるんです。つまり、貧血だと鉄分が足りず、お肌に影響が出てしまう。新陳代謝の働きが弱まっているとも考えられます。
なお、以下のような方が貧血が起こりやすいタイプです。貧血というと色白でほっそりした方がなるイメージがあるかもしれませんが、体格がしっかりしている方でも貧血になりますので、体型は関係ありません。
●貧血が起こりやすい人
・生理での出血が多い人(1日に使うレギュラーナプキンが4枚程度までなら平均的な経血量。生理の1日目、2日目の昼間からナイト用やパンツタイプのナプキンを使う場合、タンポンとナプキンを併用している場合などは経血量が多め)
・生活が不規則な人
・メンタル面でストレスを抱えている人
・体内に炎症がある人
沢岻 メンタル面で大きなストレスを抱えると、頭でも体でも鉄分を消耗します。体内に炎症がある場合も同様に鉄分が消費されます。
例えばストレスが溜まって、つい甘いものに手が伸び、脂肪肝になってしまった場合(糖尿病や高血圧などの病気の手前)。この脂肪肝も実は体にとっては“炎症”の一種なので、その対応に鉄分を使いすぎて、結果的に鉄分不足になってしまうこともありえます。

更年期の不調、実は「貧血」かも?症状の見極めと対処法
ヒロミ 貧血と更年期症状が似ているので、自分のふらつきや倦怠感がどちらに該当するのかよく分からなくなりました。見分け方などはありますか?
沢岻 それでは貧血を見分ける方法をお教えしますね。
【貧血の見分け方】
●爪の異常を見る
爪がすぐに割れたり、2枚爪になったり、爪に水平の線が入っていたり…。元気のない爪になるのは、貧血の可能性があります。
●白目の薄さを見る
あっかんべをするように指で目の下を引っ張り、下瞼の裏側の粘膜(眼瞼結膜)を見たときに白っぽい場合、貧血が疑われます。自分だけでは白さの違いが分からないかもしれないので、家族や友人と眼瞼結膜の色を比べてみるといいかもしれません。
●クリニックの血液検査で貧血に関する値を調べてもらう
女性の場合、血液検査でヘモグロビン血液色素の値を見たときに、11くらいあれば貧血ではないんです。でも、体全体の鉄の蓄えをみるフェリチンという値を一緒に見ないと、本当は体に鉄分の蓄えが十分あるかどうかが分からない。ヘモグロビンの値は正常でも、実は貧血ということもありえます(隠れ貧血)。
更年期や妊婦検診で婦人科を訪れると採血をしますが、ヘモグロビンの値しか見ていないことも多いのです。そのため、貧血かどうかを調べてもらいたい場合は、クリニックで「貧血の詳しい検査もしてください、フェリチンの値も見てください」とリクエストするといいですよ。
また貧血だと睡眠の質が落ちるので、良い睡眠がとれていない場合は、貧血を疑って血液検査を受けてみるといいと思います。
ヒロミ なるほど!私は最近、睡眠の質が落ちているのも実感していますし、爪にも横線が入っているので、貧血の可能性が高い気がします。実際に貧血でふらついたときには、どう対処すればいいのでしょうか。
沢岻 まずは休んでください。ただ、休むだけでは改善しないので、早急に鉄分を摂る必要があります。貧血だと感じたら、まずはサプリメントから鉄分を摂ること。貧血になってから鉄のフライパンで調理したり、鉄分を含む食品を摂取したりしても、今起きている貧血に対する即効性はありません。
なお、1日で吸収できる鉄分の量は決まっているので、“鉄分が足りないから、今日はサプリを多めに摂ろう”ということはできません。鉄分は毎日コツコツ摂るしかないんです。
クリニックの血液検査で貧血だと分かった場合は、「貧血の薬を出しておきますね」と、鉄剤(鉄欠乏性貧血の治療に用いられる薬)が処方されることでしょう。しかし、たとえ薬で一時的に数値が良くなったとしても、恒常的に鉄分が不足している場合は、また貧血症状が出てしまいます。やはり鉄分を日々コンスタントに摂り続けることが貧血の一番の予防策なのは変わりません。

今すぐ始めたい貧血対策。鉄分補給は毎日の工夫から
ヒロミ 貧血を防ぐには、具体的にどうすればよいのでしょう。
沢岻 まず初めに、鉄分は食事だけでは十分に補いきれないことを意識しておくことが大切です。昔は鉄鍋が使われていましたが、今はテフロン加工の調理器具が増え、IHが普及し、本当に便利になりました。その分、自然界から取り入れる鉄分は明らかに減っています。
また、貧血の方を診察すると、みなさん食事量が少ない傾向にあります。たんぱく質はもちろんのこと、女性ホルモンの原料であるコレステロールも適度に必要なので、脂質もバランスよく摂れるといいですね。
以下、貧血の具体的な予防策をお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
●鉄鍋や鉄のフライパンを使う
お茶を飲むときに鉄鍋でお湯を沸かす、卵焼きを鉄のフライパンで作ってみるなど、積極的に鉄製の調理器具を使うのがおすすめです。鉄製の調理器具は錆びるから…と躊躇する方もいるかもしれませんが、毎日使っていれば錆びることも少ないですし、もし錆びたら錆びを落として使えばいいだけ。
調理器具の導入が難しい場合は “鉄玉”を取り入れるのもおすすめです。“鉄玉”とは、調理中に鍋に入れるだけで手軽に鉄分を補える、手頃な価格の鉄製アイテムのこと。この鉄玉を、鍋に入れて煮炊きに使ったり、ヤカンに入れてお湯を沸かしたりすれば鉄分が溶け出すので、食事とともに体内に摂取できます。
●貧血に良い食品を摂る
鉄分を含んだ食品を日々摂ることも大切です。おすすめは、豚(牛や鶏でも可)の骨付き肉をじっくり煮込んで作るスープ(ボーンブロス)。骨に含まれるコラーゲンやミネラル、カルシウムなど、いろいろな栄養素が豊富に含まれており、骨粗しょう症対策にもなります。出汁が出た後の肉を食べればたんぱく質も摂れます。
<貧血に良い食品例>
・赤身の肉(豚肉ならどの部位、どんな調理法でもおすすめ。脂身もよけずにしっかり食べること)
・赤身の魚(カツオやマグロなど)
・豆類(大豆など)
・ほうれん草
・ひじき
・レバー(パン食なら、レバーペーストにして一緒に食べると良い)
・ボーンブロス
貧血になりやすい人は、全体的に栄養が不足しています。更年期世代のお母さんが貧血でつらいという場合、娘さんも貧血ということもよくあるんですよ。家族で同じ食事内容ですから、当然そうなりますよね。たんぱく質不足と鉄欠乏性貧血はセットで起きることが多いので、野菜だけでなく、赤身の肉や魚、豆を食べて、たんぱく質をしっかり摂ることをおすすめします。
なお、鉄分には、ヘム鉄(肉や魚に含まれる)、非ヘム鉄(野菜、豆類、海藻類、卵、乳製品に含まれる)の2種類がありますが、どちらもバランスよく摂ってください。特に運動をしている人は、汗や運動後の筋肉の回復・再生のために鉄分を失いがちなので、積極的に摂ること。また、ビタミンCは鉄分の吸収を助ける働きがあるため、食事の際には意識してビタミンCを含む野菜や果物などを一緒に摂るようにしましょう。

●サプリを活用する
手軽に鉄分を補給できるサプリを活用しましょう。ただし、1日に必要な鉄分の推奨量は18~74歳の月経ありの女性は10.5mg(月経なしの場合は6.0mg)なので、過度に摂りすぎないようにしてください。鉄分を継続的にサプリで補う際は、血液検査で体に鉄分が十分に足りているかどうかを医師に判断してもらいながら摂取を続けると良いでしょう。
●婦人科の治療を検討する
女性の貧血は月経に関連していることが多いので、つらくなる前から婦人科で治療を始めることをおすすめします。なぜなら、生理不順や過多月経などの問題はQOLを下げてしまうから。ホルモン治療、避妊リング(ミレーナ)などで対策をすれば、体が楽になるはずです。経血が多いと感じたら、我慢せずに婦人科で検査してもらいましょう。
ちなみに閉経して出血がなくなり、鉄分が食事から摂取できているなら、貧血症状はおさまる可能性があります。
月経や婦人科の病気かも?貧血に潜むリスクに注意
ヒロミ とにかく鉄分は毎日コツコツ摂る必要があるんですね。予防策が分かってひと安心です!
沢岻 ヒロミさん、安心する前にもうひとつ、ぜひ心に留めておいていただきたいことがあります。それは、貧血の症状の陰に、婦人科系の疾患や病気が隠れている場合があるという点です。
プレ更年期から更年期世代が気にすべき疾患に、子宮筋腫や子宮内膜症が挙げられます。更年期には経血量がいきなり増えることがありますが、この二つの病気の場合も、経血量が増えることがあるんです。「貧血と思っていたら病気だった」では困るので、2年に1回は婦人科検診を受けておいてくださいね。
ちなみに、まれにがんが原因で貧血が生じることもあります。長引く貧血や原因不明の体調不良がある場合は、念のため医療機関で詳しく調べてもらうことをおすすめします。
ヒロミ 経血量が気になったら、自己判断せずに医師に相談したほうが安心ということですね。分かりました!
普段から鉄を摂取して、更年期をポジティブに
ヒロミ 先生、更年期に貧血対策をするって、大事なことだったんですね。
沢岻 そうなんです。女性は更年期から元気がなくなる人、更年期から元気になっていく人、2タイプに分かれるような気がしています。健康に難があると、常に病気の不安を感じがちですが、健康でご飯が美味しくて、よく眠れる…そんな体なら、自分に自信がつきますし、メンタルも強くなって、更年期以降も人生にポジティブなイメージを持てると思うんです。そのためにもぜひ、普段から積極的に鉄を摂るようにしてほしいなと思います。
“腸脳相関(ちょうのうそうかん・腸と脳が互いに影響し合っているという意味)”という言葉があるくらい、「健康は腸内環境で決まる」と最近よく言われますよね。鉄を摂って、きちんと消化吸収できる胃腸があれば、長く健康でいられます。
ヒロミ 鉄分が足りていると、肌ツヤも変わりますか?
沢岻 変わると思いますよ。貧血症状がない人のほうが、肌も髪の毛も元気です。鉄分が足りていれば、きっと心も体もハッピーになれるはずです。
ヒロミ 確かにそうですね!貧血っぽいかも…と思うだけでなく、日々鉄分をしっかり補充していこうと思います。先生にすすめていただいたボーンブロス、週末にじっくり煮込んで作ってみますね!先生、今日はありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>

沢岻 美奈子 先生
沢岻美奈子女性医療クリニック 理事長
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ヒロミ
45歳。夫と小学生の子ども2人の4人家族。結婚を機に仕事を辞め、現在は専業主婦となり家庭優先の生活をしている。約2年前から手足のしびれがあるほか、生理周期が短くなり、生理前には頭痛も。冷えや寝つきの悪さにも困っている。