更年期のイライラ感、どうしたらいい?

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更年期を迎えて、イライラしやすくなった、という声をよく聞きます。これまでならやり過ごせていたことでも、なぜだかイライラしてしまう…。自分はもっと穏やかだったはずなのに…と感情のコントロールが難しくなったことに戸惑いを覚える人は少なくないようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京科学大学の寺内公一先生に、更年期のイライラ感やその受けとめ方について伺いました。



イライラ感は更年期症状の中でも、訴えの多いものの一つ

寺内先生(以下、寺内) 2004年に行われた地域住民を対象にした疫学調査※1では、イライラを感じる頻度が「非常にある」「かなりある」と答えた方は10%未満でしたが、「少しある」と答えた方は約50%いらっしゃいました。合計すると約60%の方にイライラ感がある、ということになります。

寺内 同様の疫学調査※2は、オーストラリア人女性を対象にも行われているのですが、日本の調査と同様に、イライラを感じる頻度が「非常にある」「かなりある」と答えた方は10%未満、「少しある」と答えた方は約50%、合計すると約60%の方にイライラ感がある、という結果でした。

この調査は、更年期に現れやすい症状21項目について調べているのですが、イライラ感は、日本では21項目中6番目に、オーストラリアでは7番目に訴えの多い症状でした。ちなみに、一番訴えの多かった症状は、日本、オーストラリアともに、「疲れやすさ」で約80%の人が感じていました。

寺内 はい。当院の更年期外来で、更年期症状を訴える方のお話を、日々お聴きしていますが、この調査結果は、私の実感とも合致します。

ただし、イライラ感だけを訴えられる、というよりは、複数の症状を抱えられていて、そのなかに、イライラ感が含まれている方が大半です。


※1 Anderson 2004 Climacteric/更年期女性における症状の頻度(日本人女性848名、45~60歳、住民サンプル)
※2 Anderson 2004 Climacteric/更年期女性における症状の頻度(オーストラリア人女性886名、45~60歳、住民サンプル)


更年期にイライラしやすくなる理由

寺内 更年期の症状の強さは、「身体的」「精神的・心理的」「社会的」の3つ、または「信念・生き方」を加えた4つの側面が大きく影響します。

イライラ感についても同様で、イライラしてしまう要因は、一つではなく、複数あるという視点が大切です。

イライラ感の要因の一つは、女性ホルモン(エストロゲン)のゆらぎです。女性ホルモンの分泌量は、閉経の前後合わせて3~5年くらいに、波打つように大きくゆらぎながら減りますが、この時期に更年期症状が強く出ることは、よく知られています。

他の要因として、人間関係があります。更年期は、女性を取り巻く環境が変わりやすい時期です。職場の人間関係、夫や子どもとの関係が変化し、さらに、実父母・義父母の介護、自分自身・家族の健康問題、お金の問題など、すぐには答えの出ない大きな問題が、一度にいくつも降りかかりやすい時期でもあります。

過度なストレスでイライラすることはよく知られていますし、不安感の表れの一つとしてイライラすることもあります。その背景に、うつ病などの精神疾患が隠れていることもあります。

寺内 イライラ感というと、「怒り」を思い浮かべることが多いと思いますが、実は複雑な要素をもつ概念で、「負の感情の状態」「心が安定していない状態」を表しています。負の感情のなかには、自分の人生はこれからどうなるのだろう、といった焦りや、落ち着かなさもあり、さまざまな要素が含まれています。

女性ホルモンのゆらぎ、人間関係などの変化、自分自身への問いなどが、掛け算のように膨らみ、更年期のイライラ感として現れているように思います。


PMSと更年期のイライラ感は同じもの?

寺内 それは以下の理由から、必ずしも同じとは言えないかもしれません。

●ホルモン量の変化の違い

プロゲステロン(黄体ホルモン)の変動について見ていきますと、PMS(月経前症候群)の場合、月経前(月経の1週間前くらい)に急激に上昇して下降し(大きく変動し)、それによって、さまざまな不快な症状が現れやすくなります。

一方、更年期は、エストラジオール(代表的なエストロゲン)が波打つようにゆらぎながら減少し、排卵が起こりにくくなりますので、プロゲステロンは、PMSほど上昇しません。

●イライラ感が現れるタイミングの違い

イライラ感については、PMSの症状がある方は、プロゲステロンが上昇する影響で、月経前になると、「家族など周囲の人にあたってしまう」「怒りが爆発してしまう」というお話を、外来でよく聴きます。

一方、更年期の方は、どちらかというと、元気が出なくなることが多く、疲れやすさ、うつ気分、不安といった他の症状を抱えながら、イライラ感もある方が多いように思います。症状が現れるタイミングも、月経前といった特定のタイミングではありません。

●症状の違い

PMSの場合は、乳房のはり、頭痛、関節痛、体重増加、むくみといった身体的症状と、抑うつ、怒りの爆発、いらだち、不安、混乱、人に会いたくない、といった情緒的症状が見られます。これらの症状は月経開始後4日以内に症状が解消し、少なくとも13日目まで再発しないと定義されています※3

更年期症状の場合は、疲れやすさ、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、発汗、冷え、不眠、抑うつ気分、頭痛、肩こり、物忘れ、腟の乾燥などの症状が現れやすく、女性ホルモンのゆらぎによって自律神経のバランスが乱れ、そのことが影響して現れる症状が少なくありません。こうした症状をともなう更年期のコアタイムは3~5年ほどです。


※3  American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG), Practice Bulletin 2011


更年期のイライラの受けとめ方

寺内 最初にお話ししましたように、更年期女性の約6割の方がイライラ感を抱えていらっしゃいます。つまり、更年期女性の2人に1人は、イライラ感があり、それは、世界的な傾向といって良いと思います。

普段穏やかで思いやりのある人ほど、イライラする自分を責めてしまいがちですが、女性ホルモンのゆらぎによって体調が傾きやすく、難しい問題もいくつも抱えやすい時期ですから、イライラが募ったとしても、それは無理からぬことだと思います。

自分を責めてしまいそうなときは、他の人も自分と同じようにイライラしていることを知ると、気持ちが少しラクになるのではないでしょうか。

もう一つの考え方として、イライラを表現できずに、内に溜め込んでしまう人のほうが、心の負担が大きいともいえます。

更年期の不調は、多くの場合3~5年ほどで落ち着き、女性ホルモンが少なくなったことに対して、少しずつ折り合いをつけられるようになっていきます。また、イライラすること自体は、ある意味自然なことでもあるので、イライラしたら、「更年期の一時的なことだから仕方がない」「内に溜め込まずに少し吐き出せた」と、前向きに割り切ることも大切です。



イライラ感を和らげる治療法

寺内 イライラ感といっても、強さや困り感は一人ひとり異なりますので、患者さんのお話をよく聴いて、その方に必要な治療を見極めつつ、治療法をご提案していきます。

患者さんのお話を聴くということ自体にも、治療的な効果があると考えています。患者さんご自身がお話しをするうちに、それまでつかみどころのなかったイライラ感が少しずつ整理されて、症状を強くしているその方を取り巻く人間関係などの問題に、患者さんご自身で気づいていかれることが少なくありません。

その上で、薬物治療を希望される方には、漢方薬の場合、「抑肝散(よくかんさん)」を処方することが多いです。抑肝散は漢方薬ですので、更年期障害だけに効くということではなく、先ほどお話ししたPMSや認知症の周辺症状のイライラ感で悩まれている方にも処方されます。また、不安感が強い方には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を処方することもあります。

HRT(ホルモン補充療法)については、HRTのみでイライラ感が抑えられるとはいえません。けれども更年期は、複数の症状が重なることが多いため、HRTの治療によって、その方の更年期症状全般が緩和され、その結果、イライラ感が改善していくということは考えられます。更年期に理解の深い医師とよく相談されるのが良いと思います。



「更年期QOLチェック」で自分の状態を把握する

寺内 更年期はさまざまな不調が現れやすい時期ですが、月経に変化があり、不調が現れてきたとき、「もしかしたらこのイライラは、更年期症状なのかもしれない…」と気づけると、思い詰め過ぎずに、イライラを少し俯瞰して見られるようになるかもしれません。

寺内 輝きプロジェクトに、「更年期QOLチェック」があります。このチェックリストは、当院の更年期外来でも用いている内容です。

リラックスする女性



自分に合うセルフケアをみつける

●散歩、入浴、アロマテラピー

寺内 イライラ感が気になるときは、リラックスでき、心地よいと感じる、自分に合うセルフケアを取り入れてみましょう。

寺内 お風呂にのんびり入ったり、好きな音楽を聴いたり、アロマテラピーなども手軽にできるセルフケアといえます。

ラベンダーなど、イライラした気分を静める効果が期待できる精油を利用するのも一つですね。手軽なアロマテラピーの方法に、ティッシュに精油を1滴たらして、部屋に広がった香りを楽しむというものがあります。寝る前に、好きな音楽を聴きながら、心地よい香りに包まれる時間を持つと、ぐっすり眠れそうです。

●他におすすめのセルフケア

・食生活の見直し

ヒトの体は食べているものでできていますから、もし、偏った食生活をしているのなら、栄養バランスの良い食事に切り替えましょう。少しの間であれば、偏った食事内容でもなんとか乗り切れますが、長びくと体調不良を招きかねません。1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいか、目安を知りたい場合は、「食事バランスガイド」(厚生労働省・農林水産省)が参考になります。

大豆イソフラボンを積極的に摂る

大豆には「大豆イソフラボン」という成分があり、体内で女性ホルモンのエストロゲンに似た働きや、不眠とうつの症状をやわらげる働きが期待できます。

大豆イソフラボンは、大豆や豆乳、納豆、豆腐などの大豆製品に含まれています。食材から摂ることが難しい場合は、サプリメントを活用するのも一つです。大豆イソフラボンアグリコンは、体内での吸収スピードが早いのが特長です。また、骨粗鬆(しょう)症予防とイライラ予防を兼ねてカルシウムもしっかり摂りましょう。

・適度な運動でリフレッシュ

運動やスポーツには、心と体をリラックスさせ、睡眠リズムを整える作用があることが分かっています。更年期症状を和らげる効果も期待できます。厚生労働省では、体のなかに空気を取り入れながら行う有酸素運動を勧めています。体を動かす目安は、息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上、筋力トレーニングは週2~3日が目安です※4。運動するまとまった時間が取れないという人は、生活のなかで、思いきり体を動かして、活動量を上げましょう。洗濯や掃除は、体を大きく動かすチャンスです。隣駅のスーパーまで歩いたり、駅では階段を使ったりしてみましょう。

・睡眠の質を高める

朝、太陽の光を浴びたり、朝食を食べたりすると、体内時計がリセットされ、夜自然に眠くなります。規則正しい生活習慣を送り、日中の活動と夜間の睡眠のメリハリをつけることで、睡眠の質が高まります。寝室は暑すぎず寒すぎない温度にし、眠る時間の約1~2時間前に入浴して、体を温めてから寝るようにすると、入眠しやすくなります。できるだけ静かな環境で、着心地の良い寝衣や寝具で眠ることも良い睡眠につながります※5

・「べき思考」を手放す

イライラするのは、ある意味自然なことですので、「イライラしてはいけない」という想いにとらわれ過ぎるのは良くありません。適度なイライラであれば、仕方がないと受けとめるのも一つです。あるいは、イライラしたら、「イライラしているな、じゃあ、好きなことをしよう」と、気分転換をするきっかけにするのもいいのではないでしょうか。

・信頼できる人に話を聞いてもらう

「こんなことでイライラしたんだ…」など、気にかかることを、信頼できる人に打ち明けて、思いを手放すのも一つの方法です。共感してもらえるだけで、気持ちがラクになることがあります。身近に話を聞いてもらえる人がいない場合は、更年期外来などで、専門的な知識や技術を持つ、医師や臨床心理士のカウンセリングを受けてみましょう。有料でお金はかかりますが、守秘義務があるので、安心して話せるはずです。


※4 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(厚生労働省)
※5 健康づくりのための睡眠ガイド2023



周囲の人はどんなサポートができる?

寺内 イライラしている本人を理解しよう、と努めつつ、更年期でイライラしやすくなっているのかもしれない、ということを念頭に、接するようにされると良いのではないでしょうか。

寺内 いらっしゃいます。ホットフラッシュなどの症状について、ご夫婦で来院されるケースは少ないのですが、パートナーのうつ症状や不安、過度なイライラなどを心配して、お二人で来院される方はいらっしゃいます。

パートナーの方も、患者さんのイライラ感に戸惑い、どう受けとめればいいのか分からず、相談したい想いもあって、付き添われていることがあります。そうした場合は、患者さんのお話をよく聴き、患者さんを支える方の想いもよく聴いて、その方に合う治療方法を考えてご提案しています。

病院に付き添えなくても、パートナー側の「一緒に病院に行くよ」というサポーティブな姿勢が伝わるだけで、患者さんのつらい気持ちは和らぐのではないでしょうか。

セルフケアに取り組んでみたけれど、イライラ感が続いてつらい場合は、早めに更年期外来を受診してほしいと思います。「イライラくらいで…」などとは思わずに、医師と二人三脚で、一緒に乗り切りましょう。つらいときは一人で抱えないことが大切です。



<この記事を監修いただいた先生>

寺内公一先生

寺内 公一 先生
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
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<インタビュアー>

満留礼子

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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