更年期に起こる手のしびれ、ドクターが解説

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春の日差しが差し込む季節になっても更年期症状は年中無休。45歳の専業主婦・ヒロミにとっても解決できない問題があるようです。それは「手のしびれ」。更年期女性の「お悩み解決隊」のひとりとして、なんとか改善の糸口を探りたいと手の整形外科専門クリニック「柏Handクリニック」院長の田中利和先生にインタビューしてきました。

手のしびれとはどんな症状?
手のしびれの原因はホルモン低下による炎症だった
病気からくる手足のしびれとは
手がしびれたら手を振ってみると改善することも。夜は安静に
第2の目ともいわれる手、しびれ対策はお早めに!



手のしびれとはどんな症状?

ヒロミ 先生、私最近手がしびれるようになってきました。朝起きても、なんとなく手が動かしづらい気がします。これは更年期症状のひとつなのでしょうか。

田中先生(以下、田中) そうですね。更年期に指がしびれたり、朝起きたときに手がこわばるという相談はよくあります。なかには安静にしているときにも痛みが出る、お財布から思うようにお金が出せないというケースも。ものをつまむ動作が上手くできなくて、ものを落としてしまうのです。ヒロミさんも最近になってものを落としやすい、触った感じがわからないといったことはありませんか?また夜間にしびれて熟睡感がない、しびれで夜間や朝方に目が覚めてしまうなどの症状をお持ちの方もいます。そうなると不眠がちになり、イライラや集中力の低下まで生じかねません。



手のしびれの原因はホルモン低下による炎症だった

ヒロミ 最近、ものをつまみにくいと感じることは私も増えました。原因は何なのでしょうか。

田中 女性ホルモンのバランスが悪くなる更年期には、ホルモン低下とともに女性ホルモンの受容器のある関節、滑膜に炎症が起こりやすくなります。特に手のなかには指を動かす腱と手指の感覚を伝える神経が走っているので、その影響を受けやすいのです。

なお、更年期に起こりやすい疾患のひとつとして「手根管(しゅこんかん)症候群」というものもあります。手関節の使い過ぎで発症しやすく、特に物品のピックアップ作業等をされている方は特に注意が必要です。ものをつまむことが難しい方のなかには、この疾患をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。 ちなみに季節関係なく手のしびれは起こりますが、体感として寒いとしびれは強く感じますし、暖かいと軽減してきます。



病気からくる手足のしびれとは

ヒロミ 私の場合、手のしびれは現時点では違和感程度なのですが、病気が隠れている場合もあるのですか。

田中 そうですね、手のしびれを起こす病気はいくつかあります。手根管症候群、肘部管(ちゅうぶかん)症候群、髄(けいずい)症、頸部神経根障害、脳梗塞などです。更年期に起こりやすい病気は先ほどもお話しした「手根管症候群」ですが、通常30分で改善していた朝のしびれが改善しなかったり、お財布から小銭を出しづらくなったりという場合には早めに専門医を受診されることをおすすめします

【手のしびれを起こす病気】

●手根管症候群…親指、人さし指、中指のしびれで、薬指の親指側半分のしびれが生じます。小指はしびれません。原因の多くは特発性と言い、更年期女性に多いです。そのほか腫瘍や、骨折後の変形で生じます。

●肘部管症候群…小指と薬指の小指側半分がしびれます。原因は肘関節の変形や幼小児期の肘周囲の骨折に伴う肘変形によって起こります。

●頸髄症…後縦靱帯骨化症という背髄を圧迫する病態や椎間板ヘルニアで両手のしびれが起きます。

●神経根障害…親指と人さし指だけ、中指だけ、薬指と小指だけというしびれ方で、どちらも椎間板ヘルニアや後縦靭帯骨化症という脊髄を圧迫する病態で生じます。

●脳梗塞…同側の上肢と下肢、また、上記以外の範囲のしびれが生じます。原因は塞栓という血液の塊が血管を閉塞することで、血管の支配領域の脳細胞がダメージを受ける病態です。

ヒロミ 手のしびれを軽く考えていると、実は病気が隠れていることがあるのですね。また手ではなく足先にもしびれが出ることはありますか。

田中 脊椎管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう※)や椎間板ヘルニアが原因で足がしびれることがあります。腰痛がない方でも腰の神経だけが問題を起こすと、しびれが生じます。

※脊柱管狭窄症…椎間板や骨の変形などで背骨にある神経の通り道「脊柱管」が狭くなり、神経が圧迫される症状。



手がしびれたら手を振ってみると改善することも。夜は安静に

ヒロミ 手がしびれた場合、どうすれば改善できるのでしょう。おすすめのケア方法があれば教えてください。

田中 しびれの症状が現れているときは、手首から先をぶらぶら振ってみると改善することがあります。また、手関節の動きを止めて安静にすると、翌日にしびれが明らかに良くなるのですが、これには「スプリント」などの装具を使用します。就寝時に使用するのがおすすめで、装具内で手首をまっすぐにして寝ているだけで、翌朝に効果を実感できます。

そのほか手のしびれ予防に効果的なのは、手首の曲げ伸ばしを極力少なくすること、袖がゆるめで手首を圧迫しない服を着ることです。手を頻繁に使う仕事をしている場合は、手首の使用頻度が減る部署への異動を検討してみてもいいでしょう。

なお、日ごろから大豆製品を食べることも有効です。大豆に含まれるイソフラボンが女性ホルモンと同様の作用をするといわれています。毎日一定量を摂取するにはサプリメントもいいかもしれません。



第2の目ともいわれる手、しびれ対策はお早めに! 

ヒロミ 手のしびれは家事にも影響が出ますし、つらいなと思いつつも、日々の忙しさでごまかしていたところがあります。気づいたときに対策をすればいいですか。

田中 手は「第2の目」といわれるほど感覚に優れた器官で、外界の変化をデリケートに収集してくれます。手がしびれていると情報収集能力が衰えますし、常にしびれていると精神的に不調になり、自律神経に影響が出ることもあります。長期間神経を圧迫している状態が続くと、神経は変性し扁平化してしまい、通常には戻らなくなってしまいます。

そのうえ、しびれの症状は時間とともに改善するものではありません。特に更年期に多い手根管症候群は、時間の経過とともに神経が変化し治りにくくなってしまうことがありますので、日常生活に支障が出ている場合には、早期に加療を行うことをおすすめします。

また、手に違和感を感じておられる場合は、予防的に普段から女性ホルモンの代替えになるイソフラボンを摂ると、手のしびれ、こわばり、手指の変形等だけではなく、更年期に伴う種々の症状も同時に軽減してくれると思います。

ヒロミ 手のしびれと精神的な不調がつながっているとは思いませんでした。イソフラボンを積極的に摂りつつ、手のしびれがひどくなったらすぐに受診したほうが良さそうですね。今日はありがとうございました!

田中利和先生

柏Handクリニック院長

旭川医科大学医学部卒業、筑波大学医学博士。数々の病院の整形外科に在籍したのち、筑波記念病院・整形外科部長やキッコーマン総合病院・副院長、株式会社ツカモトコーポレーション社外取締役などを歴任。2020年3月に手の整形外科専門クリニックである「柏Handクリニック」を開院。著書に『イラストでわかる骨・筋肉・神経のしくみとはたらき事典』(ナツメ社)。


ヒロミ

45歳。夫と小学生の子ども2人の4人家族。結婚を機に仕事を辞め、現在は専業主婦となり家庭優先の生活をしている。約2年前から手足のしびれがあるほか、生理周期が短くなり、生理前には頭痛も。冷えや寝つきの悪さにも困っている。

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