更年期のめまい、原因や予防法、対処法は?
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めまいは年代を問わず起こる病気ですが、更年期にめまいを訴える人は少なくありません。めまいの原因は多様で、耳石のかけらや、内耳の水ぶくれ、過度なストレス、不安感、そして病気によるものなど、さまざまなことが考えられます。そこで今回は、更年期の専門医である東京科学大学の寺内公一先生に、更年期のめまいについて伺いました。
めまいの症状~代表的な3つのめまい
―更年期にめまいを感じる人は多いようです。最初に、めまいとはどのような症状かを教えていただけますか?
寺内公一先生(以下、寺内) めまいにはさまざまな症状があり、大きく分けて、「回転型めまい」「失神型めまい」「動揺型めまい」があります。
・回転型めまい…自分や周囲がぐるぐる回転する ・失神型めまい…目の前が暗くなる、気が遠くなる ・動揺型めまい…頭がふわふわする、ふらつく |
―この3つのめまいの原因を簡単にご説明いただけますか?
寺内 おおまかな説明になりますが、
回転型めまいは、耳の奥にある「内耳」が関係していることが多いめまいです。内耳には、蝸牛、三半規管、前庭神経などがあり、それらの器官によって、音を聞いたり、体の傾きを感じ取ったりしていますが、ここに異常が現れると、ぐるぐる回転するようなめまいが起こります。
失神型めまいは、不整脈や心不全といった循環器系の疾患が関係していることが多く、脳貧血(一時的に脳に酸素が行かなくなること)によって、目の前が暗くなったり、気が遠くなったりするようなめまいが起こります。
動揺型めまいは、平衡感覚に関わる感覚系(視覚、固有感覚、前庭感覚)や運動系を司る脳の働きの異常が関係していることが多く、ふわふわと雲の上を歩いているようなめまいを起こすため、自分でしっかり立てなかったり、歩けなかったりします。
そして、この3つにあてはまらない、非特異的めまいがあります。神経症やうつ病など、メンタルの不調によって起こることの多いめまいです。
他にも、ふと頭が軽くなった感じがしたり、急にぼーっとしたりするようなめまいもあります。
更年期にめまいを感じる人はどれくらいいる?
―更年期にめまいを訴える人は、どれくらいの割合でいるのでしょうか?
寺内 2004年に行われた日本の地域住民で更年期女性を対象にした疫学調査※1では、「めまいや失神を感じる」について、「非常にある」は1.5%、「かなりある」は4.9%、「少しある」は35.4%で、合計すると41.8%の方がめまいを感じていることが分かりました。
オーストラリアの地域住民を対象にした同様の調査※2では、「非常にある」は0.9%、「かなりある」は3.5%、「少しある」は20.7%でした。合計すると25.1%になり、4人に1人がめまいの症状を感じていました。
―更年期外来では、めまいの症状を訴える人はどれくらいの割合でいるのでしょうか?
寺内 当院の更年期外来を受診されている患者さんを対象に、めまいの有病率を調べた調査※3では、「重度」は7%、「中程度」は6.2%、「軽度」は22.5%いらして、合わせると35.7%の方が、軽度から重度のめまいを感じていることが分かりました。
―多くの更年期女性がめまいを感じているのですね。男女差はあるのでしょうか?
寺内 男性よりも女性のほうが、めまいを訴える方は多い傾向にあります。厚生労働省の統計調査「国民生活基礎調査」では、めまいを訴える人の割合を公表しています。

―グラフを見ますと、確かにどの年代でも、男性よりも女性のほうがめまいの症状が多いですね。特に女性は、40~50代の更年期にかけてと、70代以降に自覚症状がある人が増えています。40~50代のめまいは、女性ホルモンと関連があるのでしょうか。
寺内 それを示すエビデンスはありません。海外も含めて、ほぼすべての更年期症状評価表(更年期症状をチェックする表)には、めまいの有無をたずねる項目がありますし、めまいを実感されている方も多いのですが、更年期のめまいが、女性ホルモンのゆらぎに関連があるのかについては、まだよく分かっていません。

※1 更年期女性における症状の頻度(日本人女性848名、45~60歳、住民サンプル/Anderson 2004 Climacteric)
※2 更年期女性における症状の頻度(オーストラリア人女性886名、45-60歳、住民サンプル/Anderson 2004 Climacteric)
※3 2007~2016年に、東京医科歯科大学周産・女性診療科更年期外来の系統的健康・栄養教育プログラムに参加した40歳以上65歳未満の女性471名(平均年齢51.2歳)について、初診時の記録を基に横断的検討を行った研究(Terauchi 2018 BioPsychoSocial Medicine)
更年期に現れやすいめまいは?
―更年期外来では、どのようなめまいを訴える方が多いのでしょうか?
寺内 あくまでも個人的な実感ですが、当院の更年期外来にいらっしゃる患者さんが訴えるめまいの多くは、回転性めまいのなかでも、耳石が剥がれ落ちることで起こる「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」と、心の不調が原因と考えられる「非特異的めまい」が多いように思います。
めまいには、さまざまな症状がありますので、診察の際は、例えば、患者さんがお話しされるめまいが、さきほどお話しした代表的な3つのめまいに当てはまるか、どのような感じのめまいか、いつ発症したのか、症状はどれくらいで治まったかなどを、よくお聴きするようにしています。
―良性発作性頭位めまい症は、どのような病気ですか?
寺内 簡単に説明しますと、耳の奥の内耳には、耳石器(じせきき)という、体の向きや重力といった位置感覚を感知するセンサーがあります。耳石器には耳石(じせき)という砂のような小さな石がたくさんくっついています。
ところが、耳石の一部が剥がれ落ちて、三半規管に入り込むことがあり、そのような状態で頭を動かすと、三半規管の中で耳石が動き、あたかも周りが動いているように感じられます。
なぜ耳石が剥がれ落ちるのか、理由は詳しくは分かっていませんが、良性発作性頭位めまい症は、頭の向きを変えると起こりやすいことが知られています。
外来でも、患者さんのお話を聴いていますと、例えば、朝起きて頭を起こしたときや家事などで下を向いたとき、お風呂で頭を洗おうとしたときなどに、急にぐるぐる回って…とお話される方は多いです。
めまいの原因~骨粗鬆症と関連がある!?
―なぜ、良性発作性頭位めまい症が多いのでしょう?
寺内 指摘されているのは、骨粗鬆(しょう)症との関連です。耳石が何かというと、カルシウムの小さな粒です。体の骨も耳石もどちらもカルシウムですから、骨粗鬆症と似たことが内耳で起きてもおかしくはありません。
「更年期以降なぜなりやすい?骨粗鬆症の予防と対策」のときにお話ししましたが、女性は、女性ホルモンの分泌量が低下すると、骨を壊す細胞(破骨細胞)の活性が高まり、骨がもろく弱くなります。女性の骨粗鬆症の有病率は、男性の約3倍という報告※4があります。
―めまいと骨粗鬆症に関連があるのですね。ところで、剥がれ落ちて三半規管に入り込んだ耳石は、その後どうなるのでしょうか?
寺内 基本的には、そのうちに溶けてなくなってしまいます。剥がれ落ちた耳石が原因の回転性めまいの場合、しばらくすると症状が治まるのは、このためだと考えられます。ただし、また少しして耳石が剥がれ落ちてしまい、めまいをくりかえすこともあります。
―骨折予防だけでなく、めまい予防にも骨粗鬆症予防は大切ですね。
※4 Yoshimura 2009 JBMM

心の不調がめまいにつながる!?
―心の不調が原因と考えられる「非特異的めまい」について教えてください。
寺内 冒頭で、当院の更年期外来を受診されている患者さんを対象に、めまいの有病率についてお話ししましたが、その方たちを対象にした研究※3で多変量解析を行ったところ、更年期女性のめまい(軽度から重度)と不安スコア※5(不安症状)が関連することが分かりました。
めまいと不安感の関連については、これまでも研究されていることで、不安感が、耳石器や三半規管の機能を低下させることも知られています。
大事なことは、めまいと不安感に双方向性があるということです。つまり、不安があることによってめまいを感じる、そして、めまいがあるから不安感を持つということです。
―確かに更年期は、子どもの進学、進学資金、子どもの巣立ち、リストラ、老後の資金、自身や家族の病気、親の介護、大切な人の死など、大きな事柄が重なりやすい時期です。また、更年期は、これといった理由がないのに不安になるという声も聞きます。
寺内 原因がはっきりしている不安もあれば、はっきりしていない不安もあると思いますが、どちらがということではなく、それらの総和による不安感が、めまいの原因になることは考えられます。そして、めまいが起こることで、この先どうなってしまうのだろう…といった不安感が引き起こされることもある、ということです。
ーめまいと不安感はお互いに影響し合うのですね。
※3 2007~2016年に、東京医科歯科大学周産・女性診療科更年期外来の系統的健康・栄養教育プログラムに参加した40歳以上65歳未満の女性471名(平均年齢51.2歳)について、初診時の記録を基に横断的検討を行った研究(Terauchi 2018 BioPsychoSocial Medicine)
※5 HADS-A: Hospital Anxiety and Depression Scale-Anxiety Subscale(不安の程度を判断するための尺度)
めまいの対処法~受診する目安と何科がよいか?
―めまいがあるとき、医療機関を受診する目安があれば教えてください。
寺内 めまいに限ったことではありませんが、日常生活への支障が大きいとき、不調が長く続くとき、悪化するときは、ぜひ医療機関とつながってほしいと思います。
ー何科を受診すればいいでしょうか?
寺内 めまいがつらいときは、まずは、耳鼻科を受診されるのがよいと思います。一人で歩くことが難しい場合は、付き添いの方と一緒に病院に行きましょう。
良性発作性頭位めまい症の場合は、動いた耳石を元に戻すことに長けた医師の診察を受けるのも一つです。
更年期に限りませんが、ストレスや疲労、睡眠不足などによって、内耳のリンパ液が増え、難聴や耳鳴りなどを伴う回転性めまいを引き起こす「メニエール病」も、女性に多いめまいです。
めまいは、背景に脳の病気など、大きな病気が隠れている場合もありますので、放っておかずに早めに耳鼻科を受診しましょう。
その上で、回転型、失神型、動揺型にあてはまらず、めまいはあるけれど、一人で出歩くことができる方で、更年期症状もある場合は、更年期外来を受診されるとよいと思います。
HRT(ホルモン補充療法)は有効?
―HRT(ホルモン補充療法)はめまいに有効でしょうか?
寺内 HRTをしている方は、良性発作性頭位めまい症が起こりにくいというデータもあるようですが、HRTで予防や治療ができるというエビデンスは今のところありません。
―めまいに効く漢方薬はありますか?
寺内 漢方薬の場合は、患者さんの「証(患者さんの体質や症状の特徴)」を診て処方しますので、あくまでも一例ということになりますが、漢方では、めまいは「水毒(全身の水分バランスが悪い状態)」であり、内耳の三半規管にあるリンパ液のバランスの異常と考えますので、利水剤として五苓散(ごれいさん)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を処方することが多いです。
―不安感が強いときはどのような治療が受けられるでしょうか?
寺内 更年期症状としてめまいを訴えて受診された方でも、よくお話を聴いていますと、背後に精神症状が隠れている場合があります。不安症状が強いためにめまいが現れている場合は、認知行動療法が有効です。抗めまい薬や抗不安薬を処方することもできます。

めまいの対処法~予防のセルフケアは?
寺内 めまいが起きたときは、ラクな姿勢をとって安静にし、症状が落ち着くのを待ちましょう。長引いたり、症状に改善が見られなかったりする場合には、医療機関を受診し、大きな病気が隠れていないかを早めに調べることが肝心です。
●日常生活でできること
―自己判断せずに、医療機関につながることは大事ですね。その上で、普段できるような、セルフケアがあれば教えてください。
寺内 これをすればめまいを予防できる、というものはありませんが、偏った生活習慣、偏った食事、過度なストレス、疲労の蓄積、睡眠不足、運動不足などは、体力を低下させるだけでなく、メンタルの不調につながり、更年期の不調を強くすることもあります。
日常生活では、生活のリズムを整え、休息を取り、よく眠れるように工夫し、栄養バランスの整った食事を心がけ、適度な運動を心がけましょう。こうした心がけは、一見当たり前のことのように思えますが、健康な心身を保ち、更年期症状をやわらげることにつながります。
●骨粗鬆症対策
―めまいと骨粗鬆症に関連があるということですが、骨粗鬆症予防のセルフケアを取り入れてみるのも良いでしょうか?
寺内 骨粗鬆症予防がめまいを改善するというデータはありませんが、更年期以降は、骨粗鬆症になりやすくなりますので、日頃からの予防は大切です。食品から摂る栄養素で骨に重要なものに、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKがあります。
カルシウムは牛乳や乳製品に、ビタミンDは魚、きのこ、卵に、ビタミンKは緑黄色野菜、海藻、納豆(ひきわり納豆)に多く含まれています。
ビタミンDは、体内で作られる量と食品から摂る量の割合が、およそ7:3で、体内で作られるほうが多いので、適度に紫外線を浴びることも大切です。
●不安対策
―不安症状の改善は、めまいの緩和につながる可能性がある、というお話でしたので、不安感の改善が期待できる「ブドウ種子ポリフェノール(プロアントシアニジン)」を摂るのも良さそうですね。
寺内 ブドウ種子ポリフェノール(プロアントシアニジン)で、更年期の不安症状が改善したというデータはあります。不安感は、耳石器や三半規管の機能低下を引き起こしますので、不安感を抑えることが、めまいの軽減につながることは、十分にありうると思います
―試してみる価値はありそうですね。また、不安をやわらげる方法の一つとして、厚生労働省のWebサイト「こころと体のセルフケア」にあるストレス対策も役立ちそうです。「体を動かす」「腹式呼吸を繰り返す」といったことが紹介されています。
寺内 めまいに限らず、セルフケアをしてもつらい症状が続くときは、一人で抱えずに、医療機関とつながりましょう。医師と二人三脚で治療的なアプローチを進めながら、生活習慣に偏りがあれば、少しずつ整えていくことも大切です。更年期症状がある場合は、がまんせずに、更年期外来を受診していただければと思います。
―今回も貴重なお話をありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>

寺内 公一 先生
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
▼詳しいプロフィールを見る
<インタビュアー>

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。