更年期から肌質が変わる!? シミ、シワ、たるみの予防と対策【医師監修】
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更年期を迎えて、ふと鏡を見たら、なんだかシミ、シワ、たるみが気になる…という人は、少なくないかもしれません。大人の肌は、年齢とともに、ふっくらとしたハリが失われやすくなりますが、そうした変化は、加齢の影響だけでなく、実は、女性ホルモンの影響もあるようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京科学大学の寺内公一先生に、女性ホルモンと肌の変化についてお話を伺いました。
肌は3層構造。エストロゲンと関係が深いのは「真皮」
―今回は、肌のシミ、シワ、たるみについてのお話ですが、最初に肌の構造について、基本的なことを教えていただけますか?
寺内先生(以下、寺内) 皮膚は、薄い膜状のものですが、そのなかでも、上から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層構造になっています。基底層で生まれた細胞は、少しずつ上へ押し上げられ、およそ28日をかけて、表皮の一番外側の角層にたどり着き、垢となってはがれます。表皮はこれを繰り返し、常に新しく生まれ変わっています。このことを「ターンオーバー」といいます。ターンオーバーのサイクル(表皮が生まれ変わるまでの時間)は、年齢を重ねると遅くなる傾向があります。

一方で、女性ホルモンのエストロゲンと関係が深いのは「真皮」です。真皮は、図のように、網状にはりめぐらされたコラーゲンというたんぱく質(膠原線維)が大部分(97.5%)を占めています。そこに、エラスチンというたんぱく質(弾性繊維)が、ゴム状に伸び縮みしながらコラーゲン繊維同士をつなぎとめるように絡みついて支えています(2.5%)。
例えば、皮膚を引っ張ってもお餅のようにちぎれてしまわないのは、コラーゲン繊維が肌をしっかり支えているからです。肌を押しても凹んだままにならないのは、エラスチンの持つ弾性のおかげといえます。

真皮にある組織は、これだけではありません。コラーゲンとエラスチンの隙間を、「ヒアルロン酸」というゼリー状の物質が満たしています。ヒアルロン酸は水分保持力が高く、それが肌のみずみずしさにもつながっています。ほかにも、酸素や栄養を運ぶ毛細血管、皮脂腺、汗腺、体毛、毛包など、さまざまなものから真皮は成り立っています。
加齢の影響がエストロゲンの欠乏によって加速
―女性ホルモンのエストロゲンと関係が深いのは真皮ということですが、エストロゲンが減少すると、肌はどのような影響を受けるのでしょうか?
寺内 エストロゲンの受容体は、体のいたるところにあり、皮膚にもあります。エストロゲンとエストロゲン受容体には、鍵と鍵穴のような関係が成り立ち、エストロゲンと受容体が結合すると、細胞が刺激を受けて働き出します。例えば、コラーゲンはエストロゲンの刺激によって生成されます。
更年期以降の皮膚のエイジングについて、エストロゲンの欠乏がどのように関わっているのかを調べた研究※1では、「コラーゲンや水分量が低下する」「皮膚が薄くなり、弾力が低下する」「シワが増える」といったことが報告されています。つまり、皮膚の弾性(トランポリンのように跳ね返す力)が低下しやすくなるのです。
こうした変化は、加齢の影響もありますが、エストロゲンの欠乏によって加速するといえます。
―シワやたるみが現れる背景に、エストロゲンの減少が関わっていたとは…。悩ましいです。エストロゲンが関係する老化について、毛髪に変化を感じる人も、少なくないようですね。
寺内 毛髪については、外来で相談されることが多いことの一つですが、一方で治療法がなく難しい問題でもあります。
女性の場合、エストロゲンの欠乏によって薄毛が始まり、特に頭頂部中央の分け目のところから薄くなっていくことが多いようです。けれども、なぜ、そのようなことが起こるのか、メカニズムはよく分かっていません。
※1 Brincat 2005 Climacteric、Affinito 1999 Maturitas、Sumino 2004 J Am Geriatr Soc
「加齢」「光老化」「エストロゲンの減少」が肌老化の要因
寺内 更年期以降に見られる皮膚の変化は、「加齢」「光老化」「エストロゲンの減少」が複合的に関わり合い、掛け算のようになって起こる現象といえます。
―光老化について簡単に説明をお願いします。
寺内 光老化とは、紫外線を浴びることで現れる皮膚の老化現象のことです。光老化によって皮膚には、弾力低下、シワ、乾燥、黄ぐすみ、色素沈着、毛細血管の拡張などが起こることが分かっています。
―肌のお手入れをしていて、気になることばかりですね。具体的に紫外線は、肌にどのようなダメージを与えるのでしょうか?
寺内 紫外線にはいくつか種類がありますが、皮膚に影響する紫外線の代表は、UV-AとUV-Bの2種類です。UVとは、「ultraviolet」の略で、紫外線のA波、B波という意味です。
UV-Aは波長が長く、UV-Bと比べてエネルギーは弱いのですが、皮膚の奥まで入り込むのが特徴です。真皮で吸収され、コラーゲンやエラスチンを分解して、シワやたるみといった皮膚の老化の一因となります。
もう一つの、UV-Bは、UV-Aと比べて波長が少し短いのですが、エネルギーは強いのが特徴です。表皮で吸収されますが、皮膚は紫外線から表皮細胞を守るためにメラニン色素を生成します。それがシミ(日光性黒子/老人性色素斑)や皮膚がんの一因となります。
A、Bは波長の違いですが、「AはAging(老化)のA」「Bは Burning(燃焼)のB」と覚えると分かりやすいと思います。
―なるほど。ところで、日焼け止めの化粧品には、「SPF」と「PA」が表示されていますが、どういう意味なのでしょう?
寺内 SPFは「Sun Protection Factor」の略で、UV-Bを防ぐ効果を示しています。もう一つのPAは「Protection Grade of UV-A」の略で、UV-Aを防ぐ効果を+記号で表しています。
―A波とB波をそれぞれ防ぐ効果なのですね。日焼け止めは、SPF・PAの効果と、使い心地の良さを考えて、自分に合うものを選びたいと思います。

―更年期に「肝斑(かんぱん)」も増えやすいと聞いたことがあります。肝斑とはどのようなシミなのでしょうか?
寺内 肝斑については、両頬のあたりに左右対称にできることが多いとされ、女性ホルモンの変動が関係しているという話もありますが、それだけが原因とはいえず、さまざまなことが重なって起こると考えられます。
肌老化のスピードを緩めるセルフケアは?
―肌の老化は、「加齢」「光老化」「女性ホルモンの減少」が複合的に関わり合って起きるということですが、大きなところで、手軽に取り組めるセルフケアがあれば教えてください。
【加齢対策】
寺内 加齢については、年齢を重ねることを止めることはできません。けれども、「更年期と認知機能の関係」でもお話ししましたが、心身ともに健康的な生活を保つことが、老化のスピードを遅くするためには、大切だと考えます。そのうえで、日々のお手入れとして、皮膚の乾燥が気になる方は、保湿ケアを重視されたり、質の良い睡眠を心がけたりすると良いのではないでしょうか。
参考記事:更年期と認知機能の関係
【睡眠対策】
睡眠については、「更年期と睡眠の関係」でも触れましたが、更年期には、不眠の症状を訴える方が少なくありません。よく眠れないことが、皮膚の調子を傾かせる一因になっていることもあると思います。
参考記事:更年期と睡眠の関係
また、不眠によって、うつ症状が現れやすくなることが分かっています。うつ症状が進めば、生活が不規則になったり、思うようにスキンケアができなかったりすることもあるでしょう。不眠の症状がセルフケアで改善しない場合は、更年期に理解の深い医師に、早めに相談してほしいと思います。

【スキンケア】
―エイジングや肌の乾燥の影響で、肌のターンオーバーが乱れると、古い角質が残り、肌をくすませるほか、キメが乱れて肌の潤いが逃げやすくなります。一日の終わりに、メイクや日焼け止めはきちんと落として、まっさらな状態にリセットを。洗顔料はたっぷり泡立てて肌をこすらないように洗いましょう。そして化粧水や乳液などで、潤いをたっぷり届けてキープを。美容成分を含んだシートパックも手軽です。あわただしくても、基本のお手入れを続けることが、みずみずしく健やかな肌につながります。
【光老化対策】
―紫外線対策についてはいかがでしょうか。
寺内 基本的には、皮膚を紫外線から保護することが重要です。紫外線は、一年中降り注いでいます。春から夏にかけて紫外線量は増えますが、特に近年の夏は猛暑が続き、日差しも強い日が続いています。外出時は、日焼け止めを塗る、UVカット効果のある帽子や日傘を使う、室内であれば、窓際を避ける、UVカット効果のあるカーテンを付けるなどの工夫をされると良いのではないでしょうか。
紫外線の強さは、気象庁がデータを公開していますので、そうした情報も参考にされると良いと思います。
参考記事:紫外線に関するデータ
ただし、適度な日光浴は必要です。というのは、皮膚に紫外線が当たると、体内でビタミンDが合成されるからです。ビタミンDは皮膚で8割作られ、食品から摂れるのは2割といわれています。カルシウムとビタミンDの組み合わせによって、骨密度が高くなることが分かっており、骨粗鬆(しょう)症の「予防と治療ガイドライン」では、1日15分ほどの適度な日光浴は必要、としています。
―骨粗鬆症対策に必要な日光浴はしつつ、それ以上はできるだけ紫外線を浴びないように心がけたいですね。「ビタミンD」のサプリメントも活用したいと思います。
【食べ物・成分】
―肌の弾力にアプローチしてくれる食品はあるでしょうか?
日本の研究※2で、「大豆イソフラボンアグリコン」を、1日40mg、12週間摂取した人の肌を調べたところ、摂取していない人と比較して、シワの面積が減少し、目の下の肌の弾力性が有意に改善したという報告があります。

寺内 植物由来のエストロゲンである「大豆イソフラボンアグリコン」は、エストロゲンと化学構造式が似ていますので、体内での働きに同様の作用が期待できるかを示した研究だと思います。
―紫外線対策に向く食品はあるでしょうか。「プロアントシアニジン」も強力な抗酸化作用で、酸化ストレスの軽減が期待できる成分と聞きます。
寺内 紫外線を浴びると、体内に活性酸素ができます。増えすぎた活性酸素を減らすための方法の一つとして、抗酸化成分は有効です。
―日々の食事をとったうえで、大豆イソフラボンアグリコン、プロアントシアニジンが摂れる食品を積極的に取り入れたり、食事の補完として、サプリメントを活用したりしたいと思います。
【減少する女性ホルモン対策】
―エストロゲンの欠乏に対しては、セルフケアとしてどのようなことができるでしょうか?
寺内 エストロゲンを補うことにより、皮膚のコラーゲンと水分が増加し※3、皮膚の厚さと弾性が回復するというデータ※4はあります。日々の食生活では、「大豆イソフラボンアグリコン」などの植物性のエストロゲンを摂ることも選択肢としてあると思いますし、医師と相談のうえ、ホルモン補充療法や、閉経後の骨粗鬆症予防や治療で使用されるエストロゲン受容体作動薬を選択されるのも一つだと思います。
―生活習慣ややセルフケアを見直して、肌が老化するスピードを遅くしていきたいと思いました。今回も貴重なお話をありがとうございました。
※2 Izumi 2007 J Nutr Sci Vitaminol
※3 Brincat 1983 BMJ、Sator 2001 Maturitas
※4 Chen 2001 Skin Res Technol
<この記事を監修いただいた先生>

寺内 公一 先生
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
▼詳しいプロフィールを見る
<インタビュアー>

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。