更年期から閉経以降に増えるGSMとは

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更年期以降は、女性ホルモン・エストロゲンの分泌量が低下します。その影響で、外陰部のかゆみや腟の乾燥、性交痛、出血、おりものの異常など、不快な症状が現れやすくなります。デリケートな問題でもあるため、誰にも相談できず、1人で悩みを抱えてしまう人は多いようです。そこで今回は、更年期の専門医である東京科学大学の寺内公一先生に、GSM(閉経関連尿路性器症候群)について伺いました。更年期を上手に乗り切るためのヒントがいっぱいです!

記事まとめ
●GSMは、閉経後の外陰部や腟、尿路に起こるさまざまな不調全般を指す概念。
●症状には、乾燥感やかゆみ、性交痛、頻尿、尿もれなどが含まれる。
●背景には、閉経後のエストロゲン低下による腟や外陰部の変化がある。
●気になる症状が続くときは、我慢せず早めに医療機関へ相談することが大切。
●治療やセルフケアの選択肢を知ることが、閉経後の不快感を和らげる第一歩になる。



GSMとは?

寺内先生(以下、寺内)  はい。「GSM」は、Genitourinary Syndrome of Menopauseの略で、日本語では「閉経関連尿路性器症候群」と訳されます。

2014年に、国際女性性機能学会と北米閉経学会によって提唱された概念で、閉経後女性の泌尿生殖器に関わる不快な症状や病気全般を指す新しい概念です※1


※1 Portman 2014 Menopause 21:1063


GSMの症状は大きく3つあります

寺内 GSMには、下記のようにさまざまな症状があります。GSMは、これらの症状を閉経後のエストロゲン低下によって起こる「慢性かつ進行性の泌尿生殖器の病気」と大きく捉え、治療につなげるための概念です。

●外陰と腟の症状
外陰や腟の乾燥感・灼熱感、おりものの異臭など

●性的な症状
性交時の潤滑不足、不快感、疼痛などの症状、性機能の低下、意欲の低下など

●下部尿路の症状
頻尿(トイレが近い)、夜間頻尿(夜中に何度もトイレに行きたくて起きる)、尿意切迫感(我慢できない突然の強い尿意、過活動膀胱の主症状)、尿失禁(尿もれ)、尿路感染症(膀胱炎など)



GSMは更年期と閉経後の谷間で起こる問題

寺内 まず対処すべきなのは、「外陰と腟の問題」だと思います。

GSMが提唱されるずっと前から、腟が乾燥し厚みを失う腟萎縮症状は「萎縮性腟炎」として治療されてきました。しかし、腟だけを治療するのではなく、もう少し大きな枠組みで捉えていこうという考え方がGSMです。

更年期の後半は、エストロゲンが激しくゆらぎながら減少するため、ホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状や精神症状が現れやすくなります(更年期症状)。更年期症状の場合、原則として臓器や組織に異常は見られません。

一方で、エストロゲンが分泌されなくなる閉経後は、臓器や組織に異常が見られ始めます(エストロゲン欠乏関連疾患群)。たとえば、脂質が血管壁に蓄積して血管が硬く狭くなる「アテローム性動脈硬化性心血管疾患」、骨が弱く脆くなる「骨粗鬆(しょう)症」、脳の組織がダメージを受ける認知症などがあります。

腟粘膜の萎縮は、エストロゲンの分泌が低下すると、割合早い時期に現れますので、更年期症状とエストロゲン欠乏関連疾患群の谷間に位置する症状といえます。



閉経後に腟が萎縮するしくみ

寺内  腟の粘膜には、エストロゲンの作用で、グリコーゲンをたくさん含んだ上皮細胞があります。上皮細胞が成熟して剥がれ落ちると、乳酸菌は、上皮細胞に含まれるグリコーゲンを利用して、乳酸代謝を行います。

その結果、腟内は酸性(pH 3.5〜5.0)に保たれ、常在菌以外の菌は生育しにくくなります。このことを「腟の自浄作用」といいます。

腟は、赤ちゃんを育む子宮とつながっていますので、赤ちゃんを細菌から守るために、このような特別なしくみが発達しているのです。

寺内 しかし、閉経を迎えてエストロゲンが分泌されなくなると、腟の上皮細胞の増殖が止まり、腟粘膜は萎縮して薄くなります。外陰部も縮んで小さくなります。

そのため、腟が乾燥して傷つきやすくなり、性交痛や出血、下部尿路症状などが現れやすくなります。

また、腟の上皮細胞内のグリコーゲン含有量が低下すると、常在菌である乳酸菌も減少し、腟内のpHが上昇します。そのため、腟の自浄作用が低下し、「非常在菌」である腸内細菌なども繁殖しやすくなります。

膣炎や膀胱炎に悩む更年期の女性



腟の乾燥を実感している人はとても多い

寺内 438名のオーストラリア人女性(45-55歳)を対象とした7年間の縦断的研究(Melbourne Women’s Midlife Health Project)によると、腟乾燥の有症状率は、閉経前が3%だったのに対し、閉経後3年で47%と、急激に上昇することが報告されています※2

寺内 別の研究として、アメリカ人女性8,081人を対象にした調査※3があります。この調査では、閉経後女性の38%に外陰腟萎縮が見られました。そのうち、55%に腟の乾燥感があり、44%に性交痛の自覚があると報告されています。


※2 Dennerstein 2000 Obstet Gynecol 96:351
※3 Freedman 2014 Women’s Health 10:445



閉経後、性交痛で悩む人が増える

寺内 はい。当院の更年期外来を受診されている患者さん1,464名を対象にした調査※4では、性交時の強い痛みを感じる方は、閉経前7.1%、閉経移行期10.5%、閉経後14.6%と増加していました。また、ホルモン補充療法を行うと、強い痛みを感じる方の割合は7.8%になり、閉経前と同程度まで戻ることも分かりました。

同じ調査で、閉経後の経過年数によって、性交痛に悩む人の割合がどのように変化するのかも調べました。強い痛みを感じる方の割合は、閉経後2年未満では12.1%、閉経後2~5年で18.8%、閉経後5~10年で13.3%、閉経後10年以上で11.9%でした。

寺内 はい。閉経後2~5年が一番多いという結果になりました。これは、閉経後に性交をしない方が増えていくためと考えられます。

また、多変量解析で性交痛との関連を検討したところ、BMI値や体脂肪率が高い方ほど、性交痛は少ない傾向があることが分かりました。

寺内 そうです。エストロゲンは卵巣から分泌されていますが、体脂肪からもごく少量産生されています。そのため、閉経後に体脂肪率が高い場合は、体脂肪で産生されるエストロゲンが性交痛にも影響するのではないかと推察されます。


※4 Terauchi 2022 J Obstet Gynaecol Res



更年期外来で訴えの多い症状は?

寺内 自覚症状としては、外陰部のかゆみ、腟の乾燥、性交痛、出血、おりものの異常などを訴える方が多いです。診断名としては、萎縮性腟炎や細菌性腟症が挙げられます。また、腟内の細菌の影響で尿路感染(尿道で炎症が起きること)が起こり、頻尿や尿もれが現れやすくなることもあります。



医療機関を受診する目安は?

寺内 閉経後に出血がある、性交痛がある、おりものに異常(量や色、臭い)がある、かゆみが続くといった場合は、GSMを疑います。市販の保湿剤や抗炎症薬を使っても症状が続く場合は、ためらわずに医療機関を受診していただければと思います。



何科を受診すればいい?

寺内 何科というよりも、GSMに理解の深い医師とつながることが大切だと思います。

外陰部のかゆみ、腟の乾燥、性交痛、出血、おりものの異常は、独立した問題でありません。これらは、GSMという言葉が示すように、互いに関連しています。

更年期を迎えると女性の体と心は大きく変化します。そうした変化に理解の深い婦人科や更年期外来であれば、閉経後の泌尿生殖器の違和感や不快感についても、相談しやすいのではないでしょうか。

たとえば、日本女性医学学会のホームページにある「近隣の専門医・専門資格者を探そう」では、女性の心身に理解の深い「女性ヘルスケア専門医」を紹介しています。そこで紹介されている医療機関を受診するのも一つの方法です。

●日本女性医学学会ホームページ「近隣の専門医・専門資格者を探そう


また、性交痛については、日本性科学会のホームページで「セックスカウンセラー・セラピスト」を紹介しています。

●日本性科学学会「セックスカウンセラー・セラピスト一覧


受診する人が少ないことが問題に

寺内 はい。エストロゲンの低下にともなうGSMの問題は、更年期、そして更年期以降の女性にとって大きな問題です。一方で、治療につながる人が少ないことも課題です。

55-65歳の欧米人女性を対象にした調査では、約40%が腟萎縮症状を自覚していますが、そのうち70%は病院などで症状を訴えないという報告があります※5

日本人女性の場合、この割合はさらに高いと考えられます。そのため私は、日頃の診察で「腟の乾燥で困っている人は多いのですよ」「もし困っていたら伝えてください」と声をかけるようにしています。


※5 Maturitas 2010, 67(3):233-238.


GSMの治療法は?

寺内 治療には、主にホルモン補充療法があります。

(1)局所的ホルモン療法

エストロゲンの局所投与薬、エストリオール(E3)腟錠を選ぶこともできます。1日1回0.5~1.0mgを腟内に挿入します。性交痛の改善が期待できます。

局所投与の利点は、血清E2(エストラジオール)が上昇しない点と、合併症のリスクがない点です。また、閉経後10年以上の方も治療を受けられます。

治療方法の一例としては、腟の洗浄を行った上で、エストリオール(E3)腟錠と、抗生物質クロラムフェニコール腟錠の挿入を行います。

局所投与の薬は、日本ではエストリオール(E3)腟錠のみですが、諸外国には、さまざまな薬があります。

(2)全身的ホルモン療法

全身投与には、考慮すべき副作用があります。そのため、ホルモン療法を行う理由が腟萎縮症のみである場合には、必ずしも全身的投与は最適とは言えません。腟萎縮症以外に、ホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状をはじめとする更年期症状がある場合は、効果とリスクについて検討した上で、行うことが望まれます。

全身投与を行う場合は、飲み薬、貼り薬、塗り薬がありますので、医師と相談しながら、ライフスタイルに合あったものを選びましょう。

ホルモン補充療法(HRT)ってどんな治療法?」も、参考にしていただければと思います。



外陰や腟の乾燥対策のセルフケアは?

寺内 保湿については、市販のモイスチャライザー(常時使用)と、リューブリカント(性交時のみ使用)があります。水溶性、脂溶性の違いや、成分もさまざまありますので、自分に合うものをご購入されると良いと思います。

寺内 まずは栄養バランスのとれた食事をしっかりとりましょう。そのうえで、GSMはエストロゲン低下の影響を受けますので、エストロゲンの働きに近いような栄養素を意識してとると良いと思います。

たとえば、大豆イソフラボンという成分は、植物性エストロゲンとも呼ばれ、体内でエストロゲンに似た働きをすることが知られています。豆腐や納豆、豆乳などの大豆製品に含まれています。


<この記事を監修いただいた先生>

寺内公一先生

寺内 公一 先生
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
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<インタビュアー>

満留礼子

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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